第5話

 授業に身が入らない。

 どうしても昨日のことが頭から離れないからだ。

 高校に入ってからは玲児としかまともに話したことのない自分が、女子と、しかも好きな人と、業務的ではない話をしたことはすごいことだ。業務的ではないと言っても、世間話しかしてないけれど。それでも、大きな進歩だ。

 朝の時点では玲児のことを少し恨んでいた。余計なことしてくれたな、と。

 今は完全に感謝している。直接お礼を言いたいぐらいだ。

 まぁ、玲児本人がいないから礼の言いようが無いが。

 玲児はどうかしている。気さくで誰とでも仲良くなれるくせに、サボり癖があって一週間のうちの半分は学校に来ない。俺が玲児だったら、確実に毎日学校に行っていただろう。

 玲児がいないとクラスに自分の居場所がないと感じてしまう。だから学校は嫌いではないにしても、好きでもなかった。

 でも、これからは学校が好きになれそうだ。

 だって、ここには好きな人がいるのだから。

 そんなクサイことを考えていると、チャイムが授業の終わりを告げた。

 昼休みだ。

 俺が菊田さんを好きだと言うことに、菊田さんは既に気づいているだろう。好きであることを本人に知られてしまった以上、もう怖いものはない。

 融は決意した。菊田さんに話しかけることを。



 結は浮かない顔をしていた。

「私、気遣いすぎなのかなぁ?」

 そう愛彩に聞いた。

「疲れてるんでしょ? それが何よりもの証拠だと思う」

「気遣いすぎじゃなくても、疲れぐらい出るよ」

「結の疲れは精神的なものなんだよ。身体的なものじゃなくて」

「でも、クラスの皆とはうまくやっていけてるし。そんなに気遣ってるとは思わないけど……」

 愛彩は少し考えてから言った。

「結はさぁ、中学の頃はカーストなんて全く気にしてなかったよね」

「うん……」

「高校入ってからは、逆にめっちゃ気にして、みんなに好かれようと必死になって。自分では気づいてないかもしらないけど、私には結構きつそうに見えるよ」

 結は困ったような表情をして言った。

「まぁ、全くきつくないって言ったら嘘になっちゃうかな。でも、おかげで今の方が楽しいと思う」

「結がそう言うなら良いけど。まぁ、私は結がどんな選択をしようと応援してるよ」

 結は目に見えてショックを受けていた。

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