第7話 ずっとずっと、泣いている。


「……こっちでいい?あんまり目立ちたくないんだ」


 そう言った藤倉君は、部室の建物の横に移動した。


「それで、話したい事って……?」


 久しぶりにちゃんと藤倉君と目が合って。

 立ちすくむ。


 あれはウソなの。言わなきゃ、謝らなきゃ。

 これが最後のチャンス。藤倉君の辛そうな顔。



 何から。


 何を。


 何て。



 言葉が出てこない。


 伝えたい言葉は、いっぱいあるのに。

 藤倉君がせっかく私を見てくれているのに。



 早く。


 なのに。


 何で。



 何も言わない私を、不安げな藤倉君が見ている。

 思わず、スカートを両手で握りしめる。

 

(えっ?)


 突然、頭の中に。

 泣いているいまちゃんの姿が浮かんだ。


 叔母さんにしがみついて泣く、小さないまちゃん。

 まるで、大切な物がなくなってしまったかのように。


 叔母さんを両手で押しては引っぱって。

 顔をクシャクシャにして。

 いまちゃんがずっとずっと、泣いている。


 これって。

 まさか。

 まさか。


「……話すことがないなら、僕から」

「あるっ!!!」


 両手を握りしめて叫んだ私と、それにビックリした藤倉君の目が合う。


「藤倉君、旅行でイヤな気持ちにさせてゴメンなさい!私恥ずかしくてあの時、ウソついた!私!本当は!藤倉君の事、小学校から!大!だい!だいっ!!大好きなの!本当……な、の……ほん……とぉ!なの!…………」


 声が裏返って、かすれた。

 ぼろぼろぼろ、と涙がこぼれる。

 みっともない私。


 泣き声と涙しか出てこない。

 最後まで、藤倉君を困らせてる。

 

 本当に、本当に好きなの。

 藤倉君が好きで、毎日が幸せだった。

 会うたびに、話すたびに。

 このまま、時間が止まってくれたらって。


 神様!

 

 藤倉君が私を嫌いでも。

 あれは本当の気持ちじゃなかったって、届けて下さい。

 もう、藤倉君があの時の事で悲しまないように。


 届けて下さい。

 届けて下さい。

 一生で一度のお願いです!

 届けて……!

 

 

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