第3話 勇者の武具とお猫様

 

 そして街を出てラカを連れて歩くこと30分……



「で、勇者の武具を探しに遺跡にやって来たわけだけど……」

「さっさと進むニャ」


 この中に勇者の武具があるニャけど……


 街から近く盗掘されつくされてる上、強さの割に経験値も素材も美味しくない魔物ばかりだから誰からも見向きもされない遺跡ニャ。それで魔物どもがうじゃうじゃいるから、スラ級ザコのラカがまともに挑んだら瞬殺されてしまうニャ。


 じゃあどうするニャって?

 お前らオツムは何のためにあるのニャ。


 ラカはいま魔法の長靴を身に付けているのニャ。こいつを使えば『空中散歩』で空中に浮かべるのニャ。


 つまりラカに吾輩を抱えさせ、長靴の力で天井スレスレを進んで怪物どもを避けて通るのニャ。


「これでいいのかなぁ」

「吾輩の隠蔽の魔法が解ける前に終わらせるニャ」


 いくら空中に浮かべても遺跡内では出入り口などで下に降りなきゃならニャいから、吾輩の精神魔法の一つ『隠蔽』でマヌケな魔物を欺きながら奥へ奥へと進んでいるのニャ。魔物の「マ」はマヌケの「マ」ニャ。やーいマヌケ、マヌケの大マヌケ!



「だけどこういう時は遺跡の魔獣を倒しながら冒険するもんじゃない?」

「今のラカにアイツらの相手は無理ニャ」

「それはそうかもだけどさぁ」


 割り切れない奴ニャ。己の力量に合った行動をしなくてどうするにゃ。


「無理はしニャい。無駄に時間を費やさニャい。無賃ただで働かニャい。これが猫妖精ケット・シーの叡智ニャ」


 餌を貰えない奴と思ったら無駄な事をせず去る!

 獲物が獲れそうにないと思ったら無理せず去る!

 餌をくれない奴には媚を売らずにさっさと去る!


 無駄、無理、無賃を避けるのがお猫様流の真理ってやつニャ。



「ロペの考案した怪物回避探索法は無駄も無理もないけど――」


 長靴の空中散歩と吾輩の隠蔽魔法で魔物どもとは一戦もせずにお宝だけゲットだニャ!


「――だけどこれじゃ僕の経験値が上がらないよ」



 まったくラカにはため息がでるニャ。労せずしてお宝ゲットの何がいけないのニャ?



「もっと良く考えるのニャ」

「考えるって言ったって……」


「今はまともに魔物と戦えないニャ。だけど勇者の武具さえ手に入れば簡単に倒せるようになるのニャ」

「なんかそれってズルくない?」


「効率的って言うニャ!」

「男としてカッコ悪くない?」


「プライドなんて役に立たないものは犬に食わせとけばいいニャ。お猫様は美味しいとこだけ頂くのニャ。それがお猫様の叡智ニャ」

「それは叡智じゃなくてズル賢いだけでしょ」



 人間はアホが多いニャ。まあ、ブツブツ文句言いながらも吾輩の進言を入れるだけラカにはまだ見所はあるニャ。これがコーザやイスゲならきっと吾輩の話に聞く耳持たなかったニャ。



「ずいぶんあっさり着いたけど……ここが最深部?」

「まあ、そこまで広い遺跡ではニャいからニャ」


 そうして地下二階の大広間へとやってきたわけニャ。


「さあ、あの天井付近にある扉を開けるニャ」

「ねえ、この部屋って魔法の長靴で飛べなきゃ辿り着けないんじゃない?」


 まあ何の踏み台もないこの部屋じゃ、魔法の長靴でもニャければ地面から10mはあるこの扉は開けられないニャ。しかも天井に凹凸があって下からだと扉が死角になってるのニャ。


「くっくっくっニャ、ここは魔法の長靴を持つ勇者しかやって来れない様にしているのニャ」

「結局ロペに何かあって魔法の長靴を手に入れられなかったら、この部屋の勇者の武具は手に入らなかったんじゃない?」


「…………」

「やっぱり最初から勇者のズタ袋に全ての武具を入れててもよかったじゃん!」

「勇者には試練がつきものなのニャ!」

「あ、いま適当に思いついただろ!」

「つべこべ言うニャ。魔法の長靴がニャくても石壁登りロッククライミングをすればいいのニャ!」

「なんか納得いかない。ホントにロペは叡智の猫なの?」



 お猫様に対して何たる暴言!

 罰当たりニャ!



