11
母親の再婚。ビビはその現実を受け入れることができないでいた。
そもそもビビは、母親との折り合いが悪く、今でも普通に会話をすることができない。まるで見えない壁に遮られているかのように自分の思いが伝わらない気がしていたし、だからこそ打ち解けることができないでいた。
そもそもビビの小さい頃の思い出の中には、母の姿はどこにもない。どこにいるのかが全くわからない存在だった。それどころか、ビビにとってはアンナこそが母親で、四郎こそが父親だった。日奈子という存在は、ビビの世界のどこにも存在していなかったのだ。
だからこそ、自分の世界がしっかりとし始めた頃に突如現れた「母」という存在がビビにはよくわからなかった。黒髪ではあるが、自分に似てなくはない風貌の女性がいきなり「今までごめんね」と言ってきたところで、ビビには全く理解できなかったし、実は今でも理解できない。そんな「母」がいきなり再婚するのだと言われても、ビビの認識力は追いついていかなかったし、今でも追いついていない。
何が何だか全くわからない。
アンナにそのことを話すと、
「そうなのね」
と理解を示してくれたが、それはなんの解決にもつながらなかった。そしてこの頃からビビは、
自分の居場所ってどこなんだろう?
と考えるようになった。
しかし、いくら考えても、わからないものはわからない。若いビビには、悩んでも悩んでもわからないことが世の中にはあるということがわからない。
わからないからこそ、ビビは解ろうとして悩んだ。自分の白い肌のこと、金髪のこと、母のこと。そのどれもが謎だった。いくら考えても、答えは出なかった。
自分は何者なんだろう?
自分のこの白人の見た目が恨めしい。なんで自分は金髪なんだろう?
ある夜、ビビは夢を見た。虹の夢だ。しかし、ビビは夢の中で疑問に思った。
「虹って本当に渡れるのかな?」
「そりゃあそうさ」
どこからか声がする。ビビが振り向くと、顔の部分に靄がかかっている男性がポツンと一人立っていた。仕立ての良いスーツを着ているがお腹の部分は少し出っぱっている。その男性は軽く咳払いをした。
「こほん!実際に君は今こうして虹を渡っているではないか。違うかな?」
「そうね。じゃあ本当に虹って渡れるのね」
「そりゃあそうさ。ただし……」
「ただし……?」
「渡りきるのには時間がかかるよ。なにせものすごく大きな虹だからね」
「ホントだ!」
虹の向こうは靄がかかって見えなかった。
「それにだ、渡るにはちょっとしたコツも必要なのだ」
「コツ?……それはどんな?」
「それはまだ言えないな」
「なんで?」
「まだその時ではないからさ」
「なんで?ケチじゃない。教えてくれてもいいじゃない」
「そんなに知りたいかい?」
「ええ、教えて!」
「足元をご覧」
みるみる虹は消えていく。
「あ、あ、」
「どうだい?虹が消えると、足元には素晴らしい景色が広がっているだろう?」
「え、でも、私落っこちる!」
「そうだね」と男性。
「うまく落っこちるんだよ」
虹はどんどん透けていき、完全になくなった。
わー。落ちる!落ちるぅ!
目が覚めた。あたりは真っ暗で、ビビの隣ではアンナが寝息を立てている。反対隣では四郎がいびきをかいていた。
おじいちゃんのいびきね!
だからこんな夢を見たんだわ!
中学生になったビビは自分の部屋を作ってもらってはいたが、まだまだ祖父母と一緒に寝ることが多かった。寝る際に手を握ってもらうことこそもう無くなったが、それでも一緒でないと眠れないことも多かった。
「もう!朝起きたらおじいちゃんに文句言わないと」
小さな声で文句を言うと目を瞑った。その後は朝まで夢を見なかった。
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