其の四十五・アンドロイド三号

 何事もなく数日が過ぎた、これでいい。


 理恵から連絡が入った。


『どうした?』

『海斗博士、新しいココア味とバナナ味の売上も順調です、やりましたね』

『そうか、理恵が頑張ってくれたおかげだ、それから海斗博士は止めてくれ、君はもっと図々しく自分勝手な性格だった』

『なんて呼べばいいですか?』

『海斗でいい』

『わかりました、では』


 電話が切れた。


「ご主人様、凄くいい天気、ワックス日和だからワックスかけていい?」

「いいぞ、心配だから俺も見ておく」

「うん」


 二人で駐車場に行き、俺は見学することにした。


「ポルポル、ワックスかけてあげる」

「ありがとうございます」

「ワックスのかけ方を教えて」

「わかりました」


 これなら心配いらないな、黙って最後まで見届けた。


「ご主人様見て、ポルポルがこんなにピカピカになったわ」

「そうだな、綺麗になった」

「玲奈、ありがとうございます」

「またワックスかけてあげる」

「はい、暫くは大丈夫です」

「ご主人様部屋に戻りましょう」

「わかった」


 郵便物を取り出し部屋に戻った、先に食事を済ませ郵便物を確認する、研究所からハガキが来ていた、毎月の完全食の配達の希望の申し込みのハガキだ、玲奈と相談して飲み慣れたバニラ味を四袋と、ココア味とバナナ味を一袋ずつ計六つにした、玲奈にハガキを出しておくように言って渡した。


「ご主人様、理恵さんの記憶が戻ったらどうするの?」

「その時はその時だ」

「また自殺するかも」

「じゃあ今度検査の時に、自殺しないようにストッパーをかけておく」

「うん、コンビニに行ってきてもいい?」

「いいぞ、ハガキ出しておいてくれ」

「わかった」


 玲奈は最近漫画の週刊誌を買うようになった、またそれだろう、暫くするとやはり週刊誌を持って帰って来た。


「玲奈、明日研究所に少し行く、お前は俺の部屋で待っててくれ」

「はーい」


 翌日、朝から研究所に行った。


「玲奈は部屋で漫画でも読んでいてくれ、俺はじいさんと仕事の話がある」

「わかった」


 じいさんの部屋に入る、また沼田博士と一緒にいる。


「海斗博士、どうした?」

「例の物を見に来た」

「そうか、全部読むには一ヶ月はかかるが通うかね?」

「どれくらいの量か見せてくれ」

 じいさんが金庫からノートパソコンを取り出して、俺の前に置いた、アンドロイドプログラムと書かれたファイルを開く、サーッとスクロールして内容を見る。

「もうだいたいわかった」

「本当かね?」

「俺を誰だと思っている、それよりじっくり読み返したいたいから、データを頭にコピーしてもいいか?」

「頭の中ならかまわん」


 俺は手をかざしデータを抜き取り、チップにコピーした。


「終わった、ノートパソコンは返しておく」

「流石じゃな、時間はいくらかかってもいいから、気になったところや改善した方がいいところを教えてくれ」

「わかった、ちなみに沼田博士は全部読んだのか?」

「ああ私は理解するまで、三ヶ月かかった」

「そうか、じゃあ俺もじっくり読み返す、では失礼する」

「極秘で頼むぞ」

「わかってる」


 自分の部屋に戻った。


「ご主人様、もう終わったの?」

「ああちょっとした話し合いだ、理恵ちょっといいか?」

「はい」

「脳の検査をする」

「お願いします」


 頭を手で挟み脳を調べるが異常はない、俺への感情も封印されたままだ、自殺しないように脳を弄る、手を離した。


「異常は見当たらない、健康そのものだ」

「ありがとうございます」


 ドアが開いた、所員が慌てている。


「海斗博士、急患です」

「アンドロイドか?」

「そうです」

「ここに連れてこい」

「わかりました」


 すぐに所員と一緒に、若い男が女を抱えて入って来た。


「海斗博士ですか? 優子が突然ひきつけを起こして気を失いました」

「ベッドに寝かせろ、優子のカルテを持ってきてくれ」

「はい」


 すぐにじいさん達を連れて戻って来た。


「海斗博士、優子のカルテじゃ」


 受け取り中を読む、三号優子、パートナーの男のところに行ってから、三年間何も問題はない、カルテを置いて脳を探る、脳波がかなり乱れている、男に質問した。


「おい、最近喧嘩やトラブルはあったか? 脳波がかなり乱れてショック状態だ」

「昔の彼女から電話があって、口喧嘩しました、他には何もないです」

「原因はそれだな、原因が特定出来たから簡単だ少し待っててくれ」

「お願いします」


 脳波の乱れを簡単に取り除く、脳のチップを少し書き換えて、すぐにヒステリーを起こさないようにした。


「もう大丈夫だ、脳を少しいじったから、同じような事はもうないだろう、もうすぐ目を覚ますはずだ」

「ありがとうございました」

「君への愛が強すぎただけだ、心配しなくてもいい、君ももっと愛してあげろ」

「はい」


 理恵が突然ヒステリーを起こし悲鳴を上げた、頭を手で包み落ち着かせる、優子の事もあるので眠らせて椅子に座らせた。


「海斗君、どうなっておる?」

「わからんが二人同時に治療は出来ないから眠らせた」


 優子が目を覚ましたようだ、忙しい。


「優子、君の担当医の海斗だが、体の調子はどうだ?」

「先生平気ですが、私は壊れたのですか?」

「壊れてはいない安心しろ、倒れただけだもう治療も終わった」

「ありがとうございます、私のご主人様はどこですか?」

「ここにいる君を心配している、おい優子に声をかけてやれ」


 二人が話し始めた、もう大丈夫だ、続けて理恵の脳を探る、少し脳波が乱れただけだ、脳波を正常に戻し目覚めるまで放っておく事にした。


「海斗君、理恵君の治療は?」

「もう終わった、寝ているだけだ」

「相変わらず早いのう」

「簡単だったからな」


 優子が立ち上がった。


「歩けるなら帰ってもいい」

「はい、ありがとうございました」


 男と優子が帰って行った。


「じいさん、もう問題ないカルテを返しておく」

「わかった、理恵君も頼むぞ」


 やっとみんなが出て行った、新しいカルテに優子の事を記入する、すぐに終わった。


 それから三十分で理恵が目を覚ました。


「あれ? 私どうしたんですか?」

「原因はわからなかったが、脳波が少し乱れて気を失っただけだ、心配しなくていい」

「ありがとう」

「何か心当たりはあるか?」

「ないです」

「俺にもわからない事があるんだな、まあいい理恵も仕事が終われば家に帰って休め」

「はい」

「俺は帰るが何かあったら連絡しろ」

「はい」

「玲奈、帰るぞ」

「うん」


 マンションに帰った、流石に疲れた。


「ご主人様、お疲れさま」

「ああ流石に二人同時は疲れた」

「お昼食べたら寝てもいいよ」

「そうする」

「私以外のアンドロイドって脆いね」

「そうだな、お前は特別仕様だから強いのかもしれないな」

「そうかもね」

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