第4話 友達のことって言ってるのに。
参考書を買った本屋で、テニスラケットを持った男子とすれ違った。
でも、藤倉くんじゃなくて。
私は寂しくて苦しくなった。
藤倉君は今頃、部活でラケットを握りしめて頑張ってることだろう。
こないだまでは、帰宅部の私が図書室で勉強をしながら、藤倉君を見てたのに。
窓から見えるテニスコートで走り回る藤倉君を、かっこいい! がんばれー!と応援できていたのに。
でも、今は。
私の中で藤倉君が、くるり、くるりくるり、と回る。
変顔で笑わせてくれた藤倉君。
ニコニコと手を振る藤倉君。
楽しそうに部活の事を話す、藤倉君。
さびしそうに苦笑いしていた藤倉君。
私と目があって、びくり、とする藤倉君。
気まずそうに目をそらす、藤倉君。
私から目をそらす、藤倉君。
私は涙をガマンしながら、またトボトボと歩く。
私の、せいだ。
ごめん……なさい。
●
家庭教師の日、土曜日の午後。
せっぱつまった私は勉強のひと休み中、いまちゃんに相談した。
いまちゃんは、
「ヒミツにしてた片想いの相手がバレバレで、パニクって違うって言ったら、たまたま本人がそれを聞いてた、と。それは確かにツレえシチュだな」
私は、泣きそうになるのを、ぐっ、とこらえて頷く。
ただ、私は自分のことだとは内緒にしている。
『友達が、今悩んでいる』と、相談をしたのだ。
「で、仲直りしたくてもどうしたらいいかわからない、か。もう正直に、『好きじゃないなんて嘘です』って言っちまったほうが早いんじゃねえの?」
ストレートに言ういまちゃんに、言葉を詰まらせる。
藤倉君のあんな顔、見たくなかった。
こんなことになるなら。
本当の気持ちを、言えばよかった、のに。
今からでも言いに行ければ、変わるかもなのに。
勇気が、出ない。
最低だ、私。
ぽとり。
ぽとり、ぽとり。
ガマンしていた涙が、とうとう、こぼれていく。
泣いたら、ダメなのに。
友達のことって、相談してるのに。
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