第4話 友達のことって言ってるのに。



 参考書を買った本屋で、テニスラケットを持った男子とすれ違った。


 でも、藤倉くんじゃなくて。

 私は寂しくて苦しくなった。


 藤倉君は今頃、部活でラケットを握りしめて頑張ってることだろう。


 こないだまでは、帰宅部の私が図書室で勉強をしながら、藤倉君を見てたのに。


 窓から見えるテニスコートで走り回る藤倉君を、かっこいい! がんばれー!と応援できていたのに。


 でも、今は。


 私の中で藤倉君が、くるり、くるりくるり、と回る。




 変顔で笑わせてくれた藤倉君。

 ニコニコと手を振る藤倉君。

 楽しそうに部活の事を話す、藤倉君。


 さびしそうに苦笑いしていた藤倉君。

 私と目があって、びくり、とする藤倉君。

 気まずそうに目をそらす、藤倉君。


 私から目をそらす、藤倉君。




 私は涙をガマンしながら、またトボトボと歩く。

 私の、せいだ。


 ごめん……なさい。



 家庭教師の日、土曜日の午後。


 せっぱつまった私は勉強のひと休み中、いまちゃんに相談した。


 いまちゃんは、


「ヒミツにしてた片想いの相手がバレバレで、パニクって違うって言ったら、たまたま本人がそれを聞いてた、と。それは確かにツレえシチュだな」


 私は、泣きそうになるのを、ぐっ、とこらえて頷く。


 ただ、私は自分のことだとは内緒にしている。

『友達が、今悩んでいる』と、相談をしたのだ。


「で、仲直りしたくてもどうしたらいいかわからない、か。もう正直に、『好きじゃないなんて嘘です』って言っちまったほうが早いんじゃねえの?」


 ストレートに言ういまちゃんに、言葉を詰まらせる。




 藤倉君のあんな顔、見たくなかった。

 こんなことになるなら。


 本当の気持ちを、言えばよかった、のに。

 今からでも言いに行ければ、変わるかもなのに。


 勇気が、出ない。

 最低だ、私。



 

 ぽとり。

 ぽとり、ぽとり。

 ガマンしていた涙が、とうとう、こぼれていく。




 泣いたら、ダメなのに。

 友達のことって、相談してるのに。

 

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