第27話 悪夢へのリフレイン
時計に杖をかざして念じると、針を進めることも戻すことも自由だった。
リティシアは、自分に何ができるのかを理解した。
この力を使えば、ガロンが助けられる。
やりなおしの機会を神様がくれたのだとリティシアは本気で信じた。
※
やりなおしの初めに、ガロンが最初にギルドの受付に来ていた時間を狙った。
リティシアはしばらくギルドで待っていた。
すると、前のときと同じようにガロンが冒険者ギルドにやってきた。
最後に見た傷ついたガロンとはちがう。いつも通りの無傷のガロンだった。
リティシアは無事なガロンを目にできるのが嬉しかった。
ガロンが依頼を受けるのを断られてしょんぼりしているところに、リティシアは迷わず声をかけた。
今度はリティシアから提案した。
ガロンは快諾してくれた。
※
最初の依頼はずいぶんと背伸びをした。
受付の男はだいぶ怪しんでいたが、めんどくさくなったのか依頼を受けることを了承してくれた。
リティシアとしてはガロンの実力を知っているので何も怖いことはなかった。
過去といっていいのか、前の時間軸では受けられなかった依頼だ。
魔物化した熊が交易路ちかくに確認されたという討伐の依頼。
この依頼はリティシアも気になってはいたが、いくらなんでも危険が過ぎようという判断から受けることもできなかった。依頼は長らく放置され、結局商隊がまるごと犠牲になり、国が動いて解決を見せることになる。本来ならば。
前は放置されて悲劇的な結末をむかえたこの依頼だが、やりなおせる今なら解決できると思ったのだ。
依頼は無事終わった。
ガロンはガロンだった。
しかし、気になったことがひとつある。
魔物化した熊が二匹いたことだ。
国が解決した話に二匹の熊の話はなかった。
予想外の事態に、リティシアはかなり取り乱してしまった。
ちがう行動をすれば、ちがう結末になる。リティシアはそれを心に刻むことになった。
※
リヒターの挑発には乗った。
放置すればガロンが動き、ギルドでの立場が微妙になる。
そう理解していたので、リティシアがそれを引き受けようと考えたからだ。
結果は、リティシアとしてはなんとも言えない形にはなったが、ガロンの立場は変わらなかったので前よりは良い結果になったと思いたい。
気になった点は、魔族に襲われるタイミングがちがったことだ。
ガロンが撃退したのは変わらない。が、前の時間軸ではもうすこしあとに襲われたはずなのだ。
油断はならないとリティシアは考えていた。
※
祭り。
一日目は同じように別行動にしたが、今回は警備の依頼を受けることにした。
リティシアの目論見どおり、ガロンが負けた博打はイカサマだった。
リティシアはそれを摘発し、捕らえることに成功した。
ガロンの破産は避けられた。
二日目は一緒に行動をした。
リティシアはすこし調子に乗っていた。
前に買ってもらえなかったブローチを買ってもらおうと思ったのだ。
店を探すのには手間取ったが、無事にブローチを買ってもらえた。
ガロンの方から買うことを提案してくれたのは本当に嬉しかった。
前の時間のガロンが買ってくれた髪飾りをつけて、今のガロンが買ってくれたブローチをつけて、何か全てがつながっているような気がしていた。
祭りは楽しかった。
全てが良くなっていると思っていた。
※
それがこのザマだ。
もうずいぶんと街から離れた場所を歩いている。
雨はまだ降っている。
夜の闇と雨で視界がほとんどない状態だ。
それでもリティシアは歩くのをやめない。
ずぶ濡れのローブを着て、重い足取りで歩を進めている。
全てが良くなっていると思っていた。
どれだけ自分はおめでたかったのだろうか。
時術が使えれば、ガロンを助けられると信じていた。
思い上がりも甚だしい。
リティシアが狙われているから、ガロンを危険に晒していたのだ。
結局、リティシアはガロンに助けられ続けていた。
なぜリティシアに魔導師としての素質があるとわかったのかは謎だが、魔族は最初からリティシアを狙っていたのだろう。
だから、前の時間でリティシアたちは襲われたのだ。
魔族の中には人間では立ち入れないほどの領域に達した術師がいる。リティシアに時術が発現する前から感知できる可能性はある。
そして、今回はもっと早く感知したのだろう。
なにせリティシアは程度こそあれ時術を何度も使っているのだから。
もう全てが嫌だった。
雨は止まない。
リティシアはまともな思考もできていない。
どこかへ逃げたい。
ガロンを巻き込みたくない。
それだけを考えている。
落雷。
轟音があたりに響いた。
近くの木で雨宿りしていたカラスが驚き、わめくように鳴きながら飛び立った。
リティシアも閃光と雷鳴に驚き、一瞬我に帰った。
いつの間にか、道行く先に人影があることに気付いた。
その影は雨だというのに、ただ道を塞ぐように立ち尽くしている。
暗闇でよく見えないが、人影はそれほど大きくない。ともすればこどもであるようにも見える。
背筋が冷たくなる。
落雷。
閃光で、人影の姿が一瞬だけ鮮明になる。
人影は少年だった。
真紅の瞳がリティシアを見つめている。
リティシアは悲鳴を上げた。
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