其の四十七・戻った記憶

 久しぶりに月曜の会議があった、全所員の人数と役員の数の割合が適切ではない、と言う話しだった、俺は興味はないので黙って聞いていた、一人ずつ意見を求められたが、減らすべきだと全員が言った、俺も同じ意見だと言った。


「では減らす方向で進める、実力重視なので外されても文句は言わないでくれたまえ」


 全員がわかったと言った、それだけのつまらない会議だった、部屋に戻り現役員の名簿を見直した、まあ減らすべきだろうな。


 俺と理恵がじいさんに呼ばれた、二人でじいさんの部屋に入る。


「君達二人は外さないから安心したまえ」

「わかった」

「わかりました」

「実はもう外す役員は決めてある、これを見て意見を聞かせてくれ」


 と一枚の紙を渡された、外れるのは野田とスザンヌ、飯田と山田だった。


「俺はこれでいい」

「私も異論はありません」

「ではこれで決定だ、役員は五人になる」

「じいさんに任せる、俺はあまり興味ない」

「私も海斗と同じです」

「わかった、ではまたメールを送る」

「わかったよ、部屋に戻る」

「私も失礼します」


 部屋に戻った。


「俺達を呼ぶ意味がわからん」

「意見が聞きたかっただけじゃない?」

「まあいい、もう帰っていいか?」

「まだダメよ、発表があるまで待機よ」

「わかったよ、早めに食事しないか?」

「そうしましょう」


 玲奈を連れて三人で食堂に行き、食事を済ませた、部屋に戻るとメールが届いていた。


 じいさん、沼田博士、俺、理恵、斎藤の順で地位も決まった、外れた役員は、一応別の役職が与えられていた。


「海斗に抜かれたわ」

「俺は何番でもかまわん、斎藤ってどんな奴だ? 会議でしか見たことないぞ」

「斎藤博士はオペで使う人工臓器とか薬などの開発者よ、腕はいいわ」

「そうか」

「ところで、引っ越しをしようと思ってるんだけど」

「急に何でだ?」

「今のマンションにいると、落ち着かなくなったから」

「それなら落ち着けるとこへ引っ越した方が精神的にもいい、賃貸か分譲どっちにするんだ?」

「お金はあるから分譲にしようと思ってる」

「そうか、何かあれば手伝うぞ」

「ありがとう、海斗のマンションも検討してるの」

「便利で住みやすいが、億ションだから少し高いぞ」

「高くてもいいわ、海斗程じゃないけどお金はあるから」

「何でそんなに持ってるんだ?」

「祖父が資産家だったの」

「そうか、決まったら教えてくれ」

「わかった」

「理恵さんそんなにお金あるなら、ポルポルみたいな車を作って貰ったら?」

「実はもう頼んでるわ、もうすぐ納車なの」

「じゃあポルポルの妹だね」

「そうね、完成してから見せて驚かそうと思ってたの」

「俺はもう驚いてるぞ」

「納車したら見せるわ」

「わかった、玲奈そろそろ帰るか?」

「うん」

「じゃあ理恵、先に帰る」

「わかったわ」


 ポルポルを呼んでマンションに向かった、玲奈はポルポルに妹が出来ると、ずっとポルポルと喋っていた。


 マンションに戻ると部屋着になってくつろいだ。


「ご主人様、ポルポルに妹が出来るなら、理恵さんもこのマンションだったらいいね」

「何でだ?」

「理恵さんが同じマンションなら、ポルポルと同じ駐車場でポルポルが寂しくなくなるでしょ?」

「ポルポルにそこまでの感情はないぞ」

「そうかなあ?」

「どこに引っ越すかは理恵の自由だ、放っておけ」

「わかった」


 翌日、ゴミ捨てに行った玲奈が慌てて帰って来た。


「ご主人様理恵さんが隣に引っ越してきた」

「昨日の今日でそんな事あるわけがない」

「いいから来て」

「わかったよ」


 ドアを開けると不動産屋の人間と理恵が来ていた、ただの下見じゃないか。


「理恵、見に来たのか?」

「ええ、隣じゃ迷惑かしら?」

「いや、お前が気に入ったら住めばいい」

「ありがとう、とりあえず中を見て判断するわ、候補はもう一軒あるし」

「わかった、じっくり選べ」


 二人が部屋に入っていった。


「玲奈の早とちりだ、ただの下見だ」

「なーんだびっくりした」

「邪魔するなよ」

「しないよぅ」

「じゃあ部屋に戻れ」

「うん」


 三十分くらいでチャイムが鳴った、玲奈が出る。


「ご主人様、来てー」


 玄関に行くと理恵がいた。


「どうだった?」

「ここに決めたわ、キッチンと寝室が気に入ったの」

「そうか、引っ越しはいつだ?」

「まだ決まってないけど、早めにするわ」

「わかった」

「じゃあね」


 理恵が帰った。


「ご主人様、本当に同じマンションになっちゃった」

「そうだな、隣が知ってる人の方が安心だ」

「私も安心」

「それより昼飯にしてくれ」

「はい」


 完全食を飲んで落ち着いた。


「ご主人様、隣に声は聞こえない?」

「聞こえない、完全防音だから安心しろ」

「わかったわ」


 三日後、理恵が引っ越してきた。


「海斗、玲奈ちゃん今日からお隣同士よろしくお願いします」

「ああこちらこそよろしく」

「理恵さんよろしくね」

「引っ越し蕎麦の代わりにケーキにしたわ、後で食べて」

「悪いな」

「いいのよ、ダーリン」


 時が止まった感覚がした。


「……お前……思い出したのか?」

「ええ二日前に、正直私はまだあなたを愛してるわ、だけど玲奈ちゃんを悲しませるのは嫌だから、これからは普通に仕事のパートナーとお隣さんとして接するわ」

「理恵さん辛くないの?」

「今は辛くないわ大丈夫よ、それより今日納車だから車が来たらお披露目するわ」

「わかった」

「ポルポルの妹だわ」

「じゃあまた後で」


 理恵が戻った。


「ご主人様、理恵さん思い出しちゃったね」

「でも本人もああ言ってるから大丈夫だ」

「そうね」


 昼飯が終わって暫くすると、理恵が来た、車が届いたと言うので、三人で駐車場へ行った、ポルポルの隣のBMWがそうだろう。


「この車がポルポルの後輩よ」

「ご主人様、駐車場までお隣さんだわ」

「そりゃ家が隣だからな」

「AIとかの性能はポルポルと全く一緒よ」

「理恵さんなんて車?」

「BMWって車よ、呼びにくいからビーちゃんって名前にしたわ」

「ビーちゃんカッコいい」

「ビーちゃん、隣のポルシェがあなたの先輩になるのよ、名前はポルポルよ」

「わかりました、覚えました」

「わぁ本当に一緒だ」

「ビーちゃん、この二人がポルポルのオーナーだから覚えておいて」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくな」

「ビーちゃんよろしく」

「私は試運転も兼ねて、買い物に行ってくるわ」

「わかった」

「理恵さん今度乗せて」

「いいわよ、じゃあ行ってくるわ」


 BMWが静かに走り出した。

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