其の五十四・新田博士

 夕方まで仮眠を取った、スリープモードで玲奈に起こされるまで、とセットしておいたので、玲奈の声で起きた。


「ご主人様、今から焼き肉です」

「ああ理恵はどうした?」

「着替えたら迎えに来るそうです」

「そうか」


 理恵が迎えに来て、いつもの焼き肉屋にいった、肉をたくさん注文し、理恵に聞いた。


「お前はあの注射の事は知っていたのか?」

「知ってたわ、元々は企業スパイ用に記憶を抹殺するために作ったんだけど、効果が予想以上に強くて、肉体と精神までおかしくなったのを今でも使ってるみたいね」

「じゃあ研究所を辞める人間は、全員あれを打たれるのか?」

「いえ、辞めたり転職する人には、リセット注射って所内の記憶だけを消す注射を打たれるだけよ、スパイ注射は見るのは初めてだったわ」

「そうか、野田は元役員なのに、何故知らなかった?」

「さぁわからないわ、私は入所した時に説明を受けたけど」

「あれから野田はどうなった?」

「どこかの街で保護されたそうだけど、私達の体は高栄養、高タンパクでしか生きられないから、いずれ死ぬと思うわ」

「そうかわかったよ、全員がああなるなら文句を言ってやろうと思ってた」

「そこまで酷くないわ、それから明日準役員の新田が入所するから、顔を出せって所長が言ってたわ」

「わかった」

「ご主人様、お肉が焦げてるよ」

「話に夢中になっていた」


 焦げた肉を急いで食べた。


「海斗、焦げたお肉なんて食べないで、新しいのを注文すればいいのに」

「炭になってないからまだ食える」

「今日は海斗のお祝いなんだから、たくさん食べて、玲奈ちゃんもどんどん注文していいわよ」

「理恵さんありがとう」


 焼き肉を腹いっぱい食うと、マンションに帰った、シャワーを浴びてアイスを食うと、玲奈があくびをした。


「お腹がいっぱいになると眠くなるね」

「そういうもんだ、寝るならスリープモードで、ってもう寝てしまったのか」


 俺は玲奈の可愛い寝顔を暫く眺め、早いが俺も寝ることにした、玲奈をベッドに運びスリープモードをセットして眠った。


 七時にスリープモードが解除されると、笑顔の玲奈が覗いていた、抱きしめてキスをする、食事を済ませ顔を洗うと、玲奈の服を選んで着せてやった。


 ポルポルで研究所へ向かう、玲奈は相変わらずポルポルと喋っている、俺は電子書籍を読み始めた。


「到着しました、駐車場で待機します」

「ああ頼む」


 俺と理恵の研究室に入る。


「二人共おはよう」

「おはよう、俺達はまだ呼ばれないのか」

「すぐじゃないかしら?」


 九時になると、アナウンスで会議室に呼ばれた、全員が集まるとじいさんが話し出す。


「彼が昨日言った、準役員の新田博士だ」

「私が新田です、みなさん今日からよろしくお願いします」

「では、斎藤博士から挨拶したまえ」


 斎藤が立ち上がり新田と握手をする。


「五番手の斎藤です、これからよろしくお願いします」

「斎藤博士はアンドロイドのパーツから、新薬開発までこなす科学者じゃ」

「はい」


 理恵が立ち上がり名刺を渡し握手をする。


「四番手の村田理恵です、よろしく」

「彼女は若いが天才科学者じゃ」

「はい、とてもお美しい」

「それはどうも、私は真田博士の愛人よ」


 俺も立ち上がり名刺を渡し握手をする。


「三番の真田海斗だ、じいさんのせいで口は悪いが悪意はない、よろしく」

「海斗君は一番若いがこの研究所の中で一番腕のいいマルチプレイヤーだ、新型アンドロイドのプログラムも彼が作ったし、新型アンドロイド一号の玲奈のパートナーでもある」

「はい、よろしくお願いします」

「じいさん、持ち上げ過ぎだ」

「君にはそれだけの才能があるという事だ、順番は違うが玲奈も挨拶しなさい」

「はい、ご主人様の婚約者で、新型アンドロイド一号の玲奈です」

「人間にしか見えない、凄い技術だ」

「あまりアンドロイド扱いされるのは嫌なので、そこのところお願いします」

「失礼しました」

「息子の健一とわしの紹介は、さっき済ませたから省こう、みんなももういいかね? これからは新田博士も交えて会議等を行う、では解散じゃ」


 研究室に戻ると、理恵が甘えた声で言う。


「海斗ぉ、元の私の部屋にー、新田博士が入るらしいのー、ますます離れられなくなっちゃうぅ、運命だわ」

「そんな喋り方をしても何も出ないぞ」

「もう、頑張ってみたのに、でも所長にあんな口の聞き方や、じいさんって呼んでも許されるなんて凄いわね」

「全部じいさんのせいだからしょうがない、しかし新田はイケメンだ、俺から乗り換えたらどうだ?」

「今日の海斗は酷いわ、私が男を顔で選ぶとでも思ってるの? 私が愛してるのは海斗だけなんだから」

「悪かった、言ってみただけだ」


 ノックされた、理恵がどうぞと言う。


「新田です先程はどうも、隣の部屋を使わせて貰ってます、よろしくお願いします」

「わざわざどうも、じいさんは俺の悪口を言ってなかったか?」

「褒めちぎってましたよ、私も話は聞かせて貰いましたが、凄い方なんですね」

「大した事はない、俺と理恵は月曜以外はいない事が多い、何かあれば携帯に直接かけてくれ」

「わかりました」

「ついでに理恵を貰ってやってくれ」

「そんな人の彼女に手を出す趣味はありませんよ」

「新田博士はいい奴だな、これからもよろしく頼む、ちなみに理恵は男嫌いだ」

「そうですか、こちらこそお願いします」

「あんたの初期改造はまだなのか?」

「明日です」

「そうか、じいさんに任せれば問題ない」

「わかりました、では失礼します」


 新田が戻って行った。


「海斗、さっきの言葉なんなのよ? 流石の私でも怒るわよ」

「新田を試しただけだ、悪かった」

「次は許さないから」

「わかった、許してくれ」

「男嫌いって言ってくれたから許すわ」

「ありがとう、昼飯が済んだら俺は帰る」

「私も帰るわ」


 三人で食堂に行ったら、じいさんに声をかけられた。


「海斗博士、報告が遅くなったが二号は無事に目覚め、パートナーの男と上手くやっておるみたいじゃ」

「そうか、そりゃよかった、心や感情は芽生えたのか?」

「それもバッチリじゃ、おめでとう」

「ありがとう」

「ご主人様おめでとう」

「海斗おめでとう」

「ありがとう、安心した」

「また変化があれば報告するが、君なら千恵とリンクすればもっと細かくわかるんじゃないのか?」

「その手があったか、試してみる」


 三人で食事をしてマンションに帰った。


「ご主人様、今日の理恵さんみたいな喋り方を私がしても変?」

「お前なら似合うと思うが、今まで通りが一番だ」

「じゃあ止めとくね」

「お前は今のままが一番可愛い」

「えへへ、ご主人様愛してる」

「俺も愛してるぞ」

「ご主人様、新田博士みたいな顔がイケメンなの?」

「そうだ、あれがイケメンだ」

「私はあんな中性的な顔は、カッコいいとは思わない」

「まあでも今の流行りの顔つきだからな」

「私はご主人様の顔が一番好き」

「ありがとよ」

「ご主人様は?」

「俺もお前の顔が一番好きだ」

「嬉しい、もっと可愛くなりたい」

「今のままで十分だ」

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