其の二十二・幸せホルモン

 玲奈は俺が理恵に興味がない事を知って、また機嫌が良くなっていた、理恵もあれから連絡がない、たまに様子を探るが何かの研究に没頭しているようだ。


 もう服屋には冬服が売られており、俺は玲奈と冬服を探して回った、俺にファッションセンスはないので、店員に玲奈が可愛く見える服を何着か選んで貰い、その中から俺が気に入った服を選んで買った。


「ご主人様、ありがとうございます」

「これだけあれば大丈夫だろう」

「はい」


 マンションに戻り完全食とプロテインのセットを飲み、俺の冬服も用意した、玲奈の言った通り改造したせいか寒さは全く感じないが、季節に合わせた服を着ないとダメだ。


 少し研究所の事で考え事をした、あれだけの給料を貰ってるんだから、たまに顔だけでも出した方がいいかもしれない、玲奈にも相談したが、俺に任せると言った、もう少し考えてからにしよう。


 昼寝をしようとしたらチャイムが鳴った。


 玲奈が応答し、暫くやり取りをしてオートロックを解除した、すぐにドアも開ける、理恵が入って来た。


「何か用か?」

「例の物が出来たわ試してみる?」


 と注射器を取り出した。


「変な物を入れてないだろうな?」

「これでも真面目に作ったのよ、信用して」

「わかった、ちょうど今疲れている、打ってくれ」


 注射をして貰った、脳の疲れが抜ける、足りない何かが溢れた感覚がした。


「ダーリンどう?」

「これはいいな、何が入っているんだ?」

「幸せホルモンと糖分が主な成分よ」

「幸せホルモンってセロトニンか?」

「そうよ、意外と頭いいわね」

「意外と、は余計だ」

「頑張ったご褒美に、一晩抱いて」

「断る」

「私、男に断られたのは初めてよ」

「ショックか?」

「いえ更に惚れたわ、私から好きになった初めての男よ」

「そりゃどーも、ちょっと待ってくれ」


『アシスト、今の注射の物質はチップで作れるか?』

『簡単です、もっと高性能なのが出来ます』

『わかった』


「ダーリンどうしたの?」

「ちょっとチップと会話だ」

「ふーん、で注射どうする? もう量産は簡単だけど」

「悪いがもういい」

「えっ? 何で?」

「俺の脳内で作れる事がわかった」

「寝ないで頑張ったのにぃ」

「それは悪かった、俺用じゃなくドリンクとかにして販売すればどうだ? 売れるぞ」

「博士に相談するわ」

「そんなに落ち込まないでくれ、お前のおかげで、俺もチップで作れるとわかったんだから」

「キスしてくれたら許すわ」

「そんな気分じゃない」

「絶対にダーリンを奪ってみせるわ」

「興奮するな、食事でも一緒にするか?」

「じゃあセットで」

「玲奈頼む」

「はいご主人様」

「私もチップ入れようかしら?」

「止めておけ、脳が処理しきれず暴走するかパニックになるぞ」

「科学に追いつけないわね」

「お前は天才的な頭脳の持ち主だろ? 我慢しろ」

「その天才がチップ一枚に負けたのよ」


 理恵がセットを一気に飲んだ。


「お前ここまで何で来たんだ?」

「マイカーよ」

「どこに住んでる?」

「ダーリンと同じこの市内よ、私に興味持ってくれたの?」

「少し気になっただけだ」

「それでも嬉しい」

「お前今日も寝てないだろう?」

「もう三日寝てないわ」

「帰って寝ろ、目が充血してるぞ」

「もっと一緒にいたいけど、そうさせて貰うわ」

「今度一つ相談に乗ってくれ」

「今聞くわ、何でも言って」


 俺は今日考えてた出勤の事を話した。


「そうね、何もしなくても顔を出す事は大事だと思うわ、私も仕事がなくても週四日は出勤してるもの」

「真面目に答える事もあるんだな」

「私だって真面目な時は真面目よ」

「ありがとう、週一回でも出勤するか検討してみるよ」

「出勤するなら月曜がお薦めよ、会議やオペが集中する日だから」

「わかった、月曜だな」

「もしするなら私が送り迎えするわよ、ついでだもの」

「わかった、世話になるかもしれない」

「気にしないで、じゃあ帰って寝るわ」

「ああ悪かったな」

「別にいいわ」


 理恵が帰って行った。


「ご主人様、あんな真面目な理恵さんは初めて見ました」

「そうか、根はいい奴なのかもしれないな」

「で、出勤はどうします?」

「とりあえず月曜に暫く通ってみようと考えてる」

「私も同伴する事をお忘れなく」

「わかってるよ、理恵に電話してみる」

「はい」


 理恵に電話をかけるとすぐに出た。


『ダーリンどうしたの?』

『とりあえず月曜に出社してみる』

『オッケー、毎週八時に迎えに行くわ』

『本当にいいのか?』

『全然構わないわ、近いもの』

『わかった頼む』

『はーい』


 電話を切った、月曜まではまだ数日ある、玲奈とダラダラ過ごそうと考えた。


 担任の坂上から着信があった。


『はい』

『あなたはもう働き始めてるの?』

『ええ、働いてますよ』

『偉いわね、給料が安くてもすぐに辞めちゃダメよ』

『それがかなりの金額貰ってるので、楽しいですよ』

『二十万円くらい貰えてるの?』

『もっと多いですよ、三十万円以上です』

『ええー、どんな会社よ?』

『電子機器の研究、開発です』

『凄いわね、じゃあ仕事頑張ってね、卒業式だけは休ませて貰いなさい』

『わかってますよ』


 電話を切った。


「玲奈、今夜はラーメンでも食べに行こう」

「はい、嬉しいです」

「どこの店がいい?」

「新しい店の方がこってりで好きです」

「わかった、混む前に行くぞ」


 店に行き、ラーメンだけじゃなくチャーハンと餃子も注文した、すぐに出てくる。


「ご主人様餃子とチャーハンは初めてです」

「美味いぞ、食ってみろ」

「うん、いただきます」


 俺はラーメンから食べ、チャーハンに餃子のタレをかけて食った、久しぶりの炭水化物だ、玲奈も真似をして食べている、美味いのか黙々と食べていた、食べ終わる頃には仕事を終えたサラリーマンで混みだした、金を払い店を出る。


「ご主人様、全部美味しかったです、特に餃子が気に入りました」

「じゃあまた食べよう」

「はい」


 帰るとすぐにシャワーを浴びた、相変わらず玲奈が頭と体を洗ってくれる、もう慣れたので何とも思わない、風呂上がりに体を拭いてくれるのも慣れた、トイレにも付いて来るがこれも平気になった、慣れは恐ろしい。


 玲奈と車の免許を取りに行くか話し合ったが、必要になれば取ればいいということになった、俺も車にはあまり興味がないし、不便もしてないのでいいかと思った。


 博士から着信が入った。


『はい』

『ドクター海斗、月曜は毎週出勤するのは本当かね?』

『ええ、試しに暫く通ってみようと思ってます、続くかはわかりませんが』

『理恵君が送り迎えするそうじゃな』

『はい、家が近いからしてくれるそうです』

『そうか、理恵君が三日徹夜して作った薬はどうだったかね』

『理恵には悪いですが、俺自信のチップで同じものが作れるので終わらせました、でも効果は抜群なので、ドリンク剤として販売すれば売れると思います』

『そうか、理恵君も一応天才の部類じゃからな、ドリンク剤の事は検討しよう、要件はそれだけじゃ』

『わかりました』


 電話を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る