其の十九・アンドロイド四号

『六時間経過、スリープモード解除』


 目を覚ますと、やはり笑顔の玲奈が覗き込んでいた、もう慣れた。


「ご主人様おはようございます」

「おはよう、寝顔を写真に撮って見たらどうだ?」

「もちろん何枚も写真を撮りましたが、やはり生で見るのが好きなんです」

「慣れたから構わない、逆に起きた時にお前の顔が見れないと不安になる」


 たまに起きた時に、玲奈が朝食の用意に行ってて不安になるのだ。


 朝のキスをすると服を着て、朝食を済ませる、もう何も言わなくても、すぐに冷たい二リットルのペットボトルが運ばれてくる、半分程一気に飲むと、体に水分が行き渡る、余ったのを玲奈が飲み干す。


「お水もまとめて配達して貰えて助かりますね」

「そうだな、うちは食費が安い分いい水と肉に金をかけよう」

「はい、お水でもメーカーによって味が違うのには驚きました」


 ジョギングは二回行ったが、やはり男どもは玲奈のスタイルに釘付けになっていた、俺は大満足だ、玲奈に出会うまでは小さい胸が好みだったが、今では玲奈の大きさ以外考えられないようになった。


「玲奈、将来子供が出来たら、ちゃんと母乳は出るのか?」

「はい出ます、母乳で育てます」

「そうか、わかった」

「それよりご主人様、完全食とプロテインがかなり余ってきてますが、どうします?」

「たくさん摂取しても問題ないか?」

「普通の人間なら過剰摂取になりますが、私達なら大丈夫です、逆にたくさん摂取した方が体にいいです」

「じゃあもっと頻繁に飲むようにしよう」

「わかりました」


 頭に博士から着信が入った。


『はい』

『今日か明日は時間あるかね?』

『どちらも時間ありますよ』

『ちょっと診て貰いたい患者がいる』

『患者? アンドロイドですか?』

『そうじゃ四号の梨花が突然声が出なくなったんじゃ、調べたが故障はしていないので、うちの精神科医が今調べておるが、よくわからなくてのう』

『治せるかはわかりませんが、給料分は働きますよ、今日行きます』

『わかった、何時でもよいぞまたカルテを送っておく』

 電話が切れた、玲奈に話した。

「梨花はもともと気の弱い子なんです、何があったんでしょうか? 心配です」

「じゃあすぐに迎えに来て貰おう」


 すぐに佐藤さんを呼んだ。


「一時間で迎えが来るから、昼飯を済ませておこう」

「はい」


 食事を済ませるとカルテが送られて来た、軽く目を通す、パートナーとの仲は良好、喧嘩もしていないが、二日前に起きてから声が出なくなっている、パートナーにも心当たりがないらしい、男は二十歳の無職で名前は裕隆、梨花は筆談も出来ない程弱っていると書かれていた。


