種族差別
どんな感想を持てばいいのだろう?
ねえさんとゴブリンがいがみ合う。
近くには15匹ほどのゴブリンが転がっていた。
途中でゴブリンたちが行く手を遮って来たので、8年前とは違うんだぞってことで戦ったんだけど圧勝した。
そんで最後の1体に止めを刺そうと、ねえさんが魔法を打ち込んだところ、手負いにも拘らず外した。
それから3分ほどずっと外しまくっていた。
……そうだよな、おれが8年前に襲われたときはどこ狙っても当たる数だったもんな。
今思えばねえさんの魔法練習は見たことなかったからエイム力低いの知らなかった。
これにはくるみとおれは苦笑い。
「素晴らしい。1撃目と2撃目で距離感を掴む。3、4と威嚇射撃。5、6と慈悲のある逃がすための魔法。仕留めたのは20発目という非常に長い付き合いの良さを見せました。これをどう見ますかね? 解説のウォーターの旦那」
「こっち振んな。頼むから」
アゲハはというと、ねえさんの戦いを実況していたので軽く小突いておく。
遠回しにねえさんの命中精度を煽るんじゃないよ、まったく。
汗を拭い、やってやった感を出して笑うねえさんを侵入者たちが嘲笑う。
「お前今まで何やって来たんだよ! 雑魚すぎんだろ!」
あまりにもドストレートな物言いに、ねえさんは侵入者たちを睨みつけた。
「雑魚を1匹として捕まえることのできなかった奴らからの言葉ですが、どうでしょう? ウォーターの旦那」
「そうですね。エルフの子どもに接近戦で良いようにやられたキングオブ雑魚の称号を与えたいところです、って何を言わせんだこの野郎」
メスガキみたいになるから止めろ。
アゲハは何が楽しいのか分からないが、おれの周りを飛び回っていた。
ねえさんはというとしゃがみ込み、指先で字を書いて完全に拗ねていた。
「いいよ、どうせわたしは足手まとい」
「だ、大丈夫だって! ほらっ、ねえさん頭良いし。作戦とか考えてくれると嬉しいし! ねえさん色々魔法使えるから日常生活楽になるよ!」
「……うん、もっともっと魔法の研究を進めるから!」
――活かせなかったら宝の持ち腐れなんだよ。
いつかどこかで聞いたことがある言葉をおれは喉奥にしまいこむ。
ねえさんいるだけで身の回りの色々が解消するから良いじゃないか。うん。
やる気になってくれただけ良いじゃないか! うん!
「これが猫に太小判ですか」
「黙れよアゲハァ!」
おれは飛び回るアゲハを掴み、そのもちもちとした感触のある両頬を引っ張る。
お前本当に。
言っていいことと悪いことがあるだろお前ぇ!
ねえさんは顔をリンゴのように真っ赤に染めて行く。
それから何も言わず、侵入者たちに杖の矛先を向けていた。
魔法陣を浮かせ、今にも魔法を放ちそうなねえさんをくるみが「まぁまぁ」と諫めていた。
……なんだかなぁ、初手からぐっだぐだになってきた。
* * *
森を抜けると、1番最初に聞こえてきたのは大勢の人々が賑わう声だった。
ガヤガヤと。本当にうるさくて、絶えなくて、ファンタジー世界らしい喧騒。
次に感じるのはにおいだ。
肉! この焼けた香ばしいにおいは間違いなく肉だ!
口の中が少し塩っぽくなって引き締まる。
町から流れる風は妙に冷たくて、おれは手で身体を擦っていた。
正面には敵を寄せ付けない、鉄壁の大口門。
どこまでも雄々しい守りを感じさせる。
その先には白い太陽に照らされて、石レンガの街並みが広がっていた。
ここからでも見える大きな風車小屋は4つの羽をゆったりと回していた。
門前にはもう既にツバキとコスモスたちが集結していたようで、現財布であるおれたちに目線を集中させた。
門の両脇にいる鎧を着こんだ警邏兵と思しき兵士はというと、明らかな警戒心マックスでおれとねえさんの姿を見るや、鋭い目つきをぶつけてきた。
「またエルフか」
「私たちもいるでござるよ」
「100万飛んで右に同じく」
くるみとアゲハが前に出ると、警戒心を見せていた警邏兵たちは明らか軟化した態度で口笛を吹く。
「くるみ! お前帰ってこないから死んだのかと。傍若無人な奇跡の落とし子一緒じゃねぇか」
「こっちのライカ殿に助けられたでござるよ。良い意味でエルフらしくないエルフでござる」
くるみはそう言うとおれの首にもたれ掛かる。
……大丈夫? 身長差かなりあるよ? 腰痛めない?
