第3話

 脈絡もなく訊かれた。

「菊田さんのこと好きなんでしょ」

 内心ギクッとしたことが表情に現れてしまったのだろう。

「やっぱりかぁ」

 と言われてしまい、慌てて否定した。

「いやいや、そんなわけ」

「隠さなくていいんだよ」

 奥村おくむら玲児れいじは続けて言った。

「俺、見ちゃったんだよね。融が結さんのことガン見してるとこ」

「ガン見なんかするわけないじゃん。ちらっと見ただけだよ」

 既にニヤニヤを抑えられないでいた玲児の口角がもう一段階上がった。

「認めるんだね。見てたことは」

「い、いや。そうゆうわけじゃなくて」

 

「信じてくれないだろうけど、ほんっとに違うから」

 

「はいはい。そうゆうのはいいから」

 玲児が何度も言うせいで不安になってきてしまっている。本当は好きなのではないか。

  


 結は後ろを振り返った。

 愛彩と一緒に学校から駅に向かっている途中、誰かに名前を呼ばれたからだろう。

「菊田さ〜ん。融が話したいって」

 そう言ったのは奥村玲児だった。

 愛彩は笑いながら言った。

「峰岸くんめっちゃ慌ててるじゃん。てか、峰岸くん見つけた時、結ちょっと動揺したよね?」

 愛彩は、結に反論する暇を与えずに言った。

「良かったね、結。好き同士みたいだね」

 そう言ってすぐ、愛彩は何かを思いついたようだった。わざとらしく言った。

「そういえば私、今日早く帰らないといけないんだった。じゃあね〜」

 言ったと同時に、駅に向かって走り出してしまった。

 玲児も愛彩の意図を汲み取ったようで、愛彩のあとを追いながら言った。

「俺も用事あるのすっかり忘れてたよ。二人とも、また明日。俺、明日学校行かないかもしれないけど」

 二人で残され、唖然とした。

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