 これだけではよくわからないし、俺には心を読む能力もない、助けてやりたいが無理かもしれない、とりあえず会うだけでも会ってやらないとダメだ。


 佐藤さんが到着したと連絡が入った、すぐに一階に下りて車に乗り込む、カルテを読み返し対処法を考えてる間に研究所に着いた。


 今回は別の部屋だ、ノックをしてドアを開けると博士と先生、医者が話していて、ベッドに梨花が寝ていて男が手を握っている。


「海斗君早かったのう」

「ええ、それよりあれから進展は?」

「何も変わっておらん、この精神科医の先生にもわからんそうじゃ」

「そうですか、梨花を起こしても大丈夫ですか?」

「ああ寝ておるだけじゃ、起こしてもよい」


 ベッドに近付くと、男が立ち上がった。


「あなたが海斗先生ですか? よろしくお願いします」

「海斗だが先生ではない、あんたと同じくこの玲奈のパートナーで改造人間でここの新米所員だ」

「でも一号を救ったと有名ですよ」

「あの時は運が良かっただけだ、梨花を救えるかは保証出来ない」


 いつの間にか博士達も近くにいた。


「海斗先生か、こりゃいい海斗先生に任せるぞ、我々は手を尽くした」

「からかわないで下さい」


 腕を引っ張られた、梨花が目を覚ましていた、口を動かしてるが何も聞こえない、完全に声を失っている。


『アシスト、サポート頼むぞ』

『了解しました』


「梨花、俺の声は聞こえるか?」


 少しと指でジェスチャーを返した。


「声を失ったきっかけは覚えてるか?」


 首を傾ける。


「聞こえないのか?」


 耳を指で突くジェスチャーをしている。


「まいったな、体が弱って聴力も弱ってるみたいだ」

「海斗先生何とか助けて下さい」

「少し黙っててくれ、考え中だ」


 脳の言語野に直接話しかけたら、答えも聞けるかもしれない。


『アシスト、俺の考えは合ってるか?』

『それしかないです』


 両手で梨花の頭を挟んだ、言語野がどこにあるかまでは知らない。


『梨花聞こえるか?』

『はい、聞こえます』

『よかった、一安心だ』

『海斗先生助けて下さい』

『話せなくなったきっかけは覚えてるか?』

『はい、ご主人様が寝言で別の女性の名前を呼んだのにショックを受けて、気付けば声が出なくなっていました』

『そうか、治してやれるかもしれない、ちょっと手を離すぞ』


 手を離し、全員に原因を話した。


「梨花はそんな事でショックを受けていたんですか?」

「そんな事とか言うな、梨花の心はとても繊細なんだ」

「すいません、治せますか?」

「今から治療する、静かにしていてくれ」


『アシスト、どうすればいい?』

『簡単です、言語野のノイズを除去して下さい、サポートします』


 再び梨花の頭を両手で挟んだ。


『梨花、リラックスして何も考えるな』

『はい』


 脳波が落ち着くのを待ってノイズらしき物を消した、再発防止のプログラムをチップに作らせ、脳全体を保護した。


 手を離し梨花に話しかける。


「梨花、治したぞ喋ってみろ」

「ご主人様、心配かけてすいません」


 全員が喋った治ったと喜んでいる、俺はかなり疲れた、梨花と裕隆が話していたが、中断させて話した。


「完全に治した、今後同じような事があっても大丈夫なようにしてある、とりあえず梨花に何か食わせて、歩けるなら帰っていい」

「海斗先生、なんて病気ですか?」

「ストレスからの失声症だ、さっきも言ったが梨花は心が繊細だ、再発防止策はしてあるが気をつけろ」

「ありがとうございました」

「博士、かなり疲れたので帰ります」

「海斗君、いや海斗先生ありがとう礼を言うぞ、ゆっくり休んでくれたまえ」

「ええ、玲奈帰るぞ」

「はいご主人様、お疲れさまでした」


 車に乗り込むとぐったりして、玲奈に寄りかかった、玲奈が運転手を急かした。


「佐藤さん、少し急いで下さい」

「わかりました」


 いつの間にかマンションに戻って来てた、完全食とプロテインを二杯ずつ飲み、水も大量に飲むと玲奈の太ももに頭を乗せた。


『スリープモード開始、十八時に起床』


 たっぷり休めるはずだ。


『十八時、スリープモード解除、全身スキャン、疲労物質を排除、スキャン終了、疲労は残ってません』


 目を開けた、玲奈が心配そうに覗いていたので大丈夫だと声をかけた。


 肉をたくさん食べ、シャワーを浴びると気分もさっぱりした。


「ご主人様が休んでる間に、博士から連絡がありました、海斗先生に改めて礼を言う、詳しく話を聞きたいから明日来て欲しいと言ってました」

「わかった、海斗先生は慣れないな、たった二人を助けただけなのに」

「私は誇らしいです」

「迎えは来るのか?」

「はい、九時に来るらしいです」

「わかった」

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