其の二十・ドクター海斗

 翌日研究所に行くと、すれ違う所員が頭を下げるようになっていた。


「海斗先生おはようございます」

「おはようございます」


 海斗先生の名前が広まっているようだ、博士のいる部屋に入ると会議室だった、博士と先生と六人の白衣の男女が集まっていた。


「海斗先生、時間ぴったりじゃな」

「社会人として当然です、ところで何の集まりです」

「ここにいる全員がうちの役員じゃ、まあリラックスして座ってくれたまえ」

「はい」

「早速じゃが、四号の梨花をどうやって助けたのか説明してくれ、我々でもお手上げだったのを君は十分もかからず治した、全員が興味津々なんじゃ」

「わかりました、梨花は喋れない聞こえないの状態でしたが、俺、いや私はご存知の様に改造人間です、体内スマホと脳のチップを駆使し、梨花の脳の言語野と直接会話をし、原因を突き止めました、そして検査ではわからない程度のノイズを発見し、このノイズが喋れない聞こえないの症状を引き起こしていたので、ノイズを除去し、チップで再発防止のプログラムを作り梨花の脳を保護しました、簡単な説明ですが以上です」


 全員がノートにメモを走らせていた、一人が手を挙げる。


「大体わかりましたが、海斗先生はどうやって素手で、脳とアクセスしたのですか?」

「簡単な事です、私は体内スマホとチップをリンクさせ、体の静電気を集め両手から放出しアクセスしました、これは一号の真琴の時と同じです」


 別の人が手を挙げる。


「海斗先生だからこのような事が出来たとわかりましたが、体内スマホとACチップはもう実用段階に入っているとお考えですか?」

「体内スマホはもう実用段階に入っていますね、アシスト機能が優秀なので便利です、しかしACチップはまだ改善の余地が必要と考えています、駆使すれば精神的疲労が大きいですし、人によっては使いこなせないし処理しきれないと判断します、なのでまだまだ実用段階ではないです」


 全員が意見交換を始めたので、机に置かれたペットボトルの水を飲んだ。


「みんなもういいかね? ACチップに関してはわしも同じ意見じゃ、海斗先生だからたまたま上手くいったと考えておる」


 全員が頷いた。


「海斗先生を、ドクター海斗としての役職を与えようと思うが、賛成の者は挙手を」


 全員が手を挙げた。


「博士、ありがたいですが頻繁に来れないですし、まだ二人しか助けていないですよ」

「勤務体系は今までと同じでよい、必要な時だけ来てくれればよい、それと玲奈も助けたから三人助けた事になる」

「それなら引き受けます」

「では君にはこれを渡しておこう」


 白衣が二着と、ドクター真田と書かれたネームプレートを渡された、名刺も入ってる。


「ありがとうございます」

「では会議は終了じゃ」


 全員が席を立ち、順番に名刺を渡して来たので、俺も名刺を渡し、挨拶をしていった。


「ふぅ緊張した」

「君はまだ十八歳なのに、意見も受け答えもしっかりしておるな」

「まだまだですよ」


 白衣を着てネームプレートを付けた。


「うむ似合っておる、一緒に食事でもしていくかね?」


 ちょうど昼飯時だ。


「ええお願いします」


 博士と先生に連れられ、食堂に行ったが食券の販売機もメニューもない、見渡すと全員がプロテインと完全食を飲んでいる、シュールだ、カウンターで博士がセットを四つと言うと、完全食とプロテインが渡された。


 空いてる席に向かうと、所員が道を開け頭を下げる、席に座り食事を始める。


「博士が一番偉いのですか?」

「一応ここの最高責任者じゃ、二番は息子の健一じゃ」

「そうですか」


 ずっと黙っていた玲奈が話す。


「博士、ご主人様は出世というのをしたのですか?」

「そうじゃ、大出世じゃな」

「ご主人様よかったですね」

「俺にはまだ実感がない、それより博士何か俺が注目されてるんですが」

「君がドクター海斗に就任したと、全所員に通達してあるから興味があるんじゃろ、君は役員に近い立場にいる、これからは意見を求められる事も増えるじゃろ」

「役員に近いと言われてもピンと来ません」

「わしを含め役員が八人いる、君は九番目の立場だと思えばよい」

「俺なんかがいきなりそんな地位を持っても大丈夫なんですか?」

「それなりの実績を持っているからな」

「わかりました、表向きの電子機器はどこで作ってるんですか?」

「この建物の裏に工場がある、それなりに儲かっている」


 先生が誰かを呼んだ、若い男が近付いて来た、先生によく似ている。


「私の息子の健介だ、君と同じ十八歳でまだ完全生身の人間だ」

「ドクター真田、沼田健介ですよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、歳も同じだしタメ口でいいよ」

「そんな失礼な事は出来ません」

「かたいな」

「ドクター海斗、ここは年功序列ではない、実力が全てなんじゃ、君も相手が年上でも立場が低ければ敬語を使う必要はないぞ」

「わかりました、健介立場は違うが仲良くしてくれ」

「ドクター真田、わかりました」

「海斗でいい」

「ではドクター海斗、私は肉体改造を今度受けるんですが、痛くないですか? 凄く怖いのです」

「心配しなくても痛みはない、それに体調が凄くよくなるぞ、君の肉体改造を見学させてくれないか?」

「わかりました、肉体改造の時は連絡しますありがとうございます」

「ドクター海斗、我々は部屋に戻る後は好きにしたまえ」

「わかりました」


 三人がコップを戻し出ていった。


「ご主人様、どうします?」

「建物を一通り見てから帰ろう」

「はい」


 地下四階まで下りた、ドアが開かない。


「ご主人様、身分証明書がカードキーです」


 ドアの横の機械にカードキーを通すと扉が開いた、暗い室内は体のパーツが円柱のガラスケースに保管されていた、培養液の中で浮かんでいる。


 地下三階に行った、カードキーで中に入ると、受付の女の所員に止められた。


「一般所員の立ち入りは禁止されています」

「ドクター真田だが、私でもダメかい?」


 ネームプレートを指差した。


「失礼しました、どうぞ」

「軽く案内してくれないか?」

「わかりました」


 ここはアンドロイドの製造室のようだ、説明を受けながら見て回った。


「ありがとう、もう帰るよ」

「はい、わかりました」


 地下二階と一階は知っている、帰る事にした、車に乗り込むと先生から書類が送られてきた、給料の事や完全食とプロテインは給料から原価で天引きされる事、後は以前聞いた機密漏洩禁止についてだ、全て承諾したことを署名し送り返した。


 マンションに戻ると白衣を脱いで、ハンガーにかけた。


「勉強も出来ないまだ高校生の俺が、医者扱いでナンバーナインの立場だとは、誰も信じないだろうな」

「ご主人様にはそれだけの力があるのです、私も誇りに思います」


 頭に着信があった、村田と出ている確か役員の女性だ。


『はい』

『どーもー理恵お姉さんだよ、さっきは貴重な意見をありがとう』


 やけに明るい人だ。


『お役に立ちましたか?』

『役に立ったわ、ドクター海斗』

『で、どうしました?』

『もっと砕けた口調でいいわよ、体内スマホの件だけど、役員は全員装着済みだけど、他の主要所員にも入れた方がいいか会議中なのよ、ドクター海斗の意見を聞かせて?』

『主要メンバーになら入れるべきですね、仕事の効率も上がると思いますよ』

『そう、ドクター海斗が賛成なら決まりね、また連絡するわ』

『わかりました』


 電話が切れた、これからこういう事が増えるんだろうなと思い複雑な心境になった。

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