第6話

 心臓の鼓動が速まる。

 ただ話しかけるだけなのに、これまでにないぐらいどきどきしている。

 昼休みに話すと決めていたのに。

 話しかけれないまま、いつの間にか放課後になっていた。

 玲児がいたら、無理矢理にでも話しかけさせられていたに違いない。

 いつもなら煩わしいが、今はそのお節介が欲しかった。

 くよくよしていても何も始まらないと思い、菊田さんの席に目を向けた。

 そこに菊田さんは居なかった。

 教室を見回したが、菊田さんの姿はなかった。

 どこにいるのだろうと思い、席から立ち上がり、廊下に顔を覗かせた。

 探していた人はそこにいた。

 融の目に、柴沢と話している菊田さんの姿が映った。



 結が尋ねた。

「何、話って?」

 柴沢玄は聞いた。

「明日カラオケ行かない?」

 結は間髪入れず答えた。

「行こうよ。愛彩と奥村くん誘う?」

「他に誘う予定はないかな」

 驚いていたことが、結の表情から読み取れた。

「二人?」

「そう二人で」

「どうしたの急に? 二人で遊んだことなんてなかったじゃん。いつも四人だったしさ」

 遊ぶとなったらいつも、黒瀬愛彩と奥村玲児もいっしょだった。二人で遊ぶのは気まずいだろう。

「ごめん。他に誘わないなら行かないかな」

 結自身、自分が言ったことに驚いている様子だった。

「そうだよね。結さん俺といる時、気遣ってるもんね。二人きりで遊ぶのは気まずいよね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る