第3話 叫ぶ洞窟


 盗賊のアジトはすぐに見つかった。


 村長があっちのほうから来ていると言った方向を探知したら、不自然に人が密集している空間があったからだ。魔法的な偽装もろくにされてないところからしてあまり大した盗賊ではなさそうだった。


 ガロンはアジトへと入り込む。


 薄暗い洞窟だった。中は想像よりも広く、少し進んだ広い空間に盗賊たちはいた。

 人数は二十一名、うち術師は二名。一番奥にある、形のいい岩に腰をかけ堂々としているのが首領に間違いない。

 首領らしき人間がガロンに言う。


「お客さんか、見張りはどうした?」

 

 もちろん倒した。

 外にいた見張りは術師だったので、洞窟の中にいる術師経由で、盗賊たちにはガロンが来ることはわかっていたはずだ。

 物陰にいる何名かがボウガンに矢を装填している気配。ガロンが来るのがわかっていて即不意打ちをしかけなかったということは、完璧な状態で袋叩きにした方が勝率が高いと踏んでのことだろう。


「だんまりか? 礼儀がなっちゃいねぇな」


 単独で踏み込んだからには、相当な腕自慢と考えているに違いない。その上での首領の落ち着き具合から、それなりの修羅場は潜っているのかもしれない。


 探知の気配でわかっていたことだが、思ったよりもめんどうな戦いになるかもしれない、とガロンは考えた。


 ガロンが人間の姿でどれくらい強いか、といえばじつは竜でいるときよりもずっと弱い。なぜなら人間の変身を維持していることで極めて強い負荷が常時かかっているからだ。

 この状態だと人間の中でも最上位程度の力しか出せない。


 首領が首を傾げ、


「このまま帰ってくれりゃ手荒いことはしねぇ、どうだ?」


 背後。ガロンの返事を待つまでもなく、突然巨大な曲刀がガロンの首筋を狙った。


 直撃だった。


 斬れはしなかったが、折れた。


 曲刀が。


 皮膚と金属がぶつかったならば、決して出てはいけない音が洞窟内に反響した。


 振り返ると、ガロンよりも背の高い大男が、折れた曲刀とガロンを交互に見やったあと、笑って誤魔化そうとした。


 ガロンが男の顔に触れると、男は糸の切れた操り人形のように昏倒した。


 思ったよりも面倒な戦いになる、という予想はやはり当たっているとガロンは確信した。

 ガロンは誰も殺すことなく、全員を人間の治安機関の手に渡るようにしようと考えている。こういった干渉をするならば、せめて裁きは人間の手ですべきだ。


 けれども、この盗賊たちは想像以上に程度が低い。

 アリを傷つけないようにつまむのは中々めんどうなものだ。


 戦いは終始一方的だった。


 特筆すべきことは何もない。

 強いていえば、洞窟で反響する盗賊たちの叫び声はとにかくうるさいというくらいだ。

 外に人がいたならば、野太い男の絶叫が聞こえてくる洞窟はさぞ不気味に思えただろう。



※ 



 何泊でもしていってください、そう言う村長をよそに、翌日にはガロンは旅立つことにした。

 村を出るときには、村人全員での見送りを受けた。七十人程度の視線だったが、皆からの尊敬の眼差しはどこか居心地が悪い。

 

 村長が前に出る。


「少ないですがお礼です、どうか路銀の足しにしてください」


 そう言って革袋を渡された。


 ガロンが振り返ろうとしたとき、村長の後ろから一人の少女が歩みでた。

 あのとき村長の家で見た、孫と思しき少女だ。

 少女は少し顔を赤らめ、恥ずかしくて仕方がないという素振りを見せつつもそれを振り切って言った。


「おじちゃん! ありがとね!!」


 ガロンは少女の頭に軽く手を置く。


「なに、当然のことをしたまでだ」


 ガロンは振り返り、村民全員に見送られながら歩みを進める。


 誰も見ていないのをいいことに、ガロンは今ものすごい顔をしている。もし息子のクーゲルがその顔を見たら自殺を考えるかもしれない。


 やはり良いことをすると気分がいいなぁ。

 そんなことを考えながら、ガロンは村を出た。

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