第4話

 見慣れた天井を見つめている。

 起きたばかりでまだ目が慣れていないはずなのに、鮮明に見える気がする。

 今日は学校に行くのが楽しみだ。こんな気持ち、高校入学したばかりの頃以来だろう。あの頃は、青春が始まるのだと胸を高鳴らせていた。

 心なしか天井がいつもより明るく見える。

 しかし、どれほど学校が楽しみでも、学校に間に合うぎりぎりの時間に目覚める事は変わらないみたいだ。

 親は既に出勤しているようで、家は静まり返っている。

 顔を洗いに洗面所に向かった。

 洗面所の鏡に映る自分を見て言った。

「なんか俺、嬉しそう」

 それにしても何なんだよ玲児のやつ。誰にも言わないって言うから、好きなことを認めたのに。

 あれじゃあ、本人に言ってるようなもんじゃないか。

 融は玲児を呪いながらも、心のどこかで感謝していた。



 結は本気で悩んでいるようだ。

「私、峰岸くんのこと好きなのかなぁ?」

 隣で吊り革に掴まっている愛彩にそう聞いた。

「柴沢くんでしょ? 結が好きなのは」

 愛彩に見透かされ、結はぎょっとした様子だった。

 愛彩はわざとらしくため息をついてから言った。

「もっと自分に素直になった方がいいと思うよ。結はさぁ、自分が最近疲れてるの、なんでだと思う?」

 自分にも分からないことが愛彩に分かるだろうかという顔をしつつ、結は聞いた。

「分からないよ。そういう愛彩は分かるの?」

「結は気を遣いすぎなんだよ。クラスの中での自分の地位を失わないようにって」

 愛彩は続けた。

「柴沢くんのこと好きかもって思ってるのも、そういうことだと思うよ。柴沢くんモテてるもんね。付き合ったらそりゃあ、結の立場ももっと確実なものになること間違いなしだよ。でも、多分、それだけだよ」

 何と返せば良いのかわからなかったのだろう。

 結は黙ったまま車窓の向こうを眺めていた。

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