其の四十八・化粧
あれから理恵は仕事の相談とかは来るが、以前のようにアプローチはかけて来なくなった、普通すぎて戸惑った。
『七時です、スリープモード解除』
玲奈と同時に目が覚めた、朝のキスをして寝室から出る、食事を済ませ顔を洗うと、玲奈の着替えをさせる、下着を選んで履かせ、服も選んで着させる、俺も着替えると準備が終わる。
『ポルポル車をまわしておけ』
『了解しました』
一階に下りて車に乗り込む。
「また研究所だ」
「了解しました」
「ビーちゃんはもう出たのか?」
「はい、十分前に出発しました」
「そうか」
「ポルポル、ビーちゃんとお話するの?」
「いえ、しません」
「なーんだ」
暫く二人の会話を聞いていると車が停まった、研究所の入り口だ。
「到着しました」
「ああこの後はわかるか?」
「駐車場で待機ですね」
「そうだ、よく覚えたな」
「ポルポル賢いね」
車を降りて部屋に向かった、ドアをあけると理恵がいる、完全に記憶が戻ってからの初めての出勤の筈だ。
「早いんだな」
「おはよう、だってビーちゃん早いもの」
「そりゃそうだ」
理恵が化粧をしようとしている、俺の知る限り初めてだ。
「おい待て、何をする気だ?」
「化粧よ、たまにはちゃんとしないと」
「やめておけお前はすっぴんの方が美人だ」
少し沈黙の時間があった。
「……わかったわ、海斗の好みならこのままにしておくわ」
『海斗博士、所長がお呼びです所長室にお願いします』
「呼ばれてるわよ」
「わかってる、行ってくる」
じいさんの部屋に入った。
「何だ?」
「理恵君が君の隣に引っ越したそうじゃないか?」
「ああそうだ、しかも記憶が全て戻っているみたいだ」
「それは君にとっても理恵君にとっても都合が悪いんじゃないのかね?」
「以前の理恵だったら都合が悪いが、今は大丈夫だ」
「また自殺を企てたりしないのか?」
「そこは俺が脳をいじって、ストッパーをかけてるから問題ない」
「理恵君は君にまだ気があるのか?」
「あると言われたが、もうアプローチはしないらしい、だから大丈夫だ」
「そうかそれならいい、話はそれだけだ」
「俺からも質問がある、理恵の両親や家庭環境を知っていたら教えてくれ」
「なんじゃ知らんのか、大金持ちの祖父から大金を相続しておる、両親も科学者で、理恵君を放ったらかしてアメリカの研究所に行った、金はあるが家庭には恵まれておらん」
「家庭環境には恵まれてなかったのか、わかったありがとう」
部屋に戻った、何も聞かれなかったので安心した。
「私は工場を見てくるわ」
「わかった」
理恵が出て行った。
「ご主人様、私もお化粧した方がいいの?」
「お前はそのままが一番美人だ、化粧はしなくていい」
「うん、ご主人様はお化粧が嫌いなの?」
「ああ嫌いだ」
「ふーん、わかった」
「それにしても毎回暇だな」
「ご主人様の秘密のお仕事は?」
「ここでは集中できない」
「じゃあ暇だね」
「ああ」
一時間程で理恵が帰って来た。
「完全食の売上を分析して出荷の数の割合を調整してきたわ」
「そうか、俺にも何か仕事はないか?」
「ないわ」
「暇過ぎるぞ」
「役員だもの仕方ないわ、下から何か要望があれば処理や判断をするだけよ、後はオペや会議をするくらいね、私も暇だから本や漫画を持ち込んで時間を潰してるのよ」
「出勤する意味がねえな」
「海斗も何か持ってくればいいじゃない、それか何か企画や開発をすれば?」
「企画や開発なんてポンポン出来るわけがない」
「非常勤勤務なんだから、用事が終われば帰ってもいいわよ、私も勤務体系の見直しをしてるもの」
「お前の手取りはいくらだ?」
「六十万円よ」
「俺は四十五万円だ」
「時給に直せば私よりいいわね」
「俺は給料にはこだわりがない」
「それは私も同じだわ」
「暇だしお前の脳の最後の検査をする」
「もう大丈夫だけどお願いするわ」
頭を手で挟み、脳を検査した。
「まだ見てる途中だが、記憶も全部思い出して、脳も異常は見つからない、お前本当に俺が好きなんだな」
「ええ愛してるわ」
脳が反応した、本気で言っている。
「何故自殺を図った?」
「別れるって言われて気がどうかしてたわ」
「わかった、検査は終わりだ」
「ありがとう、私に何かあればオペも全てあなたに任せるわ、私の担当医よ」
「わかった担当医になってやる、俺は今日は寄り道して帰る」
「わかったわ、ねえ今夜一緒にすき焼きにしない?」
「いいな、わかった待ってる、玲奈帰るぞ」
「はーい、ポルポルを呼んでおくわ」
研究所を出て車に乗り込む。
「帰宅ですか?」
「そうだが今日は家の近所の携帯ショップに寄ってくれ」
「三件ありますが、どこにしますか?」
地図が表示された。
「一のショップでいい」
「わかりました」
車が走り出す。
「ご主人様、今更携帯を買うの?」
「いや、タブレットを見に行くんだ、それがあれば電子書籍が読みやすいからな」
「それなら体内スマホを頭の中で大画面にすればいいのに」
「そんな機能があったのか?」
「うん」
「ポルポルやっぱりまっすぐ帰ってくれ」
「了解しました」
「私役に立った?」
「ああ助かった」
「やったー」
「玲奈、真面目な話だが、理恵は金は持ってるが、家庭環境に恵まれず育ったらしい、優しくしてやってくれ」
「はい、ご主人様は優しいわ」
「普通だ、それより今夜はすき焼きだぞ」
「うん、楽しみ」
マンションに戻ると食事をして、夕方まで仮眠を取った。
十八時にスーパーの袋を持って、理恵がやって来た。
「カセットコンロだけ貸して、味付けの好みがわからないから、わたしのオリジナルよ」
「ああ、すき焼きならどんな味でもいい」
「私達の体に合わせて、お肉がかなり多めだから、じゃんじゃん食べて」
理恵が肉を大量に入れた、すぐに食べ始める、かなり美味いので褒めてやった。
「一人でこういう食事は虚しいから、久しぶりなの」
「そういう料理ならうちで一緒に食えばいいじゃないか、なあ玲奈」
「うん、その方が美味しいわ」
「ありがとう、じゃあまた何か考えるわ」
玲奈と理恵がどんな料理がいいか話している、俺は黙々と食べ続けた。
「海斗、今日所長と話し合って、私も非常勤勤務に近い形にして貰ったわ」
「その方が暇を持て余すよりいい」
「私ものんびりしたくなったから」
「お前も金はあるんだからそれでいい」
「このマンションの完全防音もいいわね」
「ああ、お前の喘ぎ声しか聞こえない」
理恵が顔を真赤にした。
「毎晩聞こえてたの?」
「冗談だ何も聞こえない、毎晩とは驚きだ」
「バレたわ、驚かさないで」
「俺はもう食えん、腹が裂けそうだ」
「私もよ、玲奈ちゃんは?」
「私ももう十分よ」
三人でごちそうさまをすると、玲奈と理恵が後片付けをして、終わると理恵は帰って行った。
「ご主人様、三人で食べると美味しいね」
「そういうもんだ」
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