其の五十五・浮気者

 数日が過ぎた、千恵とリンクし一日に数回データを取っている、千恵の成長スピードは早く、すでにパートナーの男と恋に落ちそうになっている、ただし千恵とリンクしている間は玲奈が凄く不機嫌になる、それは千恵と初めてリンクした日の事だ。


 その日千恵とリンクした瞬間、玲奈が初めて本気で怒った。


「ご主人様の浮気者!」

「何だ理恵との事か?」

「違う、千恵とリンクした事」

「リンクはしたが何故浮気者なんだ?」

「体の浮気はその瞬間だけの事なので許せます、だけどリンクすると言うのは、心と心が繋がってる事と同じです、これは許せない浮気です」

「言ってる事の半分は理解出来るが、これは仕事の一つで、成長を観察しているだけだ、心を許しあった仲、というわけではない」

「ご主人様の言い分もわかりました、仕事なら仕方ないので、目をつむりますが、浮気は浮気です、リンクが切れるまで許しません」

「何度も言うがこれはただの仕事で、断じて浮気ではない、俺が千恵に気があるわけではないし、千恵もパートナーの男と恋に落ちそうになっている、俺はただデータを見ているだけだ」

「理恵さんなら私の気持ちがわかってくれる筈、呼んでくるので待ってて」


 飛び出した玲奈は、すぐに理恵を連れて戻って来た、そして俺達の話した事を全て言って理恵の意見を求めた、理恵は困り顔で話し始めた。


「えっと玲奈ちゃん、これは海斗の言う通りただの仕事で浮気じゃないの、玲奈ちゃんの言うことも理解出来るけど、データが集まるまで許してあげて」

「天才科学者の理恵さんでもわからないのですか、二人共心がおこちゃまですね、見損ないました、もういいです、とりあえずご主人様は千恵とリンクが切れるまで、浮気者として扱います」


 俺も理恵も困り果てた、理恵はとりあえず早めに終わらせてリンクを切ってあげて、と言い帰って行った。


 翌日からも食事などは作ってくれるが、怒った表情のままで今に至る。


 千恵の恋さえ実ればデータを取る必要はなくなる、もう少しだ。


「玲奈そろそろ昼にしないか?」

「浮気者でもお腹は空くんですね」


 まだ怒りは鎮まらない。


「玲奈、俺が愛してるのはお前だけだ」

「知らない」


 それから二日後、ようやく千恵とパートナーは恋愛関係になり、肉体関係も持った。


 俺はすぐにリンクを切って、玲奈に話して謝った、玲奈はボロボロ泣きながら抱きついてきて、辛かった事や寂しかった事を言い。


「もう浮気はしないでね」


 とキスをしてくれた。


 号泣している玲奈にもう二度としないと誓うと、久しぶりに笑顔に戻った。


 玲奈は俺に何度も、愛してると言わせ気が済むと元の玲奈に戻った。


 理恵にも連絡して、リンクを切って玲奈が元に戻った事を伝えた。


「よかったわ、もうしないであげてね」


 と喜んでくれた。


 じいさんにも連絡して、千恵の報告と玲奈の事を伝えた。


『ご苦労だったな、君のプログラムが成功したと言うことじゃ、玲奈の気持ちもわかるから優しくしてやりなさい』

『俺はもう二度とリンクをしないからな』

『わかった、今回は済まなかった』

『ああじゃあまた』


 電話を切った。


「玲奈、仕事の報告も終わった、もう仕事であってもリンクはしないと約束する」

「わかった、お仕事と聞いたから何とか我慢したけど、次は許さないから」

「俺はお前に冷たくされたのが怖かった、お前に嫌われるのは絶対に嫌だから、もう絶対にしない」

「約束だよ」

「ああ約束する」

「じゃあ今夜は仲直りの記念として、何でも好きな物を食べていいわ」

「じゃあ久しぶりに刺し身が食いたい」

「一緒に買いに行こう?」

「わかった」

「理恵さんも久しぶりに一緒に食べよ?」

「聞いてみてくれ」

「うん」


 理恵の家に行った玲奈は、すぐに帰って来た。


「理恵さんもお刺し身が好物だって」

「じゃあ三人前買いに行こう」

「うん」


 魚屋に行くと玲奈が注文した。


「ご主人様、これくらいでいい?」

「十分だ」


 会計を済ませてマンションに帰った。


「ご主人様、お刺し身を用意しておくから、理恵さん呼んできて」

「わかった」


 理恵を呼びに行くと、たっぷりとキスをされた。


「欲求不満なの」

「一人で何とかしろ、とりあえずうちに来い刺し身が待ってる」

「わかったわ」


 理恵を連れて帰ると、用意は出来ていた。


「わぁこんなにたくさん買ったのね」

「理恵さんも好きなだけ食べていいよ」

「ありがとう玲奈ちゃん、聞くのが怖いけど海斗と私の浮気は許してくれるの?」

「うん、いいよ」

「ありがとう」

「さっさと食おう」

「「いただきます」」


 三人で美味い美味いと言いながら、腹いっぱい食った、残った刺し身は俺が無理やり腹に詰め込んだ。


 玲奈はこれだけじゃ栄養分が足りてないからと言って、完全食も飲ませてくれた。


 理恵はもう無理入らないわと言い帰って行った。


「ご主人様、シャワーを浴びましょう」


 と言い久しぶりに体を洗ってくれた。


 アイスを食うと、久しぶりにイチャイチャして過ごした。


「ご主人様欲求不満でしょう?」

「ああかなりな」

「私もよ、ご主人様がもういいって言うまで付き合ってあげるね」


 翌日、月曜がやって来た。


 いつものように起きて、食事をし顔を洗うと、玲奈に下着や服を選び着せていく、俺の準備も終わると、ポルポルで研究所に行く。


「海斗また会議よ、私は会議は嫌い」

「そうか、俺は結構好きだけどな」


 九時に会議室へ行って、じいさんを待つ。


「みんな揃っとるな」


 俺以外みんなが挨拶をする、配られた会議資料を勝手に読む、給料についてだった、俺はもう興味を失った、書類を机に置く。


「では会議を始める、資料を見たまえ」


 俺以外が資料を見る。


「海斗博士は早速興味がないようじゃな」

「ないね」

「まあ聞きたまえ、みんなうちの給料に不満を持った事はないかね? 一流の科学者や技術者を集めているのに、わしは給料の見直しをして来なかった、そこで今回から、ちゃんと見合った給料にしようと思っておる」


 理恵も書類を置いた。


「それぞれの技能に合わせ、給料を増やすが問題ないかね?」

「じいさん、その考えは正しいが、俺は興味がない」

「私もです」

「海斗君も理恵君も興味なしか、まあよい増える事に反対する者はいないと思うが、反対の者は挙手してくれ」


 誰も手を挙げない。


「では今月から所員全員の給料を値上げするので楽しみにしてくれ」

「じいさん、これはじいさんが勝手に決めればいいんじゃないのか?」

「そういうわけにもいかん、役員の多数決をちゃんと取らなければいかん事じゃ」

「わかった」

「では会議は終わりじゃ、会議で意見するのが海斗博士ばかりだ、みんなも見習って意見をはっきり言うようにしてくれ、では解散」


 すぐに研究室に戻った。


「また海斗の株が上がったわね」

「誰も意見を言わないのが悪い」


 俺はゴミ箱に書類を捨てた。


「海斗どんなつまらない会議でも、書類は捨てちゃダメよ」

「わかったよ」


 書類を机に戻した。

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