第6話 どんな明日が待ちかまえていようとも、少女は歯を食いしばって今日を走った。



 家を飛び出した私は、学校へと走る。

 テニス部の男子と藤倉君が、土日も部活と話していた。


 時計を見て、めちゃめちゃに転ぶ。

 公園で、すりむいた膝の傷を洗う。

 

 痛い。

 痛い。


 ケガなんかより、胸が、痛い。

 

 私、自分の事しか考えてなかった。


 何を言ってたんだろう。

 自分ってばっかり。


 洗った傷口をハンカチで拭き、すぐにまた走り始める。


 あれからずっと。

 きっと今、この瞬間も。


 私の勇気が足りなくって、立ち止まってるせいで。

 藤倉君は悲しいままで、辛いままでいたのに。


 もう、どんなことを言われても。

 たとえ、ひっぱたかれても。


 これが最後のチャンスだと思って、全力で謝る。

 本当のことを伝えたい。


 明日の自分がいくら泣くことになっても。

 ありのままの全てを、藤倉君に伝えたい。


 一分でも、一秒でも早く。

 

 背中を押してくれたいまちゃん。

 自分のつらい気持ちより、私の事を思ってくれた。


 だから。

 だから!

 

 歯を食いしばって。


 走って。


 走って。


 走る。



 


 学校に着いて、息を整えながらテニスコートへ向かう。


 コートにはネットを片付けたりローラーで地面を慣らしたりする人たちがいるけれど、藤倉君の姿はない。


「藤倉先輩ですか?先輩達なら、さっき上がって部室にいると思います」

「あ、ありがとう……ございます!」


 教えてくれた人に頭を下げ、私は男子テニス部の部室へと向かった。





 夕方の淡い紅い光の中で。

 藤倉君は部室の前で、他の部員と立ち話をしていた。


「藤倉君!」


 藤倉君は私の声に振り返ると、私を見て立ちすくんだ。

 ごめん……なさい。


 でも。


「話、したくて!5分でも、ほんのちょっとでも……」

 

 違う。

 違う、違う!


「お願い!私の話を聞いて……ください!」


 そう叫んだ私に、テニス部員のみんなと藤倉君は。


「フジ。毎日落ち込むくらいなら聞いてみろよ。スッキリさせて来い」

秋人あきとだって、言いたいことあるんでしょ?」

「……」


 みんなが、藤倉君の肩や頭や背中を、ぽん、ぽん、ぽん、と叩いて離れていく。


 そして。

 

 藤倉君と、向かい合う。

 

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