邂逅

酒頭の報告により、急遽H県に派遣中の一個小隊が『Mパーキングの幽霊』無力化のため戻される事になった。


小隊が戻り、無力化への手掛かりを掴むため、酒頭には引き続き監視任務が与えられた。


酒頭は危険だからK氏はもう外れていいと告げた。


K氏は首を降った。

「話をしなければ、私達は助かった。死なない対処法は分かる。私も最後まで見届ける」


酒頭はなだめたり、脅迫したり、あの手この手でK氏を諦めさせようとした。


だが不可能だった。

オカルトや怪異に人生を捧げるK氏は引き下がらなかった。


それからは2日おきに監視をした。


夕方から始めて明け方まで監視を続け、そしてその日は休む。翌日また再開。


時として気温が低くなって凍結のおそれがある時などは、毎日監視についた。


そんな生活が一ヶ月ほど続いた。




その日はK氏が運転していた。


K氏と酒頭は疲労が限界に達していた。


ほぼ会話もなくなり、交代で監視しては眠る。


その繰り返しだった。


K氏は帰宅してからも原稿を書くなど精力的に活動していたが、限界に達した。


あまりの眠気に、寒さで目を冷まそうと運転席の窓を開けた。


「先生、大丈夫かい?俺が見てようか?」酒頭が言う。


「大丈夫、今度は私の番だ」K氏は答える。


酒頭が頷き、眠り始めた。


だが、しばらくしてK氏もとうとう疲労には勝てず、眠り込んでしまった。






「あの、あの…運転手さん…こんにちは」


くぐもったような、鼻声のような、それでいて少年のように高い声で話しかけられた。


K氏はハッとして、「…はい?」返事をしながら窓の外を向く。


K氏は愕然とした。


窓の外に立つ男、頭は小さく毛がない、目が落ち窪み、やや出っ歯のような歯並び。唇が厚く、若干怯えたように微笑んでいる。


そして小柄で華奢だ。


「Mパーキングの幽霊」だった。


喉元まで出かけた悲鳴を、必死で飲み込んだ。

恐ろしい程澄んだ目が、自分を見つめている。


自分は今、まさに「話したら死ぬ幽霊」と会話をしてしまったのだった。

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