アゲハが1回ターンしてキメポーズを取る。
「なんだと! こんな天才可愛い超絶神様から愛されし慈悲深アゲハ・エスプリットちゃんが傍若無人なんてそんなのおかしいよ!」
「おおウゼェ」
そんでアゲハは同じくウザがられていたのか。
ただ声が軽いのを聞くに、一種の返し典型文なんだろう。
「エルフがかぁ? どうにも信用ならんな」
警邏兵はおれの目を上からじっと覗き込む。
兜の内側にある瞳はすっと横にスライドして侵入者へ。
くるみの言っていたお尋ね者と言うのは本当に正しかったようだ。
他の警邏兵が連絡を取っていたようで、迅速な対応で侵入者たちをしょっぴいていった。
「あいつらを殺さずに捕らえたことは感謝する。だが、ここはお前らの森じゃない。俺たちヒュアンや、他種族が暮らす港町だ。2人の知り合いでも変なことをしたら追いだすからな」
ごもっともだ。
本当にごもっともなんだけど、しかしねえさん以外のエルフたちはそうでもなかったようで。
「無特徴種族が偉そうに」
「ほんとほんと! まっ、群れないと勝てない蛮族にはお似合いよね!」
「精霊の寵愛を受けられないんだ。お頭が弱くても仕方ない」
などと口々に警邏兵たちを煽っていた。
コスモスは多少の無関心を貫いているようだけど、不快感を露わにしている。
ツバキは他のエルフたちと一緒になって警邏兵を罵倒する。
ねえさんはくるみから町の情報を聞き出し、おれはその場で土下座する。
「ほんっっとうにすいませんっ!! ウチの種族がっ!!」
「おい止めろって! 娘くらいの歳の奴に土下座されたら居心地悪いだろ! まぁ気にすんな。自分らの常識が通用すると考えている田舎者なんてみんなこんなもんよ。ハハハ!」
「ほんとすんません。みんなの反応こそエルフ内の常識なんで」
「そ、そうか」
この警邏兵マジで人が良いな。
あれ普通に種族差別だからな?
それと、騒いでいるエルフの対応は他の警邏兵が対応してくれているようだ。
今はくるみも一緒になって諫めてくれているようだけど……効果は薄いなぁ。
警邏兵は闘気をむんむんに放つくるみへ目を向け、意外そうな声を漏らす。
「あいつ大のエルフ嫌いで森に入ったのに。エルフの友人を連れてくるって、珍しいこともあるもんだな」
「えっ、そうなんですか?」
「聞いて無いのか? エルフらしくないって言っていたし、あんたは1エルフとして認識されていたのかもな。それでこの先どうするつもりだ」
「冒険者にでもなろうかと。あそこは旅するので名誉と名声、金に知識も手に入りますので」
「冒険者ね。子どもは誰もが夢見る荒くれ集団だが。まっ、俺たちは面倒ごとを起こされなければそれでいいよ。メンバーもあんたがいれば安泰だしな」
「いえ。おれはねえさんとアゲハもか。3人でパーティを組むのであっちとは別行動ですよ?」
警邏兵は見てわかるくらい天を仰いだ。
絶対マジかよって思っているんだろうな。
逆の立場ならおれも全く同じこと考えるわ。
けどエルフの事情を抜きにして1パーティ6人中5人魔法使いはやりすぎだと思うんだ。
お気の毒にと、おれは他エルフの対応を完全に丸投げするのと共に最初に知りたいことを質問する。
「それで何ですけど、まず常識を学べる場所ってどこにあるか知りませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます