パーティ説明


 次の組も待っているということで、アゲハはラナンさんから一通りの冒険者グッズを受け取った。

 おれたちはチームで組んでいるけど、ツバキとコスモスの他のエルフたちはみんなソロで冒険者をやるようだ。

 全員魔法使いだから、他のクラスを持つメンバーを探すのだろう。

 というより、他クラスのメンバーがいないと役割みんな同じになっちゃうからね。

 鍵を開けるのに5人もいらないからね。

 ラナンさんの説明と冒険者登録の説明が行われるのを背に、おれたちは長椅子の方へと移った。

 説明を始めるよりも先におれはアゲハに釘を刺す。


「普通に説明してくれ頼むから。ふざけ入れられると頭の中に入ってこないから。なっ? お前と同じ行動をしている奴らも毎回ふざけているわけじゃないだろ?」


 アゲハはおれの唇に人差し指を置き、「まぁみなまで言うな」と空かして見せた。

 ウザいので立てられた人差し指をおれは咥えてやる。

 指を噛まれているアゲハはおれをじっと見つめてくる。


「真面目にやろうとしていたからそういうのはちょっと」


「あっはらまひめにやれ。めんどくはい」


「はいよ! 真面目な解説1丁! ってことで、アゲハの完璧冒険者入門解説をはっじめっるよぉ!」


「まひめはどほいっは」


「まずね、ここ勘違いなんだけどそもそも冒険者にランクなどありませーん! あるのは冒険者本人のレベルでっす! あっこれも言っとくけど、油断してるとレベル9でもレベル1にやられっからね!」


 ほんとに真面目にやる気か。

 だったらとおれは咥えた指を放す。

 なお、高レベルが低レベルに敗北した事例として、おれとブレイジング・ゴブリンが挙げられる。

 あいつレベル17らしいからね。ばけもんかよ。

 少し水っぽくなった指を、アゲハは特に騒ぐことなく隣にいるねえさんの服で拭いていた。


「その強さはどう図るんだよ」


「それはこれ! パンパカパーン! 成績神せいせきがみ! 魔道技術で作成された魔道具でね。これに闘気でも魔力でも何でも自分の力を染みこませることによって、いついかなる時でも強さの測定をできるようになります! あくまで目安だけどね」


 そう言ってアゲハは名刺くらいの紙を1枚ずつ差し出してきた。

 アゲハは見えるように紙を握り、使い方を実践してくれる。

 おおぉ、なんか紙に数字が浮かび上がってきた。

 アゲハの僧侶レベルは3か。

 同じようにやってみると、おれは戦士レベル2、ヴァイキングレベル2と出てきた。

 ねえさんは魔法使い2。

 あくまで分かるのはレベルだけのようでステータスとかは浮かび上がらないようだ。

 だから目安なのね。

 後ろから「なんでレベル1なの!」って知り合いのがなり声が聞こえるけど無視だ無視。


「みんなできたね。チームにはランクがあります。これはチームメンバー全員のレベルが基準値を上回った段階で上がります」


「チームレベルが上がるとどうなるんだ?」


「良い質問です、1.1歳の旦那。チームレベルが上がると、魔物の強いダンジョンに潜り込めるし、国の方から依頼が届くようになります。報酬で【祭具】を貰えることも!」


「報酬で【祭具】貰えるの!? 自分らで使えばいいじゃん」


「そうは問屋が卸さない。知っているか! 【祭具】は【祭具】から認められないと使えない。だから多くの場合、報酬として出回ることが多い。分かったかね? 【祭具】持ちの旦那」


 アゲハはおれの水羽に手を突っ込み、猫の顎を撫でるみたいに動かしている。

 ……うぜぇ。

 ねえさんが珍しく挙手をする。


「【祭具】はいくつ持てるの?」


「おぉん? 認められる限りだぜ、ルメルメ。ぶっちゃけ大抵の場合、本人の力量らしいからね。強くなれば自然と認められるさ」


「【祭具】にランクとかは」


「あんよ。神とか英雄とか固有ユニークとか。使えない神ランクの【祭具】より使いこなせる最低ランクの【祭具】の方が強いぜ。だから旦那、決して最強の力を手に入れたとか自惚れないでね。じゃないと」


 そう言ってアゲハは後ろのエルフたちに目を向ける。

 そこではヒュアンの魔法使いに拘束されたツバキたちの姿が。

 さっそく分からされちゃったかぁ。

 それと使えない神ランクの【祭具】について、それはもう海の如く理解している。


 アゲハは次から次に備品を取り出しては説明してくれる。


「この麻袋は別名【手提げ宇宙】。際限なくアイテムを入れられるけど、重量も際限なく加算されるからね。魔物の素材は色々な用途で使うから入れるように。換金はここじゃなく冒険者組合だかんね。それから魔物の討伐数は成績神に記録されるからそっち参照ね。倒された魔物の力の残留を吸収して記録されるらしいよ」


 さらに成績神は身分証明書と通行証明書になるようで、町や国を渡るときに見せれば無料で通れるとのこと。

 これは冒険者組合が代わりに出してくれているようで、冒険者は報酬の一部を毎回支払っているらしい。

 税金かな?

