其の二十三・初めての会議

『七時です、スリープモード解除』


 目を開けた玲奈が覗き込んでいる、いつもの光景だ。


「ご主人様、おはようございます」

「おはよう」


 朝のキスをして服を着る、食事を済まし顔を洗う、白衣が二着あるから一着は研究所に置いておこうと考え用意する、理恵があんな性格だから時間通り来るか心配だ、八時に来ると言っていたので少し早めに下りた、同時にワンボックスカーが目の前で停まる、後部座席が自動で開き理恵が大声で話す。


「おっはよー、乗って乗って」


 乗り込むと車が急発進した。


「お前運転が荒いな」

「そう? 事故らなければいいのよ」

「まあいいが、イメージと車が違うな」

「私のイメージと?」

「そうだ」

「疲れたらこの車だとのんびり寝れるし、荷物もたくさん積めるから便利でしょ?」

「まあそうだな」

「ダーリン何で横に乗ってくれないのよ?」

「後ろが開いたから乗っただけだ」

「ダーリンは助手席よ」

「わかったよ、次からそうする」

「玲奈ちゃん、悪いけど水のペットボトル取ってくれる?」

「これですか?」

「そう、ありがとう」

「お前もしかして寝起きで来たのか?」

「ちゃんと早起きして食事もしてきたわ」

「それならいい、お前は化粧してない方が美人だぞ」

「ダーリンがそう言うなら、あまりしないでおくわ」


 玲奈に腕をつねられた。


「ご主人様は美人だったら誰でもいいのですか?」

「そんな事はない、誤解だ怒るな」

「信じられません」

「玲奈ちゃん、そんな事で怒らないで」

「理恵さんの言葉も信じられません」

「お前はもう少し俺を信じろ」

「もういいです、怒ってません」


 車が停まった、研究所の駐車場だ。


「着いたわ、行きましょう」


 研究所に入り自分の部屋に入った、タイムカードもないし、朝のミーティングもないのでいきなり暇になった、持ってきた白衣をハンガーにかけて部屋を見回す、一通り揃っているので問題ない。


 玲奈にも椅子を出してやった、並んで座り机にある書類を見てみる、新しいカルテやメモ帳だ、ペンもあるから勝手に使ってもいいのだろう。


「玲奈、暇じゃないか?」

「大丈夫です」

「俺はいきなり退屈だ、何か本でもあるといいんだが」

「小さな図書室はありますが、面白い物はないです」

「そうか、このノートパソコンだけか」


 ドアがノックされた。


「どうぞ」

「ドクター海斗、ちょっとした会議があるが出てみるかね?」

「博士いいのですか? 俺は何の知識もありませんよ」

「かまわんよ、玲奈も連れて来てよいぞ」

「じゃあ行きます」


 博士に付いて行くと、前回と同じ会議室だった、こっそり入る。


「ダーリン来てくれたの?」

「お前に会いに来たわけじゃない」

「照れなくてもいいわよ」

「黙れ」


 俺にも会議の資料が回って来た。


『新しいアンドロイドの製造』


 と書いてあるので内容を見てみる、六号の玲奈で製造を中断してたのを、増やすかどうか、増やすなら何体作るか、と言った内容だった、俺が口を挟む問題ではない。


「始めたまえ」


 沼田先生が喋り始めた、黙って聞いておく事にした、増やす方向で話は進んでいる。


「ドクター海斗の意見も聞いていいかい」


 突然話をふられた。


「えー私は細かい事はわかりませんが、大きな問題もなく、心や感情を持つアンドロイドなら、後四体作ってみてもいいかと考えました、四体なら合計で十体できりがいいと思いますし、後は予算の問題だけですから役員の方の判断に任せます、私の意見は以上です」


 全員が俺の意見をメモしている。


「ドクター海斗、素晴らしい意見をありがとう、他に意見のある人はいませんか?」


 理恵が手を挙げた。


「村田先生どうぞ」

「私はドクター海斗の意見に賛成します、製造途中で止まっているアンドロイドも、ちょうど四体あります、合計十体までなら管理もしやすいですし、新たな問題が発生しても今はドクター海斗が付いてます、何とかなるんじゃないでしょうか? 以上です」

「ありがとうございます」


 今度は男が手を挙げた、確か斎藤さんだったと記憶している。


「斎藤先生どうぞ」

「ドクター海斗の意見に賛成です、予算の都合が付けば是非進めたいプロジェクトです、以上です」

「ありがとうございます、ではドクター海斗の意見に賛成の方は挙手をお願いします」


 全員手を挙げた。


「ありがとうございます、では今後進める方向で行きたいと思います、予算の見積もりも進めまた会議を重ねて行きましょう、博士最後に何かありますか?」

「予算は問題ないじゃろう、進めてくれたまえ、以上だ」


 拍手がおきた、みんなが資料をまとめ順番に出ていく、博士と先生と理恵が残った。


「ドクター海斗、君は職業訓練や会議の訓練でも受けたのかね?」

「いえ、会議なんて初めてです」

「君の意見はやたらとはっきりしていて、的確だ」

「ありがとうございます」

「出来れば今後も君の意見を聞かせてくれたまえ」

「あんなのでよければ」

「ダーリン、いつもの会議はまとまりがなくて、ダラダラ時間だけが過ぎて終わりなの、ダーリンがはっきり意見を言ってくれて助かったわ」

「理恵君の言う通りじゃ、久しぶりにまともな会議じゃった」


 全員が立ち上がったので、俺達もみんなと一緒に会議室を出て、自分の部屋に戻った。


「玲奈もあれでよかったと思うか」

「みなさんの反応を見る限り、大成功だったんじゃないでしょうか」


 ドアがノックされた。


「どうぞ」


 沼田先生だった。


「ドクター海斗、君の意見で半年停滞してた会議がやっと動いたよ、感謝するよ」

「いえ、思った事を言っただけです」

「それがよかったんだ、博士も言っていたがまた参加して欲しい」

「わかりました」

「では失礼するよ」


 沼田先生が出て行った。


「トイレに行ってくる」

「男子トイレには入れないので待ってます」


 トイレで用を済ませ、ついでに理恵のドアをノックした。


「どーぞ」

「俺だ」

「ダーリン来てくれたの? 邪魔者はいないわね」


 理恵の部屋は本棚と、何故かコスプレの衣装が並んでいた。


「暇過ぎるから何か貸してくれ」

「本でも読む? 適当に持って行ってもいいわよ」


 哲学書から漫画まで揃っている、ハッキングの本と漫画を数冊選んだ、理恵がいきなりキスをしてきた、突然だったので驚いた。


「おい」

「今日のお礼と情報収集よ」

「情報収集?」

「ええリンクしてると粘膜接触から情報が引き出せるの」

「玲奈に見つかったら後が怖いだろう」

「秘密にしておくわ、食事に行かない?」

「荷物を置いてくる」


 自分の部屋に戻った。


「ご主人様、その本は?」

「理恵に借りてきた」

「何もされてませんか?」

「ああ大丈夫だ、飯に誘われたから玲奈も行こう」

「はい」


 三人で食堂に行きセットを頼んだ、テーブルで食事をする。


「理恵は暇な時は何をしてるんだ?」

「読書やゲームやハッキングよ、寝る事も多いわね」

「そうか、あのコスプレ衣装は何だ?」

「コスプレ自撮りをSNSに投稿して遊ぶのよ、反応が楽しいの」

「SNSかお前のアカウントを教えてくれ」

「後で部屋に来て」

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