第2話

 横から視線を感じる。

 視線の送り主はたぶん、菊田きくた結だろう。

 確認のため、隣の席に座っている菊田さんを盗み見た。

 予想は当たっていた。菊田さんがこちらをぼんやりと視界の端で見ていた。

 今日、菊田さんの視線に気づいたのはこれで何回目だったか。四回は下らないだろう。

 菊田さんは自分のことを好きなんじゃないか、なんてことを考えた。が、すぐにそんな妄想はやめた。

 クラスの中心人物である菊田さんが、クラスに馴染めていない俺なんかを好きなわけがない。菊田さんと柴沢は両思いだという噂を聞いた事があるし。

 けど、全く期待していないと言ったら嘘になってしまう。

 そんな雑念を払うかのように、六時限目終了のチャイムが鳴り響いた。

 融は帰りの準備を始めた。

 視界の隅っこで、柴沢が菊田さんに話しかけるのを捉えながら。



 結は言った。

「私、疲れてるのかなぁ? 最近、気づいたぼーっとしてたってことがあるんだよね」

「睡眠時間足りてないとか?」

「7時間で充分だと思うけどなぁ」

「めっちゃ健康的じゃん。俺、4時間しか寝てないんだけど」

「柴沢くんの方こそ疲れてたりしないの?」

「まったく。結さんに元気分けてあげたいぐらいだよ」

 結は笑顔で疲れを隠しながら言った。

「話変わるけど、この間はありがとう」

「いやいや、こちらこそだよ」

「柴沢くんはほんとにすごいよね。かっこいいし、テニス部エースだし。しかも勉強もできる」

 柴沢玄は苦笑とも、愛想笑いとも言える顔をして言った。

「ありがとう。勉強で分からないことあったら、またいつでも聞いてくれて良いからね」

「うん。柴沢くんも英語のことならなんでも聞いてね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る