第8話 冒険者の仕事をしてみよう3

ライトは町に、ギルドに戻っていた。

これは薬草を探すのが面倒になったとか、購入して勝つとかそう言うズルではない。もっとまともなズルをしようと思っただけである。


(サリさんに薬草がある場所を聞けば、まあ僕の勝ちだよね。)

ライトは負けたくなかった。この後で何をするとかの今日の予定の決定権などはどうでも良かった。ただ負けたくなかったのだ。


ギルドに戻ると建物の前で何かが行われていた。遠くからでは良くライトには見えなかったが、ライトがこの町に来て、一番人が集まっている様子だったから何か騒ぎが起きているのは間違えなかった。

「ああ、これギルドに戻らずに、地道に探した方が良かったかもな」

ライトはそんな独り言を呟きつつも、ここまで来たのだからと言うこともあり、騒ぎの方向へギルドに向かった。




「お前らが弱くて魔物もロクに倒せないから、代わりに未来の英雄である俺とその仲間が魔物を退治しているのに、何だ。その態度は」

高価な鎧に身を包み、高価な剣を持つ、それなりの美青年がそう真剣な表情で叫んでいた。それの周りには、気弱そうな騎士のような恰好をした女性と筋肉隆々の青年と修道女がいた。


そんな大きな声がライトの耳に入った。その声を聞いて

(ああ、あの人たちが、乱獲騒ぎを起こした張本人か)

そんな事を思いつつ、ギルド職員のサリを探した。そしてすぐに見つかった。


(あっ、昨日の陽気なおじさんにでも。あっ)

ライトは軽く絶望した。どちらの人物もこの問題の中心にいた。つまり、話しかけたければ、これをライト自身が解決するか、周りの誰かが解決するか、まあ時間がかかることも、面倒である事も確かだった。


(し…………ばらく様子を見るか)

ライトは、人並みの正義感と人並みの好奇心と人並み以上の煽りスキルと戦闘能力を有していたが、良く分からない状況にとりあえず首を突っ込むタイプではなかった。


「ガハハハッ、弱いか。確か、フロスト地方は田舎だ。王都の学校を首席で卒業したらしいあんたと比べると弱いかもだな。でも、こっちだって、お嬢を中心に上手くギルドの仕事を回してるんだ。上手に魔物から恵みを貰ってるんだ。だから、考えろって言っているんだ。分かるか。」

陽気なおじさん事、ブライトはそう真剣な顔で諭すように言葉を発した。ブライトさんは、このギルドのまとめ役なのか、他の冒険たちも活動していた周りの人々も頷いていた。


すると、急に修道女のような人が叫んだ。今まで静かに黙っていたのに急に叫んだ。

「魔物から恵みを貰ってる、魔物から恵みを貰ってるですって、ああああ、あなた達は、異教徒ですか?異教徒なのですね。アルトリア様に対する冒涜ですか?魔物を全て不浄なる存在、全て殲滅しなければならないのです。それを何ですか?あああ、許しがたいです。ああ。」

その言葉は、喋り方は熱があるようであったが、何か空っぽな印象を受けるそんな発言だった。


アルトリア教とは、この帝国で主流の宗教である。その内容は、聖なるものになるために不浄なものを排除するというものだ。簡潔に簡単に言えば、ただ、よき行いをしようという宗教であったが、曲解や人々の悪意によって、一部の信者は、魔物を邪悪なもの、人を聖なるものとして解釈をしていた。

ライトは無信教だったので全く理解出来ない感覚だった。


「私たちは、神を信じるとかの余裕がないんです、フロスト地方はここら辺は、そんな余裕はありません。だからギルド職員としてお願いします。魔物を倒す数は守ってください。」

サリさんは頭を下げた。この町には教会がなかった。どうやら神に祈る暇がないらしい。もしくは祈るのは神ではなく自然そのものなのかも知れない。


「断る。やはり、お前らはダメだな。こんな体たらくだから、神が与えて下さった試練のダンジョンを見つけることが出来ていないのだ。文句があるなら力づくで俺たちを倒してみろ、まあ無理だろうがな。」

リーダーの自称未来の英雄がそんな風に啖呵を切っていた。


「だそうだ、俺は、俺の強さの糧になってくれるやつがいるなら、そのルールに従ってやるが、そんなやつはこの町にはいないらしいしな。だから諦めろ。」

次に武道家風の筋肉質の青年が続けた。


「……すいません、わたしは、リーダーに従うだけなので」

そう気弱そうな女騎士が呟いた。


最後に修道女が

「あなた方のような、異端者と話すことなどありません。本当は、今すぐあなた方に断罪を与えたいのですが、我が主であるアルトリア様は寛容なので、今回は許してさしあげます。」

そうつぶやいた。


(何だ、これ…………新手の災害かよ。)

ライトは自分がどちらかというとトラブルや問題や面倒ごとを起こすタイプの人間だと自覚していたが、この光景を見て、上には上がいることを実感した。


「俺らが、お前に断罪される罪はないだろ」

その時に誰かがそう叫んだ。


すると修道女のような人物は笑った。笑いながら

「分からないですか?貴方たちの罪は2つあります。1つは、魔物を殲滅していないこと。もう一つは、不浄な魔物の血が流れている竜人の人物をまるで、人間と同じように扱ったこと、あんな穢れた存在を崇高な人と私たちのような信徒と同じように扱うなんて、あああなんて汚らわしい。」

アルトリア教の強硬派には、もう一つの特徴があった。人間選民思想である。魔族や亜人族と呼ばれる人達を排除しようとしていた。だからその修道女にとってはそのの言葉は事実であり、悪意などは含まれていなかった。彼女は、まるで教えられたことをただ喋る人形のようであった。


(ああ、もうどうでもいいか、元貴族ってバレるとかどうでもいいか)

しかし、そんなことはライトには関係なかった。その人物の悪意の有無など関係なかった。


修道女はまだ言葉を続けていた。

「あの竜人、自分が不浄な存在であることを自覚すらしていない、ああ裁きを与えなければ不浄なる存在に……」

言葉に悪意も重みもなかった。だが、もうそんなことは関係なかった。


「口を閉じろよ、お前ら全員ぶっ飛ばしてやる。」

ライトは、激怒した。

ライトは、基本的にのんきであり、悟っているのであまり怒らないほうである。でも自分の身内に相当するエマが言われたら話は変わってくる。


「あ?誰だお前?今何て言った?」

そんな風に自称未来の英雄がそうイキリ返した。


「耳が遠いんですか?お前ら全員ぶっ飛ばしてやるよ。4対1で今すぐ始めようか?」

ライトはニコリと引きつった笑顔を浮かべた。


それを見ていた人物は、「えっ」と困惑する人や「やめたほうがいい」と止める人、笑う人、青ざめる全身にケガをしている人さまざまだった。


「……後悔してもしらないぞ。」

青筋をたたながら、英雄はつぶやいた。ライトは、もう完全にここに来た目的を薬草のことは忘れていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る