其の五十一・いつものパターン

 三人で花見をした。


「理恵さん、ご主人様と何かあった?」

「抱きしめただけよ、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ、私が許したんだし」

「でも……」

「いいの、それよりお花見楽しもうよ」

「玲奈ちゃんありがとう」

「ご主人様、写真いっぱい撮っていい?」

「好きなだけ撮ればいい、明日は雨だから桜も今日で見納めだ」

「じゃあ来年も三人で来ようよ」

「ああいいぞ」


 三人で桜を楽しんだ、帰り道に理恵が突然泣き始めた。


「ごめんなさい、帰るまで我慢しようと思ってたけど、我慢出来なかった」

「理恵さん悲しいの」

「違うの、玲奈ちゃんが認めてくれた事が嬉しくて、幸せで」

「泣かなくてもいいよ」


 と玲奈が理恵の頭を撫でた。


 結局マンションに戻るまで、理恵は泣き続けた。


「ご主人様、一緒にいてあげて」

「玲奈ちゃんいいの大丈夫、今は一人にさせて」


 と部屋に戻って行った、俺と玲奈も部屋に戻った。


「ご主人様、理恵さんはなんで一人になりたいの?」

「人はそういう時があるんだ、放っておくのが一番だ」

「ご主人様もそんな時あるの?」

「俺はないな」

「私もわかんない」

「大丈夫だ、一時間もすれば落ち着く」

「ご主人様は私を愛してる?」

「もちろんだ、お前のいない生活なんて考えられない程愛してる」

「えへへ私も愛してる、理恵さんは愛してるの?」

「好きだが愛ではないな」

「それだけ?」

「お前を愛してるから仕方ないだろ」

「嬉しくて私も泣きそう」

「泣かないでくれ」

「ご主人様、結婚して下さいね」

「ああもちろんだ」


 暫くすると理恵がやって来た、もう泣いてはいない、部屋に上げてやると玲奈に俺への気持ちを語った、玲奈は珍しく真面目な顔で全て聞くと、笑顔に戻った。


「ご主人様への愛が伝わったわ」


 と玲奈は言った。


 理恵が帰ると、玲奈は何事もなかったかのように普通だった、普通過ぎて俺は何を喋ればいいのか戸惑った。


 翌日の月曜、普段通りの朝を迎えいつもの日常に戻った、予報通り雨の中車に乗ると、玲奈とポルポルの会話が始まる。


「ポルポル雨が止んだら洗車とワックスかけてあげる」

「ワックスがまだ効いているので、窓だけ拭いて下さい」

「それだけ? ボディが汚れちゃうよ」

「でしたら水で流して拭き取って下さい」

「わかった、任せて」

「ありがとうございます、到着しました駐車場で待機しておきます」


 部屋に入ると明るくなった理恵がいた、玲奈とは普段通り接している、女はわからん。


 俺はじいさんの部屋に行った。


「どうしたのかね?」

「一つは俺と理恵の関係がまた元に戻った」

「浮気関係かね?」

「そこまではまだだ、だがもうあんな事件は起こさないから安心してくれ」

「君がそういうなら信じよう」

「もう一つは俺に任されたプログラムの書き換えが終わった」

「もう出来たのかね?」

「ああ例のパソコンを出してくれ」


 じいさんが金庫からノートパソコンを出した、俺は海斗オリジナル、と言うフォルダを作り、そこに俺のプログラムをコピーした。


「参考になればいいが、青字の箇所が俺の書き換えたプログラムだ」

「少し見せてくれ」


 プログラムを見ていたじいさんが言う。


「まだ少ししか見れてないが、素晴らしい」

「そりゃどうも」

「気になったのは、自分で考える、とか、ここで自分でプログラムを書き換える、ってところじゃが、これでちゃんと動くのかね?」

「少なくとも玲奈はそれで動いている」

「ふむ、試してみる価値はありそうじゃな、とりあえず全て読ませて貰う、それから判断しよう、ありがとう君に任せてよかった」

「では部屋に戻る」

「うむ、理恵君を呼んでくれ」

「わかった」


 部屋に戻ると二人が談笑していた。


「海斗、長かったわねどこに行ってたの?」

「じいさんのところだ、任された仕事が終わったから渡してきた」

「内緒で仕事してたの?」

「口止めされてるからな」

「じゃあ聞かないわ、お疲れさま」

「ご主人様、お疲れさま」

「ありがとう、本当に疲れた、理恵を呼べと言われたぞ」

「じゃあ行ってくるわ」


 理恵が出て行った。


「ご主人様、秘密のお仕事が終わってよかったね」

「ああ一安心だ」


 十分程で理恵が帰って来た。


「何を言われた?」

「海斗との関係について聞かれたわ、あんまりしつこく、それでいいのかね? って言われたから、私がどれくらい海斗を愛しているかを言ってやったわ、最後に玲奈ちゃん公認だって言ったら、腰を抜かしそうになってたわ、海斗の極秘の仕事も聞いたわ、アンドロイドのプログラムを書いたそうね」

「そうだ、誰にも言うなよ」

「わかってるわ、所長にも口止めされたし、でも本当に凄いわね、プログラムを書いちゃうなんて」

「採用されるかはわからんけどな、さて俺は食事をして帰るつもりだ、どうする?」

「私も食事に付き合うわ」

「わかった、玲奈行こう」

「うん」


 食堂は昼前なのに混んでいた、何とか席を確保して完全食を飲んだ。


「混んでるのは苦手だ、早く戻ろう」

「そうね」


 食堂を出たところで理恵が呼ばれた。


「村田博士」

「何? 用があるなら部屋へ来なさい」


 と冷たくあしらい歩き出した、俺達も部屋に戻る。


「さっきの男、用があるんじゃないのか?」

「いつものパターンよ、気にしないで」

「いつもの?」


 ドアがノックされた、理恵がドアを開けるとさっきの男だ。


「用なら外で聞くわ」


 ドアが閉まった、玲奈がドアに耳を付けてる、俺を手招きしている、俺もドアに耳を近づけた。


「ハァハァ気持ち悪いわね、用は何?」

「村田博士、入社した時から好きでした、海斗博士とは別れたと聞いています、俺と付き合って下さい」

「私は男嫌いなの、それに海斗とは別れてないわ、諦めなさい」

「愛人なんて止めて下さい、俺が幸せにします、お願いします」

「私は海斗の愛人でいいの、愛してるのは海斗だけよ、諦めなさい」

「そんな」


 バチン


「触らないで、二度と近寄らないで」


 ドアが開き理恵が入ってきた。


「ヤダ聞いてたの?」

「あれがいつものパターンってやつか?」

「そうよ、日常茶飯事よ」

「お前他の男にはめちゃくちゃ冷たいな」

「だって男嫌いだもの、手が汚れたわ」


 理恵が手を洗った。


「気持ち悪いわ、私も帰るわ」


 三人で研究所からマンションに帰った。


「じゃあね」

「大丈夫か?」

「慣れてるもの、平気よ」


 俺と玲奈も部屋に帰った。


「ご主人様、理恵さん他の人には怖いね」

「あんな理恵は初めてだ」

「でも日常茶飯事って言ってたよ」

「そうだな」

「ご主人様がどれだけ愛されてるのかわかったわ」

「じゃあ俺は初めて会った時から、気に入られてたのか?」

「そうじゃないの? ご主人様様子を見て来てあげたら?」

「いや今日は止めておく」

「晩ご飯は誘ってもいい?」

「ああいいぞ」

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