第5話 二日目の終わり

入るためのチケットを買い、二人は平等院鳳凰堂へ入る。

二人とも、平等院鳳凰堂を観光して、満足しているようだった。彼らは、観光を終えると、近くの茶店へと入る。

「いやあ、ここのお茶がおいしいんだよなあ。」

「本当にお茶が好きなんだね。」

「ああ。まあな。樹奈は抹茶パフェを頼んだんだよな。」

「ええ。まだ来ないけど。」

「お、多分来るぞ。」

抹茶パフェをトレイに乗せた店員を見て航は発言する。それを聞いて、樹奈も楽しみに待つ。

「お待たせいたしました。抹茶パフェでございます。」

「わあ、ありがとうございます。」

店員は、抹茶パフェを樹奈の前において去り、樹奈はそれに目を奪われる。

「食べないのか?」

「これから食べるのよ。」

航がお茶を飲み切る前に、樹奈がパフェを食べ終える。

「いや、はやくね?」

「航が遅いんだよー。」

「俺は、ゆっくりと玉露を味わっているからな。」

「えー、高級なお茶頼んでるね!」

「興味あるのか?」

「別に興味はないけどさ、高級品だなあと思って。」

「飲むか?」

「え! いいの?」

「そんな飲みたそうにしているところを、俺が無遠慮に飲めないんだよ。」

「え、ごめん。そんなに外に出てた?」

「出てはいたが、謝る必要はないぞ。少しからかっただけだ。」

「ありがとう!」

樹奈はカップを自分のもとに持ってきて、取っ手を右手で持つ。そして、カップに口をつけようとする。

「ねえ。そんなにじろじろと見ないでほしいんだけど。」

「え? ああ、ごめん。」

「やっぱり飲みたかったの?」

「いいや! それは全く関係ない!」

「それなら、そんなに見ないでよ。なんか恥ずかしいじゃん。」

「ああ、すまん。」

一度置いたカップをもう一度右手で持って飲もうとするが、再びやめる。

「ねえってばー。」

「いいや、本当に違うんだ!」

「じゃあ何?」

「俺は人づきあいをほとんどしてこなかったからな、よくわからないんだがな。俺もそのカップを右手で持ったんだ。」

「はあ。」

「その状態で飲めば、いわゆる間接キス的な、そんなものがあるのでは? と思ってな。別のところから飲んでほしいかもしれないとか別に気にしないとかそんな思考があってだな。」

「あはは、そんなことか! ごめんね、航がどんな飲み方してたか見てなかったからさ。おっけー。じゃあ、左手で持つよ。」

「ああ、なんかすまんな。」

「それにしても、気にするタイプなんだね。」

「いや、それは……人づきあいがないからだな。気にするべきかどうかわからなくてな。」

「なーなーうるさい。」

「え?」

「語尾が毎回なになってるもん。それやめよう!」

「え、ああ、ごめん。」

「間接キスは人それぞれじゃない? 別に、気にする人は気にすると思うし、気にしない人は気にしないんじゃない? だから、気になったなら言っていいのよ。少なくとも私には……だけど。」

「ああ、そうなのか。今度からは一人で下らない思考をしないようにするよ。」

「下らない思考?」

「ん⁉ あ、ああ! もちろん、間接キスがどうだかとかいう思考のことだが?」

「怪しー。まあいいや。」

樹奈がお茶を飲み終えて、二人は茶店を出る。航がスーツケースを取るために、京都駅に戻り、付近でホテルを探し、無事見つける。

「はあ、今日も終わったな。」

「そうねー。今回はしっかりと二つベッドがあるね。」

「ああ、今日は寝不足だし、早く寝るよ。」

「ところでさ、そのスーツケース持ち歩くの大変そうだけど、いつも駅に預けてるの?」

「大体な。別に、日中は使わないし。」

「それなら、緑ヶ丘に来た時も?」

「ああ、あの日は宿を取っていたからな。緑ヶ丘駅にコインロッカーが無いことも分かっていたし、チェックイン前に荷物だけ預けられるホテルを選んだんだよ。」

「へー、そんなことできるんだ。」

「そこは、温泉街の一つだしな。そういうサービスも多いんじゃないか?」

「温泉街ってことは、温泉入ったの?」

「ああ、大浴場があったな。」

「ユニットバスじゃなくて?」

「ああ。」

「えー、ずるくない? 私も大浴場入りたいんだけど!」

「いや、樹奈のせいですべての旅程が狂ったんだから仕方ないだろ。」

「え?」

「もともと予約してたホテルは、大浴場付きだったぞ。」

「あれ、もしかして、私のためにわざわざキャンセルした?」

「ん? ああ。東京に言った時点で間違いなく俺の本来の旅程通りにはいかないからな。」

「ふーん……ごめんね。知らなかった。」

「別にいいよ。それが嫌だったら、お前を置いてでも桜観光してたからな。」

「それはひどくない?」

「勝手についてきた身分で何を言っている?」

「けど、そうしなかったんだ。」

「たまには他人と旅行も悪くないと思っただけだ。」

「ふふふー。だろー。そうだろー。なんたってデート旅行だからね! 一緒に行動しないと!」

「デートのつもりはなかったが。」

「まあまあいいじゃないの。それじゃあ、眠そうだしおやすみー。あ! 明日は有馬温泉で泊まるよ!」

「急だな。そんなに温泉に入りたいか?」

「もっちろん!」

「わかったよ。明日は適当に兵庫歩いて有馬温泉だ。じゃあ、おやすみ。」

「うん!」

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