第2話 彼女のわがまま

 航の一人旅は、予想もできないハプニングによって終わってしまったが、旅行自体をやめるつもりもなく、樹奈を連れて旅行をしていた。

「お前、楽しいか?」

「ええ。あの木から出たのも久しぶりだし。新鮮な景色がたくさんで楽しいわよ。」

次に向かっているのも、桜の名所だった。そこには、青色の桜のような不可思議はないが、純粋に美しい桜が五千本ほど咲き誇るらしい。その先には、白色の美しい城も見えるらしく、白色の城と桃色の桜が実にマッチしていると巷では囁かれている。

 彼女は、航の目的地についてすぐに、不満を垂らす。

「ええ、桜かあ。私、桜嫌いなのよね。別の場所にしない?」

「勝手についてきて、文句を言わないでもらえるか? というか、ついてくるなら、どこに行くかくらい確認しろよ……」

「ええ、だって、少なくとも桜は無いかなって。それ以外なら何でもいいのよ。そんな、ちょうどピンポイントで桜を見ようとしてるなんて思わないじゃん?」

駅を出てすぐのところで、立ち止まって言い争っていたため、人の波に押される。

「とりあえず、一回場所を移そう。」

近くにカフェがあったため、そこに入るが、そこも混んでいる。

「仕方ない。とりあえずはここで待とう。」

「待機場所の椅子すら埋まっているなんてすごいわね。そのせいで座れないけど。」

「お前のわがままで一度ここで話そうとしているんだ。それ以上のわがままはやめてくれ。」

「別にいいわよ。言ったでしょ。桜さえ見なければ、何でもいいの。」

「ていうかさ、この時期の旅行、青色の桜も見た、おれが桜を目的に旅行していることくらい悟ってくれよ。」

「いやいやいや、だって、一人でお花見って悲しくないの? しかも、男じゃん。女々しいなー。なんでこんな人と一緒にいるんだろう。」

「それ、ジェンダー違反だぞ。今時、男らしさとか女らしさとかないんだぞ。性差別反対だ。」

「なにそれ? 知らないわよ。」

「なら覚えろ。現代の価値観も大事だぞ。」

「はーい。けど、てっきり私に会いたくてあの桜を見ていたのかと思っていたわ。意外ね。純粋に桜が好きで、見ているなんて。」

「あんなの都市伝説のたぐいだろ。俺もまさか、桜があんなに光るなんて思わないし、ましてや桜から女子が降ってくるとは夢にも思わねえよ。」

「ふうん。興奮した? 一人で寂しい旅行に、美少女がついてきてくれて嬉しいの?」

「別に、勝手についてくるのはどうでもいいが、おれの旅に文句を言われるとムカつくな。」

「え? 何? 華のない一人旅に華を添えているのに、傍から見たら冴えない男がめっちゃ可愛い美少女とデートしてるのに、それに関する感想はないわけ?」

「お前にとっては残念かもしれないが……」

「いや、別に私はいいんだけど。意外だなって。君、何か過去嫌なことでもあったの? 例えば……クラスのマドンナ的存在に告ったら、振られてばらされて大恥かいたとか!」

「んなことねえよ。てか、告白とかしたことないな。」

「ええ! じゃあ、恋とかしたことないの?」

「ああ。興味もないな。」

「ええええ。うーん、そうだなあ。」

「何だよ? 別に何でもいいだろ。俺の勝手だ。」

「駄目よ! いいわ。私が教えてあげるわ!」

「は? 何を?」

「恋!」

「はあ。それなら、その恋とやらを芽生えさせるために、満開の桜の木を男女二人で歩くっていうのは極めていいように思えるんだが?」

「うう……それは例外! 恋人に嫌な事させちゃダメなんだから!」

「恋人になった覚えはないんだけどな。というか、お前ほとんどストーカーだろ。」

「はあ⁉ 君が、生意気にも生きる意味はないとかいうから、それを与えようと私が君の保護者になってるんじゃない⁉」

「頼んではいないが。」

「頼まれたようなものよ!」

「お前、結構意固地だな……」

「あら、そう? 否定はしないけど。」

「桜井さーん。」

意外と早く店員に呼ばれ、店内の席に案内される。樹奈は楽しそうにメニューを眺め、どれを頼もうかと目を輝かせている。

「ねえ、全部頼みたい!」

「食べられるのか?」

「……無理。」

「なら、一つに絞れ。」

「むう。」

これまで見たことのない真剣なまなざしがメニューに向けられている。

「よし、決めた! 私は、このスーパーチョコイチゴミックスデラックスパフェにする!」

「なんだそれ?」

「これだ!」

「こんなものあるのかよ。こいつの戯言じゃなかったのか……」

「ん? 何か言った?」

ピンポーン

樹奈の睨みから目をそらし、店員を呼ぶボタンを押す。樹奈は、これを知らないらしく、驚いていた。

「てっきり、手を挙げて店員を呼ぶものかと。」

「そういう店もあるな。」

「これ、すごいなー。もう一回押しちゃダメかな。」

「ダメだ。別の店でいくらでも押す機会はあるさ。少し待ってろ。」

「本当か? 本当だな! 約束だぞ! 嘘ついたら許さないからな。」

「ああ。」

やがて、店員がやってきて、樹奈が先ほど言っていたパフェを、航はブレンドコーヒーを頼んだ。

 やがて、注文した飲食物が来て、二人はそれを口に入れながら話す。航の旅程は、いともたやすく壊されたため、樹奈に行きたい場所を聞いている。樹奈は、桜でなければ何でもいいと答えるが、申し訳なく思ったのかある場所を声にする。

 二人は、注文した品を食べ終え、カフェを出る。

「おい、おれたちは戻ることになるんだが?」

「まあまあ。どこに行きたいかだけでなく、どこに行きたくないかを聞かなかった君の落ち度だよ。」

「んなもん知らねえよ。」

「……怒ってる?」

「別に。ただ、慣れないだけだ。」

「? 何に?」

「他人と関わることなんて滅多にないからな。」

「ふーん。それなら安心しなさい! 私が、君を今後一人にすることはないからね!」

「別に一人が嫌とは言ってないんだが?」

「それでも、人が恋しくなる時もあるでしょう?」

「……ないな。」

「照れなくてもいいのに~。」

「……」

「え? 無視? 無視はやめてよー。」

「お前がしつこいからだ。」

「わかったよお。話題変えるから。」

「いいや、もう着くぞ。」

駅員のアナウンスで、目的地に着いたことがわかる。二人は電車を降りる。

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