其の三十七・玲奈の進化

 玲奈がポルポルを可愛がるようになった、洗車してあげたいというので、洗車機を見せてやったら、こんなのじゃなくスポンジで洗ってあげたい、と言うので洗車用品を揃えてやった、うちの駐車場には洗車スペースがあるので、ポルポルと会話しながら洗車をしている、理恵に電話をした。


『なあに?』

『玲奈が神を信じるようになった』

『ええー、凄い事だわ』

『神社やお寺に行って神頼みするそうだ』

『他には?』

『一人で行動することも増えた』

『興味深いわね、それだけ?』

『後、車を洗車したいと言ったのは、そんな大した事じゃないが、洗車機じゃ可哀想と言って、車と話をしながら手洗いしている』

『玲奈ちゃんにとって、ペットみたいな物かしら?』

『そうかもな、愛車と言って可愛がってる』

『それ全部報告してもいいかしら?』

『かまわない、腰を抜かすかもな』

『そうね、報告ありがとう』

『ああ、また連絡する』


 電話を切った。


「ポルポル、こんな感じでいい?」

「はい、ありがとうございます」

「今度ご主人様と、京都までドライブするから、駐車場のある神社やお寺を探してて」

「わかりました」

「ご主人様、最後まで見てなくていいのに」

「お前の初洗車を見たかっただけだ」


 二人で部屋に戻った。


「ご主人様」

「何だ?」


 背中に何かを隠している。


「はい、チョコレート」

「ありがとう、手作りなのか?」

「うん、ご主人様が寝てる間に作ったの」

「これは嬉しい、食べてもいいか?」

「もちろん」


 綺麗に作られたチョコを一つ食べた。


「うん美味い」

「味には自信あるもん」

「ホワイトデーに何かお返しするよ」

「それならハンカチがいい」

「そんなのでいいのか?」

「うん、身だしなみには必需品よ」

「わかった、可愛いのを何枚か買ってやる」

「ありがとー」


 理恵から着信が入った。


『腰を抜かしてたか?』

『そんな感じよ』

『何か言ってたか?』

『ダーリンに検査して欲しいそうよ』

『何でじいさんが自分で言わないんだ?』

『私からの方が聞いてくれそうだから、って言ってたわ』

『あいつは俺にビビってるのか?』

『そりゃあんだけ暴れたら誰でもビビるわ』

『まあいい、月曜に検査する』

『わかったわ』

『お前今日休みの日じゃなかったのか?』

『緊急オペで呼び出されたの』

『そうか、部屋に脳波を計る機械を一台置いてくれないか?』

『手配しておくわ、それだけでいいの?』

『ああ俺にはそれだけで十分だ』

『わかったわ、そろそろ帰るわ』


 電話が切れた。


「玲奈、月曜に簡単な検査をするからな」

「うんわかった」

「怖くはないのか?」

「ご主人様が担当なら何も怖くないわ」

「そうか、今回は切ったりしないから」

「手のひらで検査するの?」

「そうだ、俺にしか出来ない検査だ」

「わかったわ、ところで高速道路ってどうやって乗るの?」

「高速道路にもよるが、入り口か出口で金を払うんだ、走りたいのか?」

「うん、ポルポルもたまに早く走らないとエンジンに悪いって言ってたし」

「そうかたまにはスピードを出してやろう」

「ETCって機械が付いてるって聞いたわ」

「それなら金を払う必要はない」

「何で?」

「ETCってのは自動で金を支払う機械だ、もちろんETCカードを差し込まないとダメだからな」

「ETCカードってどこで手に入れるの?」

「お前に渡したカードで大丈夫だ」

「便利ね、京都に行く時に乗る?」

「どっちでもいいぞ、京都なら下道を走ってもそんなに時間はかからない」

「ついでだから乗りましょう?」

「わかった」

「明日行きたい」

「明日は日曜で道も人も混むから却下だ」

「平日なら大丈夫?」

「ああ大丈夫だ」

「わかった、土曜日曜の週末って混むの?」

「ふつうのサラリーマンが休みだから、街も道路も混む」

「覚えたわ」

「その他にも祝日やお盆、ゴールデンウィーク、年末年始は特に酷いから覚えておけ」

「わかった、渋滞ってやつね」

「そうだ、よく覚えたな偉いぞ」

「えへへ、ありがとう」

「お前は賢いのかバカなのかわからん」

「バカじゃないもん、いろんな知識もあるし勉強も大学レベルまでわかるもん」

「そうじゃなくてインプットされた事に対しては知識があるが、インプットされてない事は、幼稚園レベルなんだ」

「それは仕方ないわ」

「だがお前の凄いところは、学習能力が他のアンドロイドより優れているとこだ」

「その優れたところに所長が驚いてるの?」

「そうだ」

「ふふん、だって私だけ特別仕様だもん」

「その特別仕様の能力を超えてるから、みんなが驚いているんだ」

「ふーん、私にはわからないわ」

「それの検査を月曜にする」

「わかった、所長の度肝を抜いてあげるわ」

「それも覚えた言葉か?」

「そうよ、ご主人様少し休む?」

「そうだな、少し休ませて貰う」

「どうぞ」


 いつもの膝枕で横になった。


『スリープモード開始、十七時に起床』


 すぐに落ちた。


 ……


『十七時です、スリープモード解除、睡眠時間が少ないので、疲労物質が取り除けていません、もう少し睡眠を取りますか?』

『かまわん、ただの仮眠だ』

『わかりました』


 何か鼻歌が聞こえる、驚いて目を開けた。


「ご主人様おはよう」

「おはよう、今の鼻歌は誰の曲だ?」

「私のオリジナル曲よ、歌詞も考えたわ」


 俺はかなり驚いた。


「それもお前の凄い事の一つだ」

「そうなの?」

「自分で作詞作曲するデータは入っていないはずだ」

「そうね、インプットされてなかったわ、今は入ってるけど」

「さっきの言葉は訂正する、お前は天才だ」

「でしょう? もっとオリジナル曲作るわ」

「ああいっぱい作れ」

「ご主人様、晩ご飯は何肉がいい?」

「豚がいいな」

「じゃあ作るね」


 褒められたのが嬉しかったのか、歌を歌いながら料理を始めた、歌はかなり上手いが歌詞の内容はバカだった。


 初めて美味いとんかつを食べた、高級な豚肉はステーキと同じくらい柔らかかった、玲奈も驚いていた。


 いつもと同じくシャワーを浴びると、玲奈はまたドライブの雑誌を読み始めた。


「お前一回見たらデータとして頭に残るだろう?」

「残るけど読み返すと新鮮だもの」


 確実に進化している、しかも進化のスピードが早い、もう普通の人間と変わらない。


「ご主人様、久しぶりにオヤジギャグが聞きたい」

「そうだな、ベタだが言うぞ」

「うん」

「アルミ缶の上にあるミカン」

「アルミ缶の上にあるミカン……ぷっうふふふ、アルミ缶とあるミカンが混ざってる、ヒヒヒヒフハハハ、ヒィヒィ息が出来ない、お腹がよじれるぅ、あはははいひひひ、ふぅふぅ、これ好きかも」

「こんなので大爆笑するアンドロイドはお前一人だけだぞ」

「だって言葉遊びって面白いもん」

「よく考えたら、これもお前の大きな進化の一つだな」

「そうなの?」

「ああ科学者から見れば、かなり興味深い事だと思うぞ、思い出し笑いもするしな」

「私には普通の事だけど」

「まあそれだけお前が人間に近い証拠だ」

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