其の五十六・Lサイズ

 暫く電子書籍を読んでいたが、暇なので研究所をぶらつく事にした。


「少し出てくる」

「所長のところ?」

「じいさんに用事はない」

「じゃあ私も行くわ」


 三人で研究所を見て回った、ついでに食堂に寄ってカウンターの所員に声をかけた。


「完全食のLサイズを置いてくれないか?」

「真田博士の言うことは、所長命令と同じと聞いています、すぐに手配します」

「すまんな、普通の量だと物足りないから頼むよ」

「はい、お任せ下さい」


 その後所内を見て回り、研究室に戻るついでに新田博士の部屋を訪れた。


「新田さん、その体格は初期改造が終わったみたいだな」

「ええ、真田博士程ではないですが、筋肉も増えましたし、体内スマホも入れました」

「調子はどうなんだ?」

「ええ、体も軽いですし体内スマホが便利すぎます」

「だろ?」

「真田博士の作った、新型アンドロイドも順調なようですね」

「ああ上手くいった」

「真田博士の言葉は、所長命令に匹敵すると聞きました」

「じいさんがある事件の時にそうしてくれただけだ」

「それでも凄いです」

「新田博士は何かの研究をしているのか?」

「今は斎藤博士の手伝いから始めてます」

「そうか斎藤博士の作る物はいいものばかりだ、頑張ってくれ邪魔したな」

「いえ、いつでもどうぞ」


 自分の研究室に戻った。


「改めて海斗の影響力の大きさを感じたわ」

「そうか?」

「そうよ、見てたらわかるわ」

「ご主人様は凄いのです」


 パソコンのメールの音が鳴った。


 じいさんからの一斉メールだ。


『所員全員へ、今回会議で給料のアップが決まった、今月分から上がるのでチェックしておくように、もう一つ真田博士が大きなプロジェクトを成功させた、敬意を払うように』


「じいさんが余計な事を書きやがった」

「余計じゃないわよ、素直に喜ぶべきだわ」

「まあ別にいいが」


『真田博士、食堂までお願いします』


「もう用意が出来たんだろうか?」

「行ってみましょう」


 また三人で食堂まで行った。


「呼んだか?」

「わざわざありがとうございます、Lサイズはこれくらいの量でいいでしょうか?」


 渡された完全食を飲んでみた。


「うんちょうどいい、早速用意してくれてありがとう」

「いえよかったです、真田博士のお名前を借りてもいいですか?」

「かまわんが何をするんだ?」

「真田博士発案のLサイズ登場、と書かせて下さい」

「わかった」


『真田博士、所長室までお願いします』


「なんか今日は忙しいな」

「私と玲奈ちゃんは研究室に戻っておくわ」

「わかった」


 じいさんの部屋に入った。


「何か用か?」

「新田博士と仲良くしてるそうじゃないか」

「部屋が隣だからな、新田博士は真面目過ぎないか?」

「科学者は二パターンいる、オレオレ主義と真面目主義だ、新田君は真面目な分類だ」

「そうか」

「食堂にLサイズを置かせたらしな」

「ああ普通の量では物足りないからな」

「喜ぶ所員も多いだろう、わざわざ二回注文する所員も少なくないからな」

「需要があるならよかった、要件はそれだけか?」

「もう一つ、会議でも言ったが、意見を言う者が君しかいなくて困ってる、君も他の役員に意見の発言を促してくれないか?」

「別にかまわないが」

「では頼むよ」

「わかった部屋に戻る」


 研究室に戻った。


「また何か仕事?」

「仕事と言えば仕事かな、会議で俺しか意見が出ないから、俺から促すように頼まれた」

「信頼されてる証よ」

「そうか、食堂のLサイズも褒められた」

「話が伝わるのが早いわね」

「新田博士と仲良くしてるのも褒められた」

「褒められてばかりね」

「俺は俺がしたいようにしてるだけだがな」

「それでいいんじゃない?」

「ご主人様はもっと評価されるべきだわ」

「いや俺はいい、のんびりしたいだけだ、食事をしたら帰る」

「さっき飲んだばかりじゃない」

「今日の栄養分が足りてないんだ」

「だったらいいわ、行きましょう」


 今日三回目の食堂に行き、バニラのLサイズを注文した、玲奈と理恵もLサイズを注文した、席で飲んでいると数人が交代で何組か来た。


「真田博士、Lサイズの発案ありがとうございます」


 と言っていた。


「ご主人様流石です」

「海斗、評判がよくてよかったわね」

「喜んで貰えてよかった」


『真田博士と村田博士、至急オペ室にお願いします』


「帰ろうと思ってたのに」

「それより急ぎましょ」


 急いでオペ室に行った、新田博士が診察台で苦しんでいる、じいさんもいた。


「じいさん何事だ」

「突然頭痛を訴えて来て酷くなるいっぽうじゃ、脳の検査では異常は見当たらないんだが診て貰えないか」

「わかった」


 新田の頭を手で挟み、検査する、体内スマホの脳に入れられた器具が少しずれている。


「原因はわかった、新田博士今から治すじっとしていてくれ」

「真田博士お願いします」


 超音波を出して器具を少しずつずらして位置を修正した、これだけで終わりだ。


「新田博士、もう治した痛みは引いたか?」

「ええ治りました、ありがとうございます」

「斎藤博士軽い頭痛薬を飲ませてやってくれないか?」

「わかりました」

「海斗博士何がどうなってたのかね?」

「体内スマホの脳に入ってる器具が少しだけずれていた、それが脳を刺激して、脳が炎症しかけていただけだ、ずれた原因はわからないがな」

「君が来てくれて助かった」

「真田博士、薬は飲ませました」

「斎藤博士ありがとう」

「真田博士、噂通りオペも器具も使わないんですね、驚きました」

「俺は改造人間だからな、痛みはもう出ない筈だ、もう動いていいが今日は無理するな」

「わかりました、改造人間とは何ですか?」

「詳しくはじいさんに聞いてくれ」

「はい」

「じいさん、今日はもう帰るが、何かあったら連絡をくれ」

「わかった感謝する」


 三人で研究室に戻った。


「俺はもう帰る」

「私も帰るわ、海斗のおかげで私の出番が少なくなったわ」

「嫌なのか?」

「楽でいいって意味よ」

「玲奈、ポルポルを呼んでくれ」

「もうポルポルもビーちゃんも呼んだわ」

「じゃあ帰ろう」


 車に乗り込みマンションに帰った。


「ご主人様眠そう」

「なんだかんだ忙しかったからな」

「じゃあ膝枕どうぞ」

「ありがとう」


 スリープモードをセットして眠った。


 ……


 起きると顔に何か垂れてきている、目を開けると玲奈が涎を垂らして寝ていた、玲奈の頬を撫でる、唇に触れると玲奈が起きた。


 ジュル。


「ご主人様ごめんなさい、顔によだれが」

「いいんだ、お前のよだれは汚くない」

「でも拭いておくね」


 ティッシュで拭き取られた。


「ご主人様、もうすぐ出会って一年だね」

「そうだな、いろんな事があったが俺は毎日幸せだ」

「私も幸せ、記念日は雰囲気のいいところでデートして?」

「わかった、場所は考えておく」

「忘れちゃダメだよ」

「忘れるわけがない」

「じゃあ晩ご飯の用意するね」

「わかった」

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