第6話 温泉

翌朝は、快晴の下起床した。京都から姫路を目指す。姫路は、京都からは少し遠いが、JRの新快速を使えば、それほど長いわけでもない。午前中には姫路に着き、姫路城の観光をする。航は、桜に覆われた白色の姫路城に感嘆の声を漏らし、樹奈は久しく見る姫路城が変わっていないことに安堵の息をついていた。姫路城の中に入り、天守閣も登った。太陽は、ちょうど真上にある。今日は雲一つない青空であるため、少しばかり暑い。特に、北海道出身・在住の航からすれば、この暑さは春と言えど応えるものがある。ということで、昼食を取った後は、三宮や神戸などの兵庫でも栄えた場所に戻り、お土産を眺めて夜まで待った。

「誰に渡すの?」

「渡す相手はいないからな。全部自分用だよ。」

「あ、そうだったの。それにしてはたくさん買うね。」

「まあ、旅行という非現実はやがて終わらざるを得ないからな。お土産は、その非現実を微かに残してくれるから好きなんだ。」

「そんな理屈は求めてなかったでーす。」

「そうか。すまん。」

「いや、謝らなくていいんだけどね。」

姫路から、神戸、そして三宮に今いるため、三宮から新開地で乗り換えて、有馬温泉街に着く。時刻は十八時ごろ。航は、予約をあらかじめとってあり、折角だからと夕食付のプランを選んだ。それを考えると、ホテルに着いた時刻は、かなりいい塩梅と言えるだろう。ホテルに入り、受付で部屋を指定され、部屋に入る。

 彼らは、浴衣に着替え、夕食まで時間をつぶす。夕食はバイキングであり、好きなものを取って二人で食べた。樹奈は、バランスよくいろいろなものを取っていたが、航は肉がメインで、野菜が明らかに少なかった。実際に、樹奈にも小言を言われたが、聞こえないふりをした。

 夕食も終え、樹奈待望の大浴場に入る。浴槽は、露天風呂を含めて七つあり、内風呂は水風呂、ジャグジーバス、三十九度ほどのぬるま湯、四十二度の熱めの湯、寝湯の五つだった。ぬるま湯が最も大きく、次に熱い湯が大きかった。露天風呂は、二つあり、どちらも同じような広さ、温度だった。この構造は、男女ともにそれほど変わらないらしい。

 先に出たのは、航であった。航が部屋に戻って、二十分後くらいに、樹奈が部屋に戻る。

「やっぱり大浴場はいいね。ユニットバスとは違う!」

「そうだな。俺も久々に入ったよ。」

ジロ……

「何だよ?」

「三日前入ったじゃん。」

「三日は長いんだよ。」

「ふーん……。」

樹奈は、ジト目で航を見続けた。航は、その目に耐えられなくて目を背ける。そんな謎の攻防は、睡眠という形で決着がついた。航が、気づけば寝落ちしたのだ。

 樹奈は、航を一度起こし、歯磨きなどをさせてから、再び寝かせる。樹奈も航が寝たのを見て、航のベッドに入って寝る。部屋には、使われていないベッドが一つ残った。

「まあ、いいんだけどね。一日目がこれだったから、少し……ね。」

そんな独り言を言いながら、樹奈も目を閉じる。

 翌朝、航は珍しく早朝に目を覚ます。スマートフォンを確認すると、五時だった。やけに布団が暑かった。暖房でも入っているのか、あるいは布団の生地が特別熱を外に逃がさないものなのか、そんなことを疑った。だが、それは誤りで、正答は人が彼にぎっちりとくっついているからだ。彼は、それなら暑いのも当然だと、うんうん頷いた。五秒後には、華麗な一人突っ込みが起こったのだが……。

「あの、なんでこちらにいるんですか?」

「ん、んんんーーー。ふわあああ。」

スー、スー……

可愛らしい寝言ではあるが、航は樹奈を起こさなければならない。一日目は、背中どうしだったが、今はほとんど抱き合っているような状態だ。つまり、樹奈は航の胸の中で眠っている。

 航は、眠っている樹奈と格闘すること十分。全く彼女は起きなかった。肩をゆすったり、頬をつねってみたり、その他航にできそうなことを最大限したが、起きなかった。あきらめて、彼は樹奈が起きる七時まで、悶々としていた。

「おい、なんで俺のベッドに入っているんだ?」

「温かそうだったから?」

「俺は暑かったんだが。」

「まあまあ、私は快眠できたよ。それに、前回の反省を踏まえて、航が寝たのを確認してから入ったし!」

「は? それって、夜からずっと入ってたってこと? たしかに、やけに樹奈のベッドはきれいだな。」

「そりゃあ、使っていないから。」

「もういいよ、早く着替えろよ。」

航は赤面して顔を背ける。その様子に、樹奈は首をかしげるが、自分を見て合点がいく。樹奈の浴衣が少しはだけていたのだ。

「まったく、これくらいで初心だなあ。」

樹奈は浴衣を軽く着なおして、洗面所で着替える。

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