其の五十・振らないで

 夕方に起きると玲奈を連れて、理恵を誘い回転寿司を食べに行った。


「理恵、回転寿司を付き合わせて悪いな」

「いいのよ、私もあまり来たことないし」


 玲奈を一番取りやすい位置に座らせ、その横に理恵を座らせ、俺は一番取りにくい位置に座った。


 俺は好きなサーモンが食えればいい、首を後ろに回し回って来るのを待つ、玲奈は殆どの物に興味を示し片っ端から食べている、理恵も何かを待っているようだ。


 サーモンがやっと来たので取る、理恵はトロを狙っていたようだ、しかしサーモンもトロもなかなか回って来ない、俺は痺れを切らし機械で注文した、理恵のも注文してやる。


 ようやく回ってきた寿司を取って食べるがあまり美味くない、俺はすぐに食べるのを諦めた、理恵もほとんど取らなくなった、玲奈だけ黙々と食べている。


「玲奈そんなに美味いか?」

「そんなに美味しくない」

「その割にはよく食うな」

「全部味見したいもん」

「まあ好きなだけ食え」


 俺と理恵は玲奈が食い終わるのを待った。


「おっ、海斗博士」


 誰かに呼ばれた、高校の時の友達だった。


「おう、久しぶりだな」

「博士になってもこんなとこに来るのか?」

「玲奈が食いたいって言ったからな」

「お前こんな美女二人と付き合えていいな」

「そんなんじゃない」

「お姉さんそんなに海斗が好きなの?」

「ええ好きよ、でも二股じゃないわよ」

「海斗は凄い車に乗ってるらしいな」

「そんな大した車じゃない」

「へぇーじゃあ海斗も玲奈ちゃんもまたな」

「おう」

「うん」


 やっとどこかに行った。


「海斗は有名人ね」

「みんなに知られたからな」

「ご主人様もう食べられない」

「お前凄い量を食べたな」

「うん、でももう回転寿司はいい」

「だったら帰ろう、俺も理恵もあまり食ってないから腹ペコだ」

「じゃあ完全食作ってあげる」

「そうしてくれ」


 会計を済ませマンションに戻った、玲奈が俺と理恵に完全食を用意した。


「ふぅ落ち着いたわ」

「俺もだ、また本を見せてくれ」

「いいわよ」

「じゃあ玲奈、すぐに帰る」

「うん」


 理恵の部屋に行った、また何冊か本を見てタイトルを覚える。


「今日はこれくらいでいいや、理恵今日は悪かったな」


 正面から抱きつかれた。


「好きよ、愛してるわ」


 すぐに離れた。


「これでチャラね」

「お、おう、また今度別の本も見せてくれ」

「いつでもいいわよ」

「お前今、週にどれくらい研究所に行ってるんだ?」

「二回か三回よ、それ以外は大抵家にいるかドライブしてるわ」

「男を作る気はないのか?」

「男なんて興味ないわ、結婚もする気はないわ、私は家庭には恵まれなかったから」

「そうか、凄い美人がもったいないぞ」

「海斗だけ特別だけど、私は独身でいいの、寄ってくる男は体目当てのバカばっかりよ」

「お前は男性経験は豊富なのか?」

「よくそう思われるけど、興味本位でしたことが一回だけよ」

「そうかわかった、じゃあな」

「おやすみ」


 部屋に戻ってすぐに電子書籍を買う。


「ご主人様、前に食べたお刺し身の方が何倍も美味しい」

「そりゃそうだ」

「今度三人でお刺し身食べましょう?」

「ああまた今度な」


『アシスト、さっきの理恵の言葉は本当なのか?』

『本当よ理恵が初めて恋したのが海斗だけ、家庭環境のせいで男嫌いよ』

『俺はどうしてやればいい?』

『優しくしてあげて』

『逆効果にならないのか?』

『ならないわ、以前のように抱いてあげて』

『それは浮気になるから俺が困る』

『男なんだから浮気くらいするべきだわ』

『わかった、もういい』


「玲奈、お前の頭の中を見せてくれ」

「どうぞ」


 頭を手で挟み、プログラムを見る、また無意識に自分で書き換えて進化している、どこを探しても、そうなるようなプログラムは書かれていない、やはり心を宿したからに違いない。


「まだ見てる途中だが、また進化している」

「私は天才ね」

「お前は理恵をどう思ってる?」

「家族みたいな感じ」

「そうか」

「ご主人様も優しくしてあげて、前にも言ったけど理恵さんなら浮気してもいいわ」


 脳を調べたが、本気で言っている。


「そんな事をすれば、また前みたいになる」

「大丈夫よ、理恵さんの愛は本物よ」

「それは知ってる」

「じゃあ構ってあげて」

「俺が怖い」

「でももう二度と自殺しないようにしたんでしょ?」

「したぞ」

「じゃあ大丈夫」

「もういい、脳の検査も今日は終わりだ」


 手を離した。


「お前が進化している原因は不明だ」

「ご主人様でもわからないの?」

「ああ、心を持った事が関係しているのかもしれない」

「ふーん」

「まあでも参考にはなった」

「それならいいわ、シャワーを浴びましょ」

「そうだな」


 シャワーを浴びてスッキリした。


「ご主人様、アイスがもうない」

「まとめ買いしに行こう」

「うん」


 コンビニに行き、かごいっぱいにアイスを買った。


「理恵にも分けてやろう」

「うん」


 チャイムを鳴らす、理恵がドアを開ける。


「どうしたの?」

「アイスをまとめ買いしたから、好きなだけ取ってくれ」

「いいの? じゃあ貰うわ」


 理恵が四つ取った。


「お前に聞きたい事があるが、明日はいるのか?」

「いるわよ」

「じゃあ明日頼む」

「わかったわ、アイスありがとう」


 部屋に戻りアイスを食べた。


「ご主人様、お花見はまだ?」

「もうすぐだ」

「三人で行こうよ」

「理恵に聞いておくよ」

「うん」


 玲奈をベッドに運んだ。


 翌日、十時くらいに理恵の部屋を訪れた。


「聞きたい事って?」


 俺はプログラムの一行を書いて見せた。


「これはなんてプログラム言語だ?」

「パイソンじゃないかしら」

「やっぱり詳しいな」

「これで何かしてるの?」

「AIのプログラムを解析している」

「凄いわね、うちにも本があるわよ」


 本棚に向かった理恵を、後ろから抱きしめる、理恵が動きを止めた。


「私を振ったくせに」

「辛い思いをさせて悪かった」

「海斗はこんな関係でもいいの?」

「それは俺のセリフだ」

「私はこれでいい」

「俺もだ」

「もう振らないで、お願い愛してるの」

「ああわかった」

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