 最後に紙を無くさないためのポケットサイズのケースまで貰った。至れり尽くせりだ。


 アゲハは次に申請書と書かれた紙を椅子の上に置いた。


「んで、これはパーティ申請書。冒険者申請書とは別だかんね。リーダーと名前を決めないとね。誰がリーダーやる?」


「ライカが始めた冒険だから、ライカで」


 ねえさんは羨望の眼差しをこちらへと向けてくる。

 止めて、リーダーなんて柄じゃない。


「私がリーダーやっても良いよ! 面白おかしく生足を強要する恥ずかしい毎日をお届けしよう!」


 空中で8の字に回るアゲハ。

 なるほど、消去法でおれと。

 おれは貰ったパーティ申請用紙につらつらと羽ペンを動かしていく。

 こういう紙に何かを書く音、地味に好き。

 リーダーは消去法でおれになったけど先にねえさんに言っておきたいことがある。


「作戦立案とか陣形とかはねえさんに一任して良い? リーダー秘書みたいな感じで」


「良いよ。ライカは偉いね。ちゃんと客観的にメンバーを見ている」


 そう言ってねえさんはおれの頭を胸に抱いて撫でてくれる。

 なんでだろう、すんごい遠回しに馬鹿って言われた気がする。

 それとはっきりとこの中で自分が頭良いって自負されたような気がする。

 その通りだからなんも言えない。

 それから次にぶち当たるのがパーティ名。

 これもどうするか、ねえさんとアゲハに尋ねてみる。


「どうでもいい」


「はいはい! 幼女の理想郷! とかいいと思う!」


 元気に挙手をして、大声で叫ぶアゲハ。


「流石にそれはちょっと……」


 男チームならいいと思う。面白くて。けど、女子でやるのはなんか違くない?

 目的とチーム名を一緒にすると後で恥ずかし……く思うのはおれだけだろうな、きっと。


「じゃあじゃあ! ハーレムへの道! 可愛い女の子の生足を舐め隊! 幼女の裸を探求するもの」


「良いセンスだと褒めてやりたいところだけどチーム名じゃないんだよな! あと、裸に関しては自分のを見てろ」


「ブーメランじゃないですかぁ! ロリコンペド旦那ってばマジワロス!」


 平常心。平常心。


「考えてくれるのは嬉しいんだけどね。チーム名にしろって言ってんだよ! 誰も目的目標の話はしてないだろうが!」


 ここ教会なんだわ。【僧侶】のアゲハさんや。

 他にもいっぱい人いるんだわ。

 なんか知らないけど周囲から向けられるのは、微笑ましさ溢れる目線だけど。

 多分エルフだけだったら嫌悪感マックスな目何だろうね。

 ミサキのアゲハと一緒に話しているから、友達感覚だとか思われているんだろうね。


「じゃあ……王道を征く【ライカ銀河系】? 見た目十歳児が集まる、十年紀、【ディケイド】とか! 旦那の夢をまんまにして【百合の園】とか」


「百合の園はキープで」


「じゃあ【ヤオヨロズ】! 東の大地にある神名で様々な信仰が寄せ集まった名前。多様性の集う場所っていう意味にもなる」


「いいじゃん。ナイスだアゲハ」


 アゲハは褒められると見てわかるくらい喜んでいる。

 こうしていると可愛いのにと、おれはパーティ名欄に【ヤオヨロズ】と書き込む。

 ……少しくらい中二病でも良いよな?

 うん。1周すればカッコいいと思える……はずだ!


「良いでしょ? アーナソンっていう異世界から来た種族に聞いたんだ!」


「異世界から……来た?」


「そうそう! 見た目ヒュアンと同じで日本? から来たって。みんな個性的で面白いんだよ! 奴隷を買いあさったり、革命だと騒いだり、チート能力がどうたら、技術とか色んな遊びを普及させる人もいるんだ! ちなみに私の原点もアーナソンから」


 アゲハがさも当然といった様子で面白がっている。

 日本……。

 ……えぇ。おれ以外にも異世界から来た人っているの?

 いつかおれの前にあたかも自分が考えた料理みたいにどや顔披露する奴が出てきたりするの?

 ねえさんが鼻で笑う。


「あり得ない。異世界なんて。集団で幻影魔法を掛けられただけ」


 それがあり得るかもって話なんだよな。


「かもね、私もよく分かんない」


 なんにせよ日本人がすでにいる世界なのね、ここ。

 料理とかできないから逆に助かったかもしれない。

 名前も声も知らない日の丸人、異世界文明開化ありがとう!

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