其の三十四・海斗博士

 ドアと窓が破壊され、特殊部隊の姿の人間が入って来た、銃を持っている、挟まれた。


「ドクター海斗、落ち着いて我々の話を聞いてくれないか?」


 所長もいた、何か持っている。


「お前があんな事を言わなければ、こんな事にはならなかった、俺は全てを失った」

「私が悪かった、許しては貰えないだろうか? もう二度とあんな事は言わない」

「もう手遅れだ、俺は世界を破滅させる、まずここにいる奴らを全員殺す」

「話し合いは後にしよう、全員撃て」


 パンパンと発泡された、麻酔銃のようだチップで抗体を作る。


『アシスト、姿は消せるか?』

『簡単です、ステルスモード開始』


 姿を消し、一人ずつ首の骨を折って殺していく、全員がパニックになった。


「やむを得ない、ドクター海斗の機能停止」


 手に持った機械のボタンを押した、意識が途切れた。


 ……


 意識が戻った、体が動かない、かろうじて顔は動かせる、見たことのない部屋に所長や博士、玲奈や理恵、所員が集まっている。


「ドクター海斗、悪いが機能を停止させて貰った、話を聞いてくれないか?」

「お前ら全員ぶっ殺してやる」

「仕方ない点滴を打て」


 点滴が刺され何かが体に流される、怒りや憎しみの気分が消えていく。


「ドクター海斗気分はどうかね?」

「悪くない」

「全て私のせいだ、心から謝罪する」

「わかった、お前の言動のせいで俺は全て失った」

「失ってなどいない、玲奈もここにいる」

「玲奈は俺を裏切った、それで俺の怒りが爆発した」

「ご主人様、裏切ってはいません、あの時ショックで思考が停止して言葉が出なかっただけです、私の愛は何も変わってません」

「俺の早とちりだったのか?」

「そうです、でも私が悪かったです」

「そうか、お前はまた検査を受けたのか?」

「受けてません、所長はご主人様の意見を受け入れ私には何もしてません」

「そうかわかった、じいさんお前は何故俺を助けた?」

「君には死んで欲しくなかった、みなも同じ気持ちだったからだ」

「そうか」

「君は食事も睡眠も削り、骨と皮だけになって、自殺も何度か繰り返していた」

「そうだ、死んで楽になりたかった」

「君を保護した我々は再生オペをした、一ヶ月かかって何とか君を助ける事が出来た」

「そうか、だがまたチップを入れて改造された、何故だ」

「君に科学の最先端を詰め込みたかったし、精神や肉体の再生にも必要だった」

「そうか、俺を生かしておくと厄介だぞ、今なら軍隊とも戦える」

「君が元の性格に戻ってくれれば問題ない」

「俺はただ静かに玲奈と過ごしたかっただけだ、それも壊された今、元に戻るとは思えない、玲奈への愛も残っているかわからない」

「大丈夫だ、君は興奮していたからそんな考えを持っているだけだ、元の生活に戻れる」

「元の生活に戻したい、俺の希望はそれだけだ、それ以上は望まない」

「必ず元の生活に戻そう、もう一度我々を信じて貰えないだろうか?」

「わかった、最後にもう一度だけお前らを信じてやる、元に戻せ」

「わかった、ありがとう」

「だが俺は研究所を破壊し、人も何人か殺した」

「大丈夫だ、壊れたのは機械のシステムだけだ、すぐに復旧出来るし、殺した人間も生き返らせた、問題ない」

「わかった、二度と俺を停止させるな」

「ああ二度と停止させない」

「俺からお前にもう話はない」

「わかった、少し眠っていてくれ、起きたら全て元通りだ」

「わかった」

「ご主人様、また私を愛して下さい」

「全て戻ってから考える」

 腕にもう一本点滴を刺された、意識が薄れていく。


 …………


 目が覚めた、玲奈に膝枕をされ、笑顔の玲奈が覗き込んでいる、自宅のソファーだ。


「ご主人様おはよう」


