其の二十九・嬉しい悲鳴

 二日が過ぎた夕方、理恵がまたダンボールを抱えうちに来た。


「完全食が完全に出来たから、持って帰って来たわ」


 一袋手に取る、少しデザインと文字が変わっていた『スーパー完全食プロテイン入り』は変わってないが、下に『高性能プロテイン配合アスリートと健康のために』と継ぎ足されていた。


「それは会議で、プロテインをもっと強調しよう、ってなって追加されたの、裏も文字が増えたわ」


 裏は『完全食とプロテインを極めたドクター海斗開発』と書いてある。


「問題ない、会議はもう終わったのか?」

「ええ、すんなり終わったわ、もう販売も決定されてるし出荷待ちよ、問い合わせの電話も結構入って来てるから売れるわよ」

「いくらで売るんだ?」

「メーカー希望小売価格は三千円よ、ダーリンの高品質低価格の意見が採用されたの」

「ありがとう」


 軽くハグをした。


「ダーリンの家にも何袋か置いて帰るわ、半分個する?」

「ああ何袋でもかまわない」

「ご主人様、アンドロイドも大満足と書いて欲しかったです」

「玲奈ちゃん、あなた達の正体は極秘なのよ我慢して」

「わかりました」

「でも玲奈も満足してくれてよかったよ」

「もう以前のでは満足出来ません」

「ダーリン私もよ」

「二人共ありがとう」

「発売が楽しみね」

「いつから発売されるんだ?」

「順調に行けば三日後からよ、大ヒットは間違いないわね」

「本当か?」

「ええ会議でもみんな同じ意見だし、今までの商品よりも問い合わせが多いもの」

「楽しみだ」

「大ヒットしたら、また何か食べさせて」

「何でも食べさせてやる」

「じゃあ私は帰るわ」


 ダンボールを車まで運んでやった、理恵が抱きついてきた。


「ダーリン、本気で愛してる事を忘れないでちょうだい、今のままでも十分だけど抱いて貰うのが夢よ」

「機会があればな」

「ありがとう、じゃあ帰るわ」


 俺も部屋に戻った。


「ご主人様、今までの完全食に戻れないけどどうします?」

「暫く置いておいてくれ、もったいないが俺も以前のには戻れない」

「ご主人様は何をしても優秀です、頭がいいのかもしれませんね」

「学校の勉強はダメダメだぞ」

「勉強が出来る出来ないの問題じゃなく、別の意味で頭がいいのです」

「ありがとう」

「ご主人様の奉仕用アンドロイドになれてよかったです」

「玲奈、何度も言うが俺はお前を奉仕用アンドロイドとは思っていない、人間の女として見ている」

「それも嬉しいです、離しませんから覚悟しておいて下さい」

「俺も離れないからな」


 玲奈を抱き締めた。


「これはハグじゃないですね」

「違いがわかって来たか?」

「はい、わかり始めました」


 翌日昼頃に理恵から連絡が入った。


『どうした?』

『大変なの』

『問題でもあるのか?』

『需要と供給が追いつかないの、大問題よ』

『そんなに好評なのか?』

『雑誌などで取り上げられて、一気に知名度が上がったの』

『何か手伝える事はあるか?』

『ないわ、私も見ている事しか出来なくて、イライラしてるの、さっき以前の完全食とプロテインの製造を中止して、そこでも作り始めたから何とかなりそうだけど、発売が早まるわ、予約が殺到してるわ』

『嬉しい悲鳴だな』

『そうね、とにかく今は製造に力を入れてるわ、今夜はみんな帰れないわ』

『頼むとしか言えないな』

『嘘でもいいから愛してるって言って、落ち着かないの』

『わかった、理恵愛してる』

『ありがとう私も愛してる、力が湧いて来たわまたかけるわ』


 電話が切れた、玲奈にも教えてやった。


「ご主人様はやっぱり凄いです、これで会社の売上も伸びて大ヒット商品になります」


『アシスト、大ヒットするか?』

『確実に大ヒットします』

『リピーターも増えそうか?』

『私は超能力者じゃないので、まだはっきりわかりませんが、チップでの予測でもかなりのリピーターが出ると予想されます』

『ありがとう』


「玲奈、水をくれ」

「はい」


 冷たい水を半分以上飲んだ。


「残りを貰います」

「ああ全部飲んでいいぞ」

「ご主人様、そろそろどうぞ」


 と玲奈が太ももを出してきた、遠慮なく頭を乗せる。


『スリープモード開始、何かあれば起床』


 すぐ落ちた。


 ……


『着信あり、スリープモード解除』

『理恵、どうした?』

『今夜は徹夜だけど、何とか明日に発売が決まったわ、一安心したからその報告よ』

『お前も徹夜するのか?』

『私は会社に泊まるわ、何かあれば対処しなくちゃいけないし』

『悪いな』

『悪いとか言わないで、ダーリンと私の商品だもの、忙しいけど楽しいわ』

『わかったじゃあ頼んだ』

『うん、任せて』


 電話が切れたがすぐ所長から連絡が来た。


『はい』

『ドクター海斗、大ヒットおめでとう』

『発売はまだですよ』

『理恵君から話は聞いてないのかね?』

『連絡はこまめに取ってます』

『予約だけで十万件以上だ、うちの表の顔の看板商品になる事はもうわかっておる』

『そこまで聞いていませんでした、なんせ理恵に任せっきりですし、俺が手伝えないのがもどかしいです』

『気にしなくてもよい、適材適所と言う言葉があるじゃろう、明日の反響が楽しみじゃ』

『はい、俺もですがリピーターが増えるかの方が気がかりです』

『よくわかっておるのう、大丈夫じゃ以前の商品でも九割がリピーターじゃった、今回も同じじゃろう、心配せずともよい』

『はい』


 電話が切れた。


「ご主人様、今日は電話が多いですね」

「ああついに明日発売だからな」

「楽しみですね、晩ご飯の用意をします」

「わかった」

「ご主人様、今日の部屋着はスクール水着ですが、水着ならもっと露出の高いのが好きなんじゃないのですか?」

「確かにスクール水着は露出は少ないが、これは男なら誰でもグッと来るんだ」

「よくわからないけど、ご主人様が好きなら私はいいわ」

「お前、最近の口調いいぞ」

「ご主人様はこんな喋り方が好きなの?」

「今のもいい、好きな喋り方だ」

「じゃあなるべく気を付けて喋るね」

「その調子で頼む」

「わかったけど、敬語でプログラムされてるから難しいわ」

「出来る範囲内でいい」

「わかったわ、ご主人様の好みならこれからも頑張るわ」


 食事とシャワーを済ますと、玲奈と少し会話した。


「ご主人様って呼び方はこれでいいの」

「ああ尽くされてる感じがする」

「尽くされてる感じじゃなくて、尽くしてるのよ」

「わかってる」

「とにかく学校の友達と話してる感じで、話せばいいのね」

「そうだそれでいい、だが女子高生言葉は止めてくれよ」

「チョベリバ、マジ卍」

「何年前の言葉だ、もう古くて使ってる奴いないぞ」

「やっぱり? 昔理恵さんが使ってたの」

「とにかく女子高生言葉はいらない」

「わかったわ」

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