其の三十六・ケーキ

 数日後、理恵に電話をかけた。


『どうしたの? 抱きたくなった?』

『今はまだそんな気分じゃない』

『わかってるわ、あれから眉間にシワを寄せて怖い顔をしてるもの』

『それより所員は本部だけで何人いる?』

『全員で玲奈も合わせると五十人よ』

『それだけか?』

『これでも優秀なエリートを集めた部隊よ』

『わかった』

『急にどうしたの?』

『俺を助けてくれた礼がしたくてな』

『そう、何にするの?』

『それを悩んでいるからかけたんだ』

『それなら女子の方が多いから、ケーキとかはどう?』

『ケーキか、一人何個がいいと思う?』

『二つもあれば十分よ』

『配達の車が行っても大丈夫か?』

『大丈夫よ、研究所の地上部分はただのオフィスと病室だもの』

『わかった、ありがとう』

『楽しみにしておくわ』


 電話を切って、美味しいと有名なケーキ屋に玲奈と行った。


「大量注文と配達は出来るか?」

「明日以降なら大丈夫です」

「じゃあ一箱二つ入りのケーキを五十個」

「そんなにたくさんですか?」

「無理か?」

「いえ、任せて下さい」

「ケーキの種類は任せる、配達はこの住所で頼む、受付に渡してくれ」


 名刺を渡した。


「わかりました」

「金はいつ払えばいい?」

「配達員に渡して下さい、今からだと明日の昼頃が最短になります」

「それでいい」

「ありがとうございます」

「じゃあ頼んだ」


 店を出るとアイスを買って帰った。


「ご主人様太っ腹ね」

「どこでそんな言葉を覚えた?」

「漫画よ」

「お前はもっと漫画や小説を読んで、そういう言葉を覚えろ」

「はーい」


 翌日、昼前に研究所へ行った。


「ポルポル駐車場で待ってろ」

「了解しました」


 研究所に入ってすぐ前が受付だ。


「博士、御用ですか?」

「ここに荷物がたくさん届く、ここで待たせてくれ」

「どうぞ椅子に座ってて下さい」

「ありがとう」

「ご主人様、車で行きたいとこはいっぱいあるけど、もっと遠くに行きたい」

「遠くってどこだ?」

「どこでもいい、ドライブを楽しみたいの」

「わかった考えておこう」

「わーい」


 十分程でトラックがやって来た、配達員が二人、手分けして受付にケーキの箱を並べていく。


「真田博士はおられますか?」

「俺だ」

「ご注文のケーキはこれで全部です」

「ありがとう、いくらだ?」


 言われた金額を数枚の万札で渡した。


「釣りはいらん、チップ代わりだ」

「ありがとうございます」


 配達員が帰った、受付の女にアナウンスを頼んだ、暫くすると人が集まりだした。


「アナウンスで言った通り、助けてくれた礼だ、一人一箱ずつ持って行ってくれ」

「「いただきます」」


 じいさんや理恵も取りに来た。


「全所員に配るとはなかなかやるのう、わしも貰っていいのかね」

「どうぞ」

「ご主人様、二箱残ったよ」

「俺達の分だ、部屋で食おう」

「ありがと」


 部屋に行くと理恵がケーキを食っていた。


「凄く美味しいわ、いい店に頼んだの?」

「ああ、美味いと評判の店だ」


 俺と玲奈も食べてみた、確かに美味いフォークが付属しているので、食べやすい。


 理恵がコーヒーを入れてくれた、食後のコーヒーは美味い。


「ご主人様、コーヒー苦い」

「お前は砂糖がないと飲めなかったな」

「うん」


 理恵が砂糖を出してくれた。


「理恵さんありがとう」

「おこちゃまね」

「そんな事ないもん、コーヒーだけだもん」

「ダーリン、後で怒られると怖いから先に言っておくわ」

「何だ?」

「所長から玲奈ちゃんがどんな喋り方をするか、報告するように言われてるの」

「また何か企んでいるのか?」

「いえ、どんな成長をするのかが知りたいだけらしいわ」

「それならいい、指一本触れさせるな」

「大丈夫よ、ダーリンが怒ったらどうなるかわかってるもの」

「わかった、脳の状態が知りたければ、俺が検査してやると言っておけ」

「わかったわ」

「ご主人様、私そんなに成長してる?」

「ああ、まるで生身の人間のようだ」

「ふーん、よくわからないわ」

「自分ではわからないのは誰でも同じだ」

「うん、ご主人様に検査されるならいいわ」

「別にオペはしないから安心しておけ」

「うん、わかった」

「ダーリン険しい表情がなくなったわね」

「今、新しい車が楽しいからな」

「何を買ったの?」

「じいさんが特別仕様のポルシェをくれた、狭いが超高性能だぞ」

「あーあの車、開発に四億円かかってるわ」

「そうか、玲奈そろそろ帰ろう」

「はーい、漫画の続きが読みたいわ」

「玲奈、運転してみるか?」

「いいの? じゃあ試してみる」

「理恵、また何か言われたら教えてくれ」

「わかったわ、ケーキごちそうさま」


 外に出ると車が待機していた。


「お前が呼んだのか?」

「うん、ご主人様のマネをしたの」


車に乗り込んだ。


「ポルポル、私が運転するわナビを出して」

「了解しました」


 暫く注意して見ていたが、俺より運転が上手い。


「ポルポル、自動運転で帰って」

「了解しました」

「ポルポルって男の子女の子どっち?」

「私に性別はありません」

「じゃあ今日から女の子よ」

「わかりました、覚えておきます」

「オープンカーにして」

「了解しました」

「ご主人様、運転は楽しいけど疲れる」

「初めてだから仕方ないが、お前はポルポルと仲がいいな」

「愛車っていうくらいだから、仲良くしないとダメだわ」

「いい考え方をしているな」

「うん」

「到着しました」

「ポルポルありがとう、駐車場に帰ってね」

「了解しました」

「ご主人様、コンビニに寄っていい?」

「いいぞ」


 玲奈はコンビニに入ると、雑誌コーナーに向かった、ドライブの雑誌を持ってレジで買った。


 マンションに戻ると、俺は玲奈の膝枕で横になった。


「雑誌は読まないのか?」

「夜にご主人様と見るの」

「わかった」


『スリープモード開始、十七時起床』


 ……


『十七時です、スリープモード解除』


「ご主人様ステーキでいい?」

「ああ、それと完全食だけでいい」

「わかったわ、研究所の人が高級なお肉ばかり揃えてくれたから美味しいと思うわ」

「この前から肉が美味いと思ったら、そういう事か」

「うん」

「これから肉は高いのを買ってくれ、食事くらい贅沢しよう」

「わかったわ」


 美味い肉を食べシャワーを終えると、玲奈と一緒に雑誌を読んだ。


「行ってみたいとこはたくさんあるけど、まず京都に行きたい」

「近いけどいいのか?」

「うん、神社やお寺に行って、神様にお願い事するの」

「駐車場があるとこは限られてるぞ」

「そこはポルポルにお願いするわ」

「お前は神様がいると思うのか?」

「いたら素敵じゃない」


 これは理恵に言っておいた方がいいかもしれない、玲奈が神まで信じるようになったのは、大きな進化だ。

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