其の四十六・ポルポルの車検

 また平和な日常に戻った、極秘のアンドロイドのプログラムを、何度も読み返し別のファイルにコピーして、書き換える作業を少しずつ始めた。


「ご主人様、最近忙しそう」

「前に話した、アンドロイドのプログラムを書き換える作業をしているからな」

「ご主人様って凄いね」

「改造人間だからな」

「ご主人様が作ったプログラムが、新しいアンドロイドに入るの?」

「どうだろうな、俺の仕事は完成したらじいさんに渡すだけだ」

「ふーん、私のも書き換えて」

「お前は人間と同じく、日々進化しているから、書き換える必要はない」

「私はそんなに優秀なの?」

「ああお前は天才だ」

「ありがとう」

「俺はこの仕事より、お前との時間を大事にしたいから、何でも言えよ」

「うんじゃあお花見がしたい」

「花見はまだ少し早い、桜が満開になったら連れて行ってやる」

「はーい、ポルポルがもうすぐ車検の時期って言ってたよ」

「もう車検か、研究所の車両部に任せるから大丈夫だ」

「お金がかかるんでしょう?」

「車を所有していると、いろいろ維持費がかかるからな」

「維持費は知ってる、オイル交換とかタイヤ交換とか、いろいろあるんでしょう?」

「そうだ、結構かかるから今の若者は車を買わない奴が多い」

「そうなんだ」

「よし、今日の仕事はここまでだ」

「お疲れさま、お昼にしましょう?」

「ああ頼む」


 食事を終えると疲れた体全体に栄養が行き渡る感覚がする。


『ポルポル、車検はいつまでだ?』

『今月中です』

『もっと早く言え』

『すいません』


 研究所の受付けに電話をかけ、車両部の連絡先を聞いて、車両部にかける。


『海斗博士だ、車検を頼む』

『海斗博士の車はうちの開発したポルシェでしたね?』

『そうだ』

『今月いっぱいなので、早めに来て下さい』

『いつでもいいのか?』

『はい、今日でもいいですよ』

『わかった』


 電話を切った。


「玲奈、ポルポルの車検が切れてしまう」

「じゃあ急がなきゃ」

「今から行くか」

「うん」


『ポルポル、今から車検に行く車をまわせ』

『はい、お願いします』


 玲奈を連れて一階に下り、車に乗り込む。


「研究所の車両部に行け」

「了解しました」

「次からはもっと早めに言えよ」

「はい」


 整備工場のようなところで停まった。


「到着しました」

「電話をした海斗だ」

「はい車検でしたね、私田中が担当します」

「ああ頼む」

「四号車検だ、おい四号」

「ポルポルと呼んでやってくれ」

「はい、ポルポル車検だ」

「あなたはオーナーではないので、乗せれません」

「まいったな」

「ポルポル車検が終わるまで、田中さんの指示に従え」

「わかりました」


 やっとドアが開いた。


「悪いところは全部直してくれ」

「わかりました」

「終わったら連絡をくれ」

「はい」

「玲奈行くぞ」

「車検見てたい」

「田中さん悪いが見せてやっていいか?」

「はい、いいですよ」

「では頼む、玲奈俺は部屋で待ってる」

「うん」


 車検を見て何が楽しいのかわからんが、まあいい、部屋に向かった。


「海斗、どうしたの?」

「車の車検に来た」

「そう、玲奈ちゃんは?」

「車検を見学している」

「面白いのかしら?」

「俺にはわからんがここで待たせて貰う」

「コーヒーを入れるわ」

「すまんな」


 コーヒーを飲みながら聞いた。


「理恵、完全食の売れ行きは順調なのか?」

「完全食、プロテイン部門では他社を抜いて一位を独占してるわ」

「そんなに売れてるのか」

「評価もいいし、リピーターも多いわ」

「そうか、お前の今の仕事は何だ?」

「アンドロイドの一号から五号の不具合がないか確認して回ってるわ」

「そうか二号と五号のカルテはあるか?」

「あるわよ」

「少し見せてくれ」

「どうぞ」


 二号と五号のカルテを借りて読んだ、大した問題はない、自分のカルテに内容をコピーした。


「ありがとう返しておく」

「はい」


 これで全員のカルテが揃った。


 ドアが開いてじいさんが入って来た。


「海斗博士もいたのかね」

「ポルシェの車検に来ただけだ、ここで待たせて貰っている」

「そうか、理恵君頼んだ仕事は順調かね?」

「今日中に終わります」

「わかった」


 じいさんが出て行った、理恵は二回どこかに電話をして、カルテをじいさんに返しに行った。


 俺も玲奈に連絡を入れた。


『どうだ、楽しいのか?』

『楽しいわ、ポルポルがわがままだから田中さんが困ってるわ』

『後どれくらいで終わりそうなんだ?』

『わからない』

『じゃあ俺は寝ておく』

『はーい』


 パイプベッドに横になった、スリープモードは使わず、ウトウトとして過ごした、寝心地の悪さで起き上がった。


「海斗もう起きたの?」

「寝心地が悪い、仕事は終わったのか?」

「ええ、暫く暇になったわ」

「そうか、もう暫く脳は休めた方がいい」

「わかったわ」


 車両部から連絡が入った。


『博士、遅くなりましたが終わりました』

『わかった今から行く』

『はい』


 電話を切った。


「車検が終わったみたいだ、帰るよ」

「わかった」


 部屋を出て車両部に行った。


「いやぁ、こんなわがままに作ったはずじゃなかったのですが」

「機械も心を持てば進化するものだ」

「そうなんですか?」

「ああそうだ、金を払ういくらだ」

「十六万円です」

「全部やってそんなに安くていいのか?」

「ええ、かかった費用だけで結構です」

「悪いな」


 金を払うとポルポルが横に停まった、玲奈が乗っている。


「ありがとう」


 助手席に乗り込んだ。


「ポルポル、マンションに戻って」

「わかりました」

「ご主人様、車両部の人達は誰も私がアンドロイドって気付かなっかたわ」

「見た目だけではわからないからな」

「研究所の人だから知ってるかと思ってた」

「全員が知ってるとは限らんからな」

「ご主人様、ポルポルってエンジンルーム後ろに付いてるんだよ」

「リアエンジンリアドライブだからな」

「私初めて見たわ」

「楽しかったか?」

「うん次も見たい」

「次はまだまだ先だ」

「いつ?」

「二年後だ」

「そんなにかかるの?」

「そうだ、でもオイル交換とかはもっとこまめにするから、見たければ見ればいい」

「うん」

「到着しました、海斗車検ありがとうございました」

「気にするな駐車場に戻っておけ」

「了解しました」

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