其の三十・特別なチップ

『六時間経過、スリープモード解除』


 目が覚めた、玲奈の笑顔も見れた。


「ご主人様おはよう」

「おはよう」

「完全食の発売日ね」

「そうだ、とりあえず十万個は予約されてるから心配ない」

「じゃあちゅーして」


 朝のキスをして服を着た、食事が終わると理恵に連絡しようとしたが止めた、いつ寝てるかわからない、起こしたら悪いと思った。


 ネットでの反応も怖くて見ていない、発売日と言っても、予約者全員に今日届くとは限らない、理恵から聞けばいいと思った。


「ご主人様、ネットの反応は見ないの?」

「ああまだ早いし、見るのが少し怖い」

「私が見てみる?」

「まだ待ってくれ、早い人でもまだ到着してる時間じゃない」

「わかったわ、じゃあ理恵さんからの連絡を待ちましょう」

「俺もそのつもりだ」


 理恵から連絡が入った。


『起きてたのか?』

『うん、スリープモードで三時間寝たわ』

『出荷は順調なのか?』

『うん、所員が交代で作り続けたから順調にいってるわ、もう心配しなくてもいいわよ』

『そうか、お前に頼みがある』

『何でも聞くわ』

『ネットに反応があったら教えてくれ』

『自分で確認しないの?』

『怖いんだ』

『心配性ね、わかったわまだ一日二日かかると思うけど見ておくわ』

『ありがとう、お前はまだ帰れないのか?』

『順調だから、もうすぐ帰るわ』

『そうか、お疲れ様』

『ありがとう、大丈夫よ』

『じゃあまた』

『はーい』


 電話を切った。


「玲奈、やっぱりネットに反応が上がるのはまだ一日二日かかるみたいだ」

「じゃあのんびり待ちましょう」

「なあお前って、一号や四号と少し雰囲気が違うが何でだ?」

「私だけ体に埋め込まれたチップが特別仕様だし、プログラムも五号までより複雑だからよ、だから私だけ定期的にプログラムのアップデートがあるし、日々進歩してるの」

「お前だけ特別仕様なのか、理解できた」

「だからより人間に近いでしょう?」

「そうだな、成長してるのがわかる」

「ご主人様が実験台にされたように、私も実験台にされたの、だから私だけ研究所から出るのが遅くなったのよ」

「わかった」

「でも一号から六号の私まで同じなのは、一人好きな人が出来たら、一生愛し続けるって事なの」

「じゃあお前はもう俺しか一生愛せないって事なのか?」

「そうよ、安心してね」

「わかった、ありがとう」

「理恵さんも知ってるのに、ご主人様にしつこいのはプログラムされたのかしら?」

「大丈夫だ、そのうちころっと別の男とくっつくだろう」

「そんなに簡単に変われるものなの?」

「女は特にな」

「私はそんな事考えた事もないわ、ご主人様は変わらないで欲しい」

「俺は絶対大丈夫だ、安心してくれ」

「わかった、信じるわ」

「俺みたいなブ男で悪かったな」

「ブ男? ご主人様気付いてないかもしれないけど、ご主人様は結構男前よ、今風のイケメンじゃないけどかっこいい顔つきよ」

「初めて言われたぞ」

「現にラブレターも貰ってたじゃない、それに五号までは違うけど、私はかっこいいかっこ悪いの判別がつくわ」

「そうか、ありがとう」

「で、話は変わるけど何で今日の私は裸にエプロンなの? ちょっと恥ずかしいわ、真っ裸の方がマシよ」

「裸エプロンは男の憧れなんだ」

「ふーん、まあご主人様が好きならいいわ」

 チャイムが鳴った、玲奈が立ち上がる。

「ちょっと待て配達ならその格好で出るな」

「わかった」


 玲奈がインターホンで応答し、ドアを開けた、理恵が入って来た。


「ダーリン、予約の十万個発送完了よ、売上金額は言わなくてもわかるでしょ?」

「ああわかる、三億円だろ?」

「そうよ、何か不満そうね」

「五億円くらい貢献したかった」

「バカね、予約だけでこの金額よ、こういう商品としてはかなりの大成功なのよ、それにこれから予約してなかった人が、買い始めるし、リピーターも増えると、五億円なんて軽く超えるわ」

「そうかわかった、素直に喜んでおくよ」

「そうしてちょうだい、でないと私の努力が水の泡よ」

「わかった済まない」

「わかればいいわ、ところでなんで玲奈ちゃんは裸エプロンなの?」

「俺の趣味だ」

「私に言ってくれたら、何だってしてあげるわよ」

「垂れた尻は見たくない」

「私はまだ二十歳よ、垂れてるはずがないでしょう、まだ全身ピチピチよ」

「それは悪かった」

「失礼だわ」

「本当にごめん」

「怒ってないからいいわ」


 所長から連絡が入った。


『はい』

『大ヒットおめでとう』

『ありがとうございます』

『理恵君も一緒かね?』

『はい、よくわかりましたね』

『ただの勘じゃ、彼女も労ってやってくれ』

『もちろんです』

『この調子だと月間売上金額が楽しみじゃ』

『はい』

『本当に君はいい人材じゃ』

『ありがとうございます』

『では理恵君を頼むぞ』

『はい』


 電話が切れた。


「所長からかしら?」

「お前もわかるのか」

「リンクしてるから、何をしてるかくらいわかるわ」

「リンク切ろうか?」

「嫌よ、このままにさせておいて」

「だって、チップの開発も中止ならリンクさせてる意味がないじゃないか」

「それでもお願い、何でもするから」

「わかったよ、このままでいい」

「ありがとう」

「ご主人様、完全食でも飲む?」

「そうだな作ってくれ」

「わかったわ、ちょっと待ってて」

「ねえダーリン、玲奈ちゃんの様子変わったんじゃない?」

「言葉遣いを変えさせたんだ」

「ふーん、雰囲気も一気に変わったわね」

「おまたせー」

「ありがとう」

「いただくわ」


 三人で飲んだ。


「ダーリン、大ヒットした時の約束覚えてるかしら?」

「ああ何でも食わせてやるぞ」

「じゃあまた今度にしましょう」

「食いたい物を考えておいてくれ」

「食べたい物はダーリンよ」

「理恵さんそれはダメよ、ご主人様の体は全て私のなんだもん」

「本当に別人みたいね」

「私が?」

「そうよ」

「私は私よ、心もちゃんとあるもーん」

「わかったわ、今日は帰って寝るわ」

「もう帰るのか?」

「精神的な疲れが抜けないの、じゃあね」

「ご主人様、下まで送ってあげて」

「わかった」

 エレベーターに乗り込んだ瞬間に、キスをされた。

「おい、一階だぞ」

「残念、でもダーリンも積極的ね」

「頭が真っ白になった、お前のマンションはどこだ?」

「ここから西に車で三分歩いても五分程よ、エメラルドマンション、来てくれるの?」

「気が向いたら行く」

「気長に待ってるわ、だんだん大胆になってきてるもの、時間の問題だわ」

「俺に玲奈がいなければとっくに襲ってる」

「それが聞けて嬉しいわ、ここでいいわありがとう」


 部屋に戻り冷たい水で顔を洗い、気分を落ち着かせた。

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