第5話 明日後悔するお前がいるなら、今日のお前が何とかしてやれよ。できんだろ?



 いまちゃんは、涙をこぼす私を見て少し時間を置いてくれて、そして言った。


「ハル。結局、友達はどうしたいんだ?」

「とにかく謝りたいのと、できれば友達に戻りたい、んだと思う……」


 せめて、おはようって普通に言える友達に、戻りたい。


「謝る、ね。謝って何がどうなんのか、今は置いておく。で、いつ謝るつもりなんだ?ソイツ」

「……わからない」


 きっかけさえ、あれば……。

 勇気が、ほしい。


「わからない、か。……なあ、ハル。心の準備ができたらって話だがな、謝れる日ってホントに来ると思うか?」

「……」


 その言葉に、口は動くけど言葉が出ていかない。


 早くどうにかしたい、と思う。

 でもどうしたら、どうしたらって焦るばかりで。


 けれど。

 そんな私に、いまちゃんは。


「ハルの思ったことは、多分あたしの質問と違う。言い方を変えるぜ?その友達と相手が、二度と会えなかったらって言ってんだ」

「……えっ?」


 私と藤倉君が、もう会えない?

 謝れてないのに。

 あれから、話さえちゃんとできてないのに。


 二度と、あの笑顔を見れなかったら?

 もう二度と?

 藤倉君と会えなく、なったら?


「いまちゃん、なんで?そんなひどいこと言うの……?」


 友達の話ということを忘れ、私はまたこぼれる涙をそのままに声をしぼりだす。


「冷たい言いかたして悪いな。だけど、あるんだ。ドラマのようで、ウソみてえで、夢みてえで、でも自分にとっては現実でしかねえことが」


 いまちゃんは話を続けた。


「ハル、お前も聞いてくれ。そうやって毎日後悔してるうちに、問題が勝手に解決すると思うか?」


 その言葉に私は、ふるふる、と横に首を振る。


「後悔するってわかってて、ソイツはどうして黙ってられんだ?最悪、元通りになれなくっても、嫌われても、どうにかしてえんだろ?」


 その言葉に、今度は首をタテに振る。


「言ってやれ。明日後悔するお前がいるなら、今日のお前が何とかしてやれよ。できんだろ?ってな。あたしみたいに……好きな奴とケンカして、次会った時に謝ろうとしてたらソイツが死んじまった、つうことがお前にも絶対起きないって保障は、ねえんだ」


「………………えっ?」


 水をかけられたように、私の全身が冷えていく。


 いまちゃんが初恋の人と会ったのが実家のお医者さんで、まさかその人は……。


「叫んで泣いて嫌われたって、手を伸ばしゃあどんな結果だってまだソイツの前にある。まだゼロじゃねえ、ゼロじゃねえだろうがよ!やらかしたって、もがきまくってこっから覚悟を決めて踏ん張れば、まだどんな未来だって腕いっぱいに抱えられるじゃねえか!」

 

 その声は最後、かすれたように震えて聞こえて。


「ハル。お前も何かをどうしてもどうにかしたいなら、明日じゃなくて今、歯を食いしばれ。あたしみたいに手遅れになって泣くにははええ」


 私の身体も、心も、震える。


 私は、もうジッとしていることができなかった。


「いまちゃん、ごめん!私、行ってくる!」

「ああ。

「うん!」


 私は、いまちゃんの言葉を胸に、家を飛び出した。




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