 玲奈の声と喋り方が懐かしい。


「おはよう、元に戻ったのか?」

「戻ったわ、ご主人様は私が嫌い?」

「いや、元通り愛している」


 玲奈が涙を流した。


「じゃあ悪い夢でも見たと思ってて」

「あの日から何日経った?」

「研究所を飛び出してから三ヶ月よ」

「そんなに時間が経ったのか」

「うん」

「腹が減った」

「すぐに用意するわ」


 俺は起き上がり、家の中を調べたが全て元に戻っていた、リフォームした後のように綺麗になっている、ソファーに座り直した。


『アシスト、本当に全て元通りなのか?』

『問題ありません、うつも治っています』

『俺と玲奈や家に異常はないか?』

『ありません、アップデートがあります』

『インストールしろ』

『完了しました』

『俺の研究所での立場はどうなった?』

『三位のままで、ドクター海斗から海斗博士に昇格しました』


 テーブルに完全食とステーキが運ばれて来た、全部食べるとペットボトルの水を二リットル飲んだ。

 じいさんから連絡が入った。


『何だ?』


 眼前にじいさんの姿が現れた、新しい機能のようだ。


『海斗博士、どうだね?』

『元通りだが俺はもうお前らに敬語は使わないし、好きにさせて貰う』

『わかった好きにしたまえ』

『何で何も出来ない俺が博士なんだ?』

『まだ気付いてないのか? 君はもうオペでも何でも出来るようになっているからじゃ』

『そうか、これ以上俺の体をいじるな』

『わかっておる』

『俺の体の再生にいくらかかったんだ?』

『最高級の人工臓器や筋肉や血液や皮膚、全て合わせて三億円以上だ』

『その間研究所の業務は出来ていたのか?』

『ほとんどの人間が君に付いていたから、研究所は業務停止じゃ、工場は動いていた』

『わかった、俺と玲奈の運転免許を用意してくれ、簡単だろう?』

『わかった用意しよう』

『それだけだ、もう話はない』


 電話を切った。


「玲奈、お前は三ヶ月間何をしていた?」

「二十四時間ご主人様の側にいたわ」

「そうか、不安だったか?」

「不安だし、寂しいし悲しかった」

「もう大丈夫だ」

「うん、これからどうするの?」

「今まで通りにするか考え中だ」

「わかったわ」

「俺は三ヶ月シャワーを浴びていない今から浴びてくる」

「じゃあ私も」


 ぬるま湯のシャワーを浴び、玲奈に全身を洗って貰いさっぱりした。


 シャワーを終えると、玲奈に膝枕をさせいろいろ考えた。


『アシスト、今後どうしたらいいと思う?』

『今まで通りが一番だと判断します、海斗のために何十人もの人間が動いたし、莫大なお金も動いています、それに海斗には人望もあります、頭の片隅にあるどこか遠くでひっそり過ごす考えは捨てるべきです』

『そうか参考にする、スリープモード開始、十七時起床』


 眠りについた。


 ……


『十七時です、スリープモード解除』


 体を起こした。


「玲奈、一応今まで通りにしてみる、気に入らなければ止める、お前もまた裏切るような真似をしたら捨てる」

「裏切った事ないもん、捨てないで」

「今後次第だ」

「はい」

「冷蔵庫の中身は腐ってないのか?」

「全部腐ったけど、研究所が新しく買い揃えてくれてる」

「それなら何か作ってくれ、少しでいい」

「はい」


 軽く食事をし、完全食と水を飲んだ。


「もう三ヶ月もご主人様の笑顔を見てない」

「こんな状況で笑える筈がないだろう」

「ご主人様が人を殺した時は怖かった」

「あの時もいたのか?」

「うん」

「多分もう殺さない」


 玲奈を抱えてベッドに連れて行った、久しぶりに玲奈を満足するまで抱いた。

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