「まあ今は勇者の武具の方が先決だね」



 そうニャ、考えても無駄な事は考えない。それがお猫様の叡智ニャ!


「それで部屋の中央にあるこの宝箱の中に勇者の武具が入っているんだね?」

「さっそく開けるニャ」


 ワクワクといった感じで宝箱を開けるラカ。中を見てビックリするがいいニャ。


「何コレ!?」

「くっくっくっ驚いたかニャ」


 真っ直ぐホソ長いそれを手にしたラカが驚愕で目を見開いているニャ。


「何この木の棒!?」

「伝説の勇者の武器ヒノキの棒木製バットニャ!」

「勇者の武器が木の棒なの!?」

ヒノキの棒木製バットニャ。見るニャこの美しいフォルム」

「確かに綺麗な曲線の円柱だけど……」

「それだけじゃないニャ。バットのグリップを握るニャ」

「グリップって……何これ凄い握りやすい!」

「凄いニャろ?」

「だけどこれって素材がヒノキじゃないよ?」

「お約束ってヤツなのニャ。細かい事を気にするんじゃないニャ」


 続いてラカが取り出したのは勇者が使っていた防具ニャ。


「この指が全部繋がっているヘンテコな形の手袋はナニ?」

「伝説の勇者の防具ガントレット本革グラブニャ!」

「ねえ、これ着けるとバットが持ちにくいんだけど」

「それくらい片手で扱うニャ」

「このバット両手持ちのように見えるんだけど……」


 ぶつくさ文句を言いながらラカは最後に宝箱の底に残っていものを手に取ったニャ。


「それで最後のゴテゴテしたこの大きなベルトは?」

「伝説の勇者の証し勝利と栄光の腰帯チャンピオンベルトニャ!」

「名前はなんか凄いけど……」

「さっそく装着するのニャ」

「でかっ!」

「バ・バ・ジアントはデッカい奴だったからニャ〜」

「バックルでお腹が隠れちゃったよ」

「鎧代わりになっていいんじゃニャいか?」

「そんないい加減な……」


 右手にヒノキの棒木製バットを持ち、左手にガントレット本革グラブをはめ、腰には勝利と栄光の腰帯チャンピオンベルトを巻いたラカ。


 うむ!

 なんとも勇ましく――ないニャ。



「変な格好ニャ。よく平気でいられるのニャ。恥ずかしくないのかニャ?」

「それロペが言う!?」


「おかしいニャ。ジアントはとっても勇ましかったニャ。まるで聳え立つオーガのようだったニャ」

「オーガのようって……勇者って化け物だったの!?」


「身長は2メートルを優に超えるいわおのような大男で怪力無双だったニャ。魔王城では向かってくる魔物どもをちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回り!」



 凄かったニャ〜。

 目を瞑れば当時のことが今でも瞼の裏に鮮明に浮かんでくるニャ。



「正しく鬼神の如き強さだったニャ。魔王との最終決戦は圧巻の死闘ベストバウトだったニャ〜」


 手に汗握るお猫様ギャラリーも大興奮の戦いだったニャ。


「こんなもの邪魔だと言ってヒノキの棒木製バットガントレット本革グラブを投げ棄て、ついでに上半身ハダカになったジアントは魔王と取っ組み合いにもつれ込み、組んず解れつの大乱闘!」


 大迫力のお猫様スポンサーも大満足の大乱戦だったニャ。



「レベルマックスになったジアントの2メートル越えの巨体から放たれる圧巻の勇者の蹴り16トンキックと巨大な手から繰り出される怒涛の勇者の手刀バ・バチョップは見ものだったニャ~。ジアントはけっきょく最初から最後まで武器を使うことなく魔物どもを纏めて撲殺したのニャ。まったく凄い奴ニャ!」

「ちょっと待って!」


 毎回毎回うるさい奴ニャ。


「それって勇者の武具使ってないよね?勇者最強だっただけじゃん。もしかしてこの勇者の武具もホントにただの木の棒と革の手袋なんじゃないの!?」


「安心するニャ。武具の強さは本物ニャ。吾輩が保証するニャ」

「ぜんぜん信用できないんだけど!?」


「ちゃんと神によって神力の籠められた強力な神器ニャ」

「そ、そうか、神様の力が宿っているなら……」


「まあ1度も使ったことないから性能は試してないニャ」

「なんでそんな不安になること言うかなぁ!!」


「ではさっそく下の魔物どもで勇者の武具を試すニャ!」

「ちょっと聞いてる!?」


 さあ、さくさく魔物を倒してレベルを上げるのニャ!

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