第6話 学校まるごと転移の途中②
「実はこの光景、あの海な、最初はもっと薄かったんだ。それがどんどん濃くなってきている。まるで“水没”していくような感じだ」
「実体化しつつある……?」
「やっぱりそうか? 止める方法はあるか?」
「わかりません。ただ転移の途中だとしたらまだ可能性はあるかもしれません」
僕はそう言うしかなかった。
気休めにしか聞こえなかっただろう。
僕自身、自分の言葉を信じることはできなかった。
転移の途中……そういうパターンは僕の知識にはない。
「ショータは自宅から学校に転移してきたんだよな? どんな感じだった?」
「一瞬だったと思います。寝てて、いきなり」
ぐっすり眠っていたので、徐々に転移していった経緯を感じなかった。
僕が学校に転移した際も、最初は二重存在として認識されていたのかもしれない。
「夢の続きのような感じでした。気づいたら校庭にいたというか」
「目撃したやつの名前とか分かるか?」
「分かりません」
「顔をみればわかるか?」
「はい。でも転移の瞬間を見た感じではありませんでした……」
藤堂先輩は嘆息するように上空を見上げた。
すみません……。
「いやショータを責めてるわけじゃない。俺なりに何かできることがあればいいと思ったんだが、これはもう高校生がどうこうできるレベルじゃないみたいだな」
いやいや最初から高校生には無理でしょ……とは口に出さなかった。
藤堂先輩は本気で何とかしようとしていたのだろう。
(こういう人をアルファというか、ヒーロー気質というか、そう言うのだろうな)
僕の十六年の人生のなかで初めてみるタイプだった。
たまたま今回お世話になったけど、もともと僕なんかとは無縁の世界の人なんだと思う。
「僕たち、どうなっちゃうんだろう?」
弱音を吐いても仕方がないこととはいえ、どうしても言わざるをえなかった。
「なるようにしかならない。覚悟を決めるしかないな」
藤堂先輩は明るく言った。
「異世界転移も悪くないかもしれないじゃないか? ショータの好きな小説のように」
それはフィクションとして好きなのであって……
そもそも現実逃避の心のオアシスが娯楽文化というものであって……
平和だとされる日本社会にすら適応できない僕だ。異世界なんかで生き残ることなんて……
そのとき、屋上の扉がバーンと開いて、慌てて飛び込んできた男子生徒がいた。
ひょろりとした小柄な身体に、なぜかいつもギターケースを背負っている。細面で鼻梁が高い。メガネが似合っていた。
元・生徒会長の
「藤堂! やはりここにいたか! 大変なことになってしまった! 転移のことがバレた! もうごまかせない!」
「なんでいまさら! ここにいるショータだって転移してくるのを目撃されている!」
「君が小森くんか?! 君のことは白皇くんが何とかおさめてくれた!」
先輩たちの話っぷりだと、僕以外にも転移してきた人がいる感じだ。
「今度は無理だ! 学校をサボって遊んでいた女子が三人、校庭に転移してきたんだ! みんなの騒ぎがおさまらない!」
「また校庭か?! それに三人同時かよ!」
「それが三人とも温泉旅行に行っていて……」
ピンときた。
その三人は昼間っから温泉につかっていたんだ。
それはつまり……!
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