其の三十五・ポルポル

 翌日九時に佐藤さんから着信があった。


『博士お届け物です、降りてきて下さい』


 玲奈を連れて一階に降りた、大型の車がポルシェを乗せている。


 まず免許証を渡された。


「博士、研究所の最新機能搭載の車らしいです、私には運転出来ないのでここで下ろして帰ります」

「わざわざありがとう、キーは?」

「キーはないそうです、博士にしか扱えない車だとしか聞いていません」

「わかった」

「では帰ります」


 ドアノブもキーの差し込み口もない。


『車のデバイスが追加されました』


 そういう事か、頭で開けと命令する、ドアが開いた、玲奈を乗せて街を一周する、自動運転も可能で燃料は光で電気自動車だ、一時間の充電で二百キロの走行が出来る。


「玲奈、ちょっと研究所に寄るぞ」

「はい」


『ナビ起動、研究所を探せ』


 フロントガラスにナビが表示された、音声案内に従って運転する、山に入ると自動運転に切り替えた。


『飛ばせ、警察やオービスに気を付けろ』


 車が加速し始めた、凄いスピードで道を走り研究所の前で停まった、車から降りて自分の部屋に入る、理恵が泣きながら抱きついてきた。


「心配してたわ、よかった」

「悪かったな」


 机の上に新しいネームプレートと、首から下げる身分証明書が置かれていた。


 白衣を着てネームプレートを付け替える、身分証明書は首にかけずポケットに入れた、ポケットに手を入れじいさんの部屋に勝手に入る。博士もいた。


「車と免許証の礼は言っておく、それを言いに来ただけだ」

「気にするな、これも侘びの一つじゃ」

「わかった」

「君に怒られると思って、玲奈には指一本触れていないが、玲奈も何週間か食事と睡眠を取っていない、君が検査してみてくれ」

「わかった、話はこれだけだ」


 部屋を出てアナウンス室に入る、女性が一人いた。


「海斗博士だ、マイクを使わせてくれ、全員に聞こえるようにしてくれ」

「はい、ボタンを押しながら話して下さい」


「みんな聞こえるか? 海斗博士だ一ヶ月以上もかけて俺のために尽くしてくれた事は感謝する、これからもよろしく頼む、以上だ」


 女性に礼をいい部屋に戻った。


「ダーリンらしいアナウンスね」

「必要最低限の事だけ話した、車を手に入れたからもう迎えはいらない」

「残念だわ」

「理恵、暇ならちょっと手伝え」

「いいわよ、何をするの?」

「玲奈の体の検査だ」

「わかったわ」


 玲奈に服を着替えさせ、検査室に行った、習ったわけではないが、全てわかるようになっていた、検査結果は内蔵の劣化だけだ。


「玲奈、内蔵が劣化している、今から取り替えるがいいか?」

「ご主人様に任せるわ」


 手術室に入り準備をした、理恵に高性能の内蔵を持ってこさせた。


「ここも臓器も勝手に使っていいの?」

「俺の好きにやらせて貰うと言ってある」

「私怒られないかしら?」

「大丈夫だ」


 玲奈を眠らせメスで体を開く、機械類には手を付けず、内蔵だけを交換する、素早く縫合し体を元に戻す、皮膚が治り始める、俺と同じ最高級の血液を交換し、玲奈を起こす。


「ダーリン、凄いわ所長や私の半分の時間で終わったわ」

「これでもじっくりやったつもりだ、玲奈体調はどうだ?」

「前よりよくなったわ」

「異常がなければ終わりだ」

「もう大丈夫よ、でも血液が今までと違う」

「俺と同じ最高級の血液だ」

「勝手に使っていいの?」

「俺は何も言われない、心配するな」


 部屋に戻り玲奈が着替えると、理恵に帰ると言って部屋を出た。


 車に乗り込むと、自動運転で最速で帰宅するように命令した、車が急発進し二十分でマンションに着いた、駐車場は地下にある、車から降りて駐車場に入れと命令し、玲奈を連れてラーメンを食べに行った。


 玲奈は喜んでチャーシュー麺と餃子を頼んだ、俺も同じものにした、玲奈は替え玉を追加し満足したようだ。


 玲奈が満足そうな笑顔をしてるので、俺も顔が緩む。


「あっ、ご主人様がやっと笑った」

「お前の笑顔を見ると俺も嬉しいからな」

「ご主人様、車があれば行きたいとこがいっぱいあるの」

「どこに行きたい?」

「まずは夜景が見たい」

「いい場所があるから連れて行ってやる」

「やったー、ご主人様漫画が読みたい」

「買ってもいいぞ」

「じゃあ本屋に行きましょう?」


 玲奈と本屋に行くと、読みたい漫画は決まっていたのか、すぐに決まった、シリーズ物の最新刊までまとめて買い、マンションに戻った、漫画を置きっぱなしにしているので、読まないのかと聞くと、俺が寝てる時に読むからいいと言った、俺といることが最優先らしい、ラーメンで腹は膨れているので、完全食と水だけ飲んだ。


「ご主人様」

「なんだ?」

「理恵さんとなら浮気してもいいわよ」

「突然どうした?」

「男は浮気する生き物なんでしょう? ご主人様は私を凄く愛してくれるし、知ってる人ならいいかなって思ったの、浮気が本気にならなければいいわ」

「わかったが今はそんな気分じゃない」

「うん」


 二十時になったので、夜景を見に行く事にした。


『アシスト、車を用意しておけ』

『了解』


 一階に下りると車が来ていた、乗り込み目的地を言う、普通に走れと命令する、自動運転で車が走り出す、山道に入ると走り屋が数台追い抜いて行く。


『アシスト、さっきの奴らを追い抜け』

『了解』


「玲奈、しっかり捕まってろ」

「はい」


 車がドリフトしながらスピードを上げて行く、一台二台と追い抜き四台を追い越した。


『アシストもういいぞ』

『はい、車に命令の時は声を出して下さい、車にもアシスト機能が付いています』

『わかった』


 玲奈にも車の操作を教えてやった、話していると到着したようだ、車を降りて夜景スポットに行く、右も左も夜景が広がっている。


 玲奈は綺麗と言って、黙って夜景を見ている、長い時間が過ぎると、玲奈がもう十分と言ったので帰る事にした。


 車の周りに人だかりが出来ている、俺達が乗り込むと、いくらするんですか? と聞かれたので、超特別仕様だからフェラーリが数台買える値段だと言い、車を走らせた。


「自動運転に切り替え、まっすぐマンションに戻れ」

「了解しました」


 俺のアシストと声が違う。


「オープンカーには出来ないのか?」

「出来ます、今しますか?」

「やってくれ」


 ロボットが変身するように、オープンカーに変化した、玲奈が両手を挙げて、風を全身で受けて楽しんでいる。


「ご主人様、凄く楽しい」

「そうか、寒くないか?」

「大丈夫」


 街中に入ると俺は一応片手をハンドルに添えた、自動運転と気付かれるのはマズい。


「ご主人様、この車なんて名前?」

「ポルシェだ」

「じゃあポルポルね」

「それがいいのか?」

「うん、こっちの方が可愛いから」

「わかった、ポルシェお前の名前は今後ポルポルだ」

「ポルポル、覚えました」


 信号で停まると、周りの車から注目されるので、早く帰りたかった、十分程走るとマンションに着いた。


「ポルポル駐車場に停めておけ」

「了解しました」

「お前のセキュリティは?」

「大丈夫です海斗の声にしか反応しません」

「玲奈の声にも反応するようにしておけ」

「了解しました」


 車が駐車場に入って行った。

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