Mパーキングエリア調査

事件発生日時は、ほぼ薄暮時から夕方にかけてだった。


いつ起こるか分からない事故を待ち続けるのも気の遠い話だが、K氏は悪くないと思った。


調査用の車は貸し出され、食事代、交通費、謝礼も出る。

仕事は薄暮時から夜明けまで。

車に乗って、Mパーキングに停まり、ひたすら幽霊の出現を待つ。



毎日は不可能なので、1日から2日おきに「調査」に入った。


それだけでK氏には充分なお金が手に入る。



疲れた時や深夜は交代で見張った。


エージェント酒頭はタバコを吸い、「つまらない」と不平を言う。組織批判を口にする。ラジオを聞く…などしている。


K氏は、ノートに新作の原稿を書いたり、ネタ作りをしたりしていた。新作は、半魚人と河童の悲恋物語だ。


Mパーキングには自販機しかない。

どのくらい日数が経ったろう。

自販機のジュースを全種類楽しんだ頃だった。


ようやく出現した。


深夜2時、助手席に乗っていたK氏が初めて気づいた。

慌てて寝ている運転席の酒頭を起こす。


一人の女性が白い軽自動車に乗り込もうとしたときだ。


頭の小さな、小柄な男がおずおずと近づき、話しかけていた。


男は笑顔を浮かべ、親しげに話そうと試みているようだった。

薄汚れたシャツと、ズボンを履いている。

白いスニーカーも履いていた。


紛れもなく人である。


K氏から10数メートルほど先にいる。


K氏は、予めエージェントと「決して『幽霊』と会話しない」と決めていた。


なぜなら、情報提供者の言うように「話すと死ぬ」のであればその時点で助からないからだ。


残念ながら、女性は会話していた。

小柄な男が何度も頭を下げ、何か言っている。


女性は、ただ手を振り、申し訳無さそうにそそくさと運転席に乗り込み発進した。


「ここで、足止めさせよう」酒頭が言って、サイドブレーキを外す。


K氏は酒頭の腕を掴んで制した。

「だめだ、もし、パーキングエリアで止めたとして…私達も『幽霊』に話しかけられたらまずい。万が一、邪魔されたと思って何かされても困る」


「クソっ、じゃあ『魔のカーブ』に入るまでにあの車を止めよう」

酒頭が車を発進させた。


「まて!やつがどこに消えるかみたい」 

K氏が言うと、酒頭がやや減速した。 


小さな頭の男は、置き去りにされたようにその場に留まっていた。


だが、頭をひとかきすると、踵を返してパーキングエリア裏の林の方へ入っていった。


「林の中へ消えた。いいぞ、あの車を追いかけて停めよう」

K氏が言うと、酒頭はスピードを上げ本線へ合流した。


女性の車はすでにパーキングエリアから出てしまっている。


相当な速度で追い上げないと、女性の車は「魔のカーブ」へ到着してしまう。 


「どうやって停める?」K氏が言った。

「こいつを使う」酒頭がセンターコンソールのボタンを押すと、サイレンがけたたましく鳴った。

そして、周囲を赤色の回転灯が照らした。


「追いついたらマイクで呼びかける」そう酒頭が言った時だった。


低速で走る大型トラック二台に追いついた。

トラックは二車線をそれぞれ走っていた。


「緊急車両です!道を開けてください!」酒頭が賢明にマイクで呼びかけるが、トラックは気づかないのか道を開けない。


その後もパッシングをする、マイクで呼びかける、サイレンを鳴らすなどするが、全く気付いてないようだ


「畜生!だめだ、間に合わない」酒頭がハンドルを叩いた。


トラック2台と、酒頭とK氏を乗せたトラックは『魔のカーブ』に差し掛かった。


すると、トラック二台は慌てた様子でブレーキして、停止した。


ブレーキしたトラックの後ろで、酒頭たちも

あわてて停止する。


トラックの間からある光景が目に飛び込んできた。


道路中央で横転し、爆発炎上する白い軽四だった。


さらには、運転席窓から這い出そうとした姿勢のまま、燃え盛る炎に焼かれる女性がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る