第6話 冒険者の仕事をしてみよう1

「寒い」

次の日、ライトは借りた家の外でエマが支度をするのを待っていた。何故外かというとライトが少しせっかちだったからである。


「ごめん、ライト君。待ったよね。今日の服、似合いますか?」

降る雪を見ながら待っているとエマが昨日と同じに見えるメイド服に身を包み現れた。しかし、実際は、ほんの少し違うのである。それは、毎日見ててもほとんど気が付かない程度の違いで、もちろんライトも違いは分からないが、『昨日と同じでしょ』って言ってブチギレられた事をしっかりとライトは覚えていた。


「似合ってますよ。」

それから、疑われないようにライトはとりあえず、全力で笑顔を浮かべていた。


「ふふふ、でしょ。それで今日はどうしますか?」

エマは上機嫌に飛び跳ねながらそう呟いた。ライトは嘘で世界が救えるならそれは嘘ではないと思うタイプの人類だった。


「そうですね、今日する事は選択肢は3つあります。」

ライトは指を三本立てた。


「ふむふむ1つ目は?」

ご機嫌なエマはそうニコニコの笑顔で指を1本立てた。

二人のノリは家を追い出されて地方に追いやられた人たちのそれでは無かった。


「買い物に行く、まあ店がフロスト地方にどれぐらい店があるか知りませんけど。」

フロスト地方は田舎だった。


「2つ目は?」

首を傾げながらエマは指を2本立てた。


「この町について調べる。フロスト地方のことなんも知らないなって。まあどこで調べるか知りませんけど。」

この街に図書館などはありそうになかった。


「3つ目は?」

首を傾げながらエマは指を3本立てた。


「冒険者の仕事をしてみる。どれが良いとおもいます?」

二人は昨日冒険者に就職していた。


その3つを聞いてエマはしばらく考えてから、決まったのかライトの目を見て

「私は1つ目に1票かな」


「ああ、僕は2つ目だったんですけど。」

二人は意見が食い違った。


それからしばらく目を見合わせて

「「………まあじゃあ、3つ目にしよか。」」

そんな結論に至った。どちらも選んでいないものに結論として至るのは変な話だが、相手が相手に気を使わせないと気を使った結果、どちらも選んでいないもので合意する高度な譲り合いの結果である。


「その前にですよ、ライト君。ご飯を食べましょう。今日はとりあえずギルドで」


「ああ、朝ご飯も食べれるんですね。」

ライトは、対人能力はあまり高くなかった。ライトには、前世の経験があるが、逆にそれが足枷となり、コミュニケーションを取ろうとする意識が足りなかった。不要に知らない人とコミュニケーションを取ろうとしなかった。だからこういう細かい情報はエマのコミュニケーション能力にかかっていた。


「らしいです。聞いておきましたから。でも、明日からは私が作りますね。ライト君」

エマは、ライトの家に居候していた。その時に何もしていないわけではなかった。家事とか料理とかそういうものも勉強していたのだ、だから完璧に出来るのである。


「僕もじゃあ手伝いま」

ライトがそう言いかけた時に食い気味に


「やめてください、才能がないとかいう次元を超えてるので、ライト君はダメです。禁止ですからね。」

エマはそう言って語気を強めた。人間得手不得手があるのだ。



場面転換

エマとライトは、ギルドで朝ごはんを食べて、それからギルド職員のサリさんに冒険者の仕事の具体的な内容をたずねることにした。


「冒険者の仕事ですか?ありますけど、その失礼ですけど、大丈夫ですか?」

そうギルド職員のサリは、諭すようにつぶやいた。これは二人を軽んじてるとかではなくて、普通の心配だった。まあ、昨日ご飯を食べるために冒険者になった人の実力を心配するのは当たり前の話である。


「大丈夫ですよ。無理はしないので。」

それを分かっているので、特にライトも普通にそう返した。それに、冒険者の仕事とかしたことは無かったので、大丈夫かどうかなど分からなかった。


「そうですか。2人ですよね。少し待ってくださいね」

サリは隣の掲示板の元に行き、3枚の紙を掲示板から持って帰って来た。


「えっと、普段ならホワイトラビット5匹あたりが最初としては適切なんですけど。その今は個体数が少なくなっていまして………」

一枚目の紙を見せながら申し訳なさそうにしていた。


「じゃあ、それは無理なんですね。」

(ああ、昨日、陽気なおじさんがなんか言ってた乱獲の話か。)

ライトは察していた。


「まあ、あまりおすすめしたくないですね。だから、この二個から選んでください。まあ危険度はどちらも低いと思います。」

バツが悪そうにギルド職員のサリは言った。ライトやエマにはどうしてそんなに申し訳なさそうにしているのか分からなかった。


ライトは、渡された『薬草回収 10個』と『ホワイトベアー討伐 1匹』と書かれた二枚の紙をしばらく見て、

「エマ、どっちが良い?」

自分で決めることを放棄して、会話の邪魔にならないように静かにしているエマに尋ねた。


「じゃあ、薬草回収がしたいです。ライト君」

そうエマが即決したので薬草回収に決まった。


「らしいです。」


「薬草回収ですね。分かりました。」

そう言いながら、ギルド職員のサリは何か作業をしていた。


「それでどの薬草ですか?」

ライトは、エマに決定を委ねた後に重要なことに気が付き目を数度パチパチとさせた。

(待って、僕、薬草の知識に自信がないから見分けにくいやつだと、無理なんだが。エマは、無理だろうな、多分。)

ライトは魔術は相当の知識があったが薬学はあまり得意ではなかった。でも、エマに決定を委ねて前言撤回してもう一個の方にするのも何か出来なかった。


「薬草はなんでも良いですよ。なんでも良いので初心者用のクエストなんです。取りすぎなければ大丈夫ですよ。」


ライトは、サリの返答に少し安堵した。

「なるほど、では行きましょうか、エマ。」


「ああ、えっと、場所の案内とかあった方がいいですよね?」

そう言うとサリは、案内するためか席を立とうとした。その時に、ライトとエマは、目が合った。


(忙しそうですよ、サリさん)

(そうですね。)

目でそんな風な意思疎通をエマとライトは行い。

「「まあのんびり頑張るので大丈夫です。」」

息ぴったりに笑顔でサリに答えた。


「分かりました。ああ、そうでした。ブライトさんから聞いたかもしれないですけど、この町の入り口付近で、冒険者三人がボロボロの状態で雪に埋められていたはなしですけど、こけただけらしいです。だから、安心してください。では頑張ってください。」


しばらく、無言になり数度エマとライトは目を合わせてパチパチさせながら二人は

「ああ、これはあの人たち、見栄を張ったのかな?どう思います?エマ」

「多分、そうですよ。そう言えば、サリさんのファンが多いらしいですよこのギルド、だからですよ。」

そんな風に小声でライトとエマは会話して、


それから大きな声で

「「…………そうですね。頑張って来ます。」」

そう言い残して、二人は町の周りの森に向かった。

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