狐人

@kaidou1206

第1話

 山に籠り息を潜め獲物に標準を合わせ、引き金を引く。狐が力無く倒れると同時に山中に銃声が響く。横に長くなっている狐を持ち上げ猟師は帰路についた。

 猟師は狐の毛皮を売り生計を立てている。一匹から取れる毛皮は30㎝未満。500円にも成りやしない。1日2回猟に行かなければ飢え死にすることになる。自分の生活を成り立たせるために狐の犠牲が必要なのである。当初は狐に対して情があった。だが、人間が自己の利益を優先し生態系の根幹部を切り倒した。その結果、狐が築いていた連鎖に障害が生じ個体数が減少した。獲物の減少は何も肉食動物に影響を与えるだけでなく、私にも影響を与えた。狐を狩ることが出来ず餓死寸前で猟に出かけ、彷徨した。彷徨の末、山中で出会った狐はもはや生き物でなく金を得るための媒体としか見えなかった。

 午後の猟に出かけ見つけた狐は体長30㎝を超える大物。毛皮を売れば1000円以上の値は付く。「今晩は酒が飲める」早る気持ちを抑え込んだつもりで、標準を狐に合わせる。元来、猟師は狙撃の腕には自信があった。だが、その自信を過信し、目の前の利益に対する欲を抑えられず、銃口を出た鉛弾は左足上部に着弾し、狐は足を引き摺りながら木陰に隠れた。

 猟師は千載一遇の機会を逃してしまった。帰路を進みながら「銃が悪い、安物だから」と責任を転嫁した。山肌は雪で覆われ、足元がおぼつかない。意識が足元を離れたまま進み続けた次に踏み出した足は中に浮き、全体重が左足に掛かり崖下へ躍り出た。転がり落ちた先で男は手を見て恐鄂した。淡い甘橙色の毛皮が生えている。猟師は自己の責任を他に転嫁する狡い性格故に狐になったのだ。狐は現実から逃れるために走った。走り疲れ動きを止めた。左目を横にやると銃を構えた男が私に標準を合わせ刹那、左足上部に痛みが走ると同時に銃声が山中を木霊する。生命の危機を感じた私は、足を引き摺りながら横目で発砲者を確認した。そこにいたのは他の誰でもない私だった。

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