第7話 冒険者の仕事をしてみよう2
ライトとエマは町の近くの森までやってきた。辺りには人はおらず、雪は降っていたが昨日ほどではなかったので、優雅な空気が流れていた。今の状況は、ほとんど散歩だった。
「ライト君、目標決めませんか?」
ここまでノリで何となく動いていたが年上であるエマは、年上だと思っているエマは、しっかりしないといけない思ったのか、話を切り出した。実際、前世の年齢も足したら余裕でライトの方が年上だが、精神年齢のことを考えると妥当な行動だった。
「目標?家を建てたい」
昨日、ライトに出来た目標だった。
「良いと思うけど、14歳の目標としてはどうなんですか?他になんかないんですか?」
エマはライトの顔を覗き込みながら笑いながら呟いた。
そんな風に吞気をかましている二人だったここは魔物もいる森の中である。そこまで多くの魔物がいるわけじゃないが、この瞬間もライトとエマの周りには、数匹の魔物がいた。しかし、2人の実力を魔物は感じ取ってか近づいてくることは無かった。だから、完全に散歩になっていた。
「目標ですか?……なんかありますか?エマ?」
「普通に、実家に復讐するとか、見返すとかそう言うのは全く思わないの?ライト君、やるなら私はいくらでも手伝いますよ。」
ライトは家を追放されていた。それなのに異常に呑気だった。
「だって、思いのほか困ってないから、寒いけど、1人じゃ無いし。まあむしろ厄介な貴族社会から抜けれてラッキーって感じだよ」
実際にライトは困ってなかった。復讐する気力も復讐が達成出来ても無気力であることはもう前世で知っていた。やられてやり返しても、ただの虚無が残ることをライトは知っていた。ライトは語る必要もないような人生で学んでいた。それに、ライトはカール家に対してほとんど興味を持っていなかった。
「ふふふ、1人じゃない…………ですか。一生ついていきますよ、ライト君」
そんなライトの思いは全く知らないエマであったが、ただ純粋に嬉しそうに無意識のうちに出たライトの言葉を見逃さず、笑顔で、ライトの目を見ながらそう笑った。
「あっ……それは」
ライトは、ゆっくりと目を逸らしてそう呟いた。
「照れなくても良いですよ、ライト君。」
そんな会話をしながら銀世界の森を歩いていた。辺りには木が生えているが地面は雪が積もっていて見えなかった。もちろん二人は話しているだけでなくあたりを見回したりしていた。
それで、
「まあそれはさておき。薬草どこにありますか?見ましたエマ。」
話を変えるがてら、ライトはそう言った。実際、薬草は一切見つかっていなかった。だから今のところただの散歩であった。
「それは私も思ったの、雪しかないって」
「はぁ、どうやら高難易度クエストを選んでしまったらしい。それでどうします?エマ。」
ライトはため息をつきながらなんとなく空を見上げていた。澄み切った空が広がっていた。
「素直に魔物退治で良かったですね。ライト君。あっ、そうだ、昔ライト君、ダンジョンを攻略してみたいとか言ってませんでした?」
エマは、ライトの言葉に答えつつ、急に話を思い付きで変えた。急な方向転換だが、良くある事だった。
「ああ、まあ言ってたけど、でも面倒だからそう言うのは良いかなって」
ライトはそう答えると軽くノビをした。
「そうですか。でも、フロスト地帯にダンジョンってあった気がしますよ。ああ、違いましたね。あるかもしれないって説でしたね。」
ダンジョンは世界に全てで7つあると言われており、実際に見つかったのは5つ、攻略されたものは1つで、神の試練の場とか古代の遺跡とか、いろいろな説がある建物である。この世界に転生して来てしばらくした頃のライトは、割と興味を持っていたが、見つかっているダンジョンは利権の塊で入ることは難しく、見つかっていないのは探すのが困難で軽く諦めていた。
「そんな説もありましたね。それなら、まあダンジョンを探すって言うのも僕の目標に追加しましょう。」
でも割と暇であり、貴族のしがらみもなくなり、嫌われていた婚約者との関係も消え去り平和なライトは、少し諦めた目標を頑張ってみることにしたのだ。
「良いね。ライト君」
エマは基本的にライトに甘かった。
「何の褒めですか?それでエマは目標とかあるの?」
至極真っ当な問いだった。
「………秘密です。聞きたいですか?」
エマはニヤリと笑みを浮かべて、唇に指を当てていた。
ライトはしばらく、それを無言で見て、それでいろいろ考えて
「……今は大丈夫です。エマ、少し二手に分かれませんか?」
そんな風に呟いた。ライトは聞くことを余裕でビビっていた。
しばらく、エマもライトを見て
「え良いですよ。このままだとただの散歩ですもんね。二手に分かれてじゃあ1時間後に町の門で集合しましょう。それで、時計貸してライト君。」
そう言って、ライトに手を差し出した。
ライトは魔法を使った。
すると手には一本の剣と時計が出現した。
ライトが使ったのは単純な収納魔法であった。ライトがいろいろ工夫したが、物を収納しておくしか使えない単純な収納するためだけの魔法である。そんなに収納出来る容量は無いが普段の2人の荷物を持つには十分だった。
「剣と時計ですね。」
「ありがとう、ライト君。薬草採取に剣は要らないと思うけど。私の事を心配してくれてるのかな?」
ニヤニヤしながら、エマは剣と時計を受け取った。
「ソウデスネ。それで、どうせなら、勝負しましょうエマ。取った薬草の数で勝った方が次の行動を決めるって言うので」
ライトは照れ隠しをしながら、そんな提案をした。ライトとエマは、暇なとき、何かと勝負をしていた。それはライトが剣術訓練での負けの数を他で取り返す為の口実で始まったが、いつの間にか習慣化していた。
「良いですよ。私負けないですからね。でも取りすぎはダメですよね。それじゃあ、最大5個までにしましょ。でも、こんな雪の中だとそんな見つかる気しませんけど。」
それからなんとなくハイタッチをしてからエマとライトは二手に分かれた。理由は特にないが上機嫌なエマがハイタッチをしたかったらしい。
そのハイタッチを合図に、呑気な2人の勝負が始まった。
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