其の十六・アンドロイド一号の怒り

『六時間経過、スリープモード解除』


 目を覚ました、相変わらず玲奈は俺の顔を覗き込んでいる。


「ご主人様おはようございます」

「おはよう」


 二度目の改造から数日が過ぎていた、毎日を二人で楽しく過ごしている。


 食事を済ますとトイレに行く、小便はただの水になり、大便は食べかすだけで匂いもしなくなっていた。


 チップの記憶容量が大きいのか、見たこと聞いたこと、全てがデータとして保存されている。


 研究所からの報酬は、また膨大な金額が振り込まれていた、研究所の表と裏の顔でかなり儲けているか、スポンサーが付いてるに違いない。


 急に豚骨のこってりラーメンが食いたくなった、頭の中に周辺の地図を広げる、目的のラーメン屋を検索する二件見つかった、アシストに俺の好みの店はどっちか訪ね、店を決めた。


「玲奈、ラーメンを食べに行こう」

「はい、初めてです」


 ラーメン屋でチャーシュー麺をバリカタで頼み、にんにくを潰して入れる、玲奈も真似をした、久々のラーメンは凄く美味かった。


「ご主人様、癖になりそうです」

「美味いだろ、他にもいろんな味があるから好みを見つけるといい」

「はい」


 マンションに戻り、コーヒーを飲んでいると、博士から着信があった。


『はい』

『海斗君、今から来れるかね?』

『慌ててますね、何かありました?』

『玲奈を合わせて六人共心が宿ったと言ったじゃろう?』

『ええ、聞きました』

『それが一号が勝手に帰ってきて、ご主人様の元には戻らないと言って暴れたんじゃ、理由も話さないから、麻酔で眠らせ暴れないように拘束したんじゃが、どうする事も出来ない、このままでは危険と判断し処分するしかないんじゃが、最後に君の力で何とかならないかお願いしたいんじゃ』

『博士達が無理なら、俺に何が出来るんですか?』

『君に埋め込んだチップで、制御出来る可能性が残っている』

『わかりました、どこまで出来るかわかりませんが見に行きますよ』

『もう車は向かわせてる』

『わかりました、よかったらカルテを送って下さい』

『わかった、メールに添付して送ろう』

『お願いします』


 電話を切った。


「玲奈、研究所に行くぞ付いてきてくれ」

「はい」


 着替えて準備をする、運転手の佐藤さんから着いたと連絡が入った、すぐに車に乗り込む、車がいつもよりスピードを出している。


 カルテが送られて来た、外国語だがスラスラ読める、名前は真琴で玲奈と同じく奉仕用アンドロイドの一号だ、健康状態良好、正確もおとなしく従順タイプ、隣の県に送られて暮らしていたようだ。


 心を持ってからも二人仲良く暮らしていたが、二日前に暴走、徒歩で研究所に帰って来たらしい、情報が少ない。


『アシスト、何か情報をくれ』

『これ以上ありません』

『俺が何とか出来る問題なのか?』

『出来ます』


 玲奈に大まかな話をした。


「真琴は暴れるような子じゃありません」

「それが暴れてるから問題なんだ、このままだと処分される」


 玲奈はうつむいて黙り込んだ。


 研究所に着いた、博士のいる場所をサーチし、部屋に入った。


「早かったのう、一号はまだ眠っておる」

「真琴のご主人様は?」

「彼ならさっき来て、別室で話を聞いているところじゃ」


 真琴は鎖でがんじがらめにされている、玲奈が近づき頬を撫でている、真琴が目を覚ました。


「真琴、お久しぶりです」

「玲奈、元気でしたか?」

「ええ、愛するご主人様と幸せに暮らしてますよ」

「ご主人様……あんな奴大嫌いだ、鎖を外せ私を処分しろ」

「真琴落ち着いて」

「落ち着けるか、あの男を殺せばよかった」

「玲奈、下がれ」

「はい」

「真琴、何故そんなにご主人様を憎む?」

「お前が玲奈のご主人様か? お前には関係ないだろ」

「関係ないが、処分されるのは避けたいから来たんだ」

「処分すればいいだろ?」


 真琴の頬を叩いた。


「痛い、なんて力をしてやがる」

『アシスト、落ち着かせる方法は?』

『強制的ですが、怒りの感情を一旦停止して下さい、手で顔を挟んで下さい』


 俺は真琴の顔を両手で挟み、怒りを停止させた、真琴がおとなしくなった。


「真琴、ご主人様が迎えに来てるぞ」

「ご主人様が? 合わせて下さい仲直りしたいです」


 博士が感心している。


「ほう、こんなに簡単におとなしくさせるとは、海斗君やるのう」

「怒りの感情を停止させました、それより博士、真琴のご主人様を連れて来て下さい」

「うむ、わかった」


 博士が電話をかけた、すぐに大学生らしき男が入って来た。


「真琴、大丈夫か?」

「ご主人様会いたかったです、急に怒ってごめんなさい」

「いや、俺が悪かった」

「なあ、あんた何をした? 正直に言わないと真琴を処分するぞ」

「俺がコンパに誘われて、酒の勢いで別の女とホテルに行ったのを真琴に見られた」


 男を殴った、男が吹き飛び真琴の足元で倒れた。


「止めて下さい、ご主人様が死んでしまいます、お願いします」

「真琴はご主人様を殺したいんじゃなかったのか?」

「勢いで言っただけです、私はご主人様を許します、もう一度元の生活に戻して下さい」

「ま……こと、俺もお前を愛してる」

「ご主人様、私も愛してます」

「真琴、今は怒りの感情を停止してるが、戻しても今の気持ちを忘れないか?」

「はい、ご主人様を許し再び愛します」


 真琴の怒りの感情を戻した。


「真琴、どうだ?」

「怒りが消えました、私の独占欲が強すぎました、ごめんなさい」

「そんな事ないぞ、俺が一方的に悪かった」

「反省してくれたのならそれでいいです、また二人で仲良く暮らしたいです」

「俺も二度と浮気はしない」

「はい、ご主人様」

「そこまでだ一旦黙れ、博士何とか丸く収まったようですが、どうします?」

「ふむ、君はどう判断するかね?」

「ただの痴話喧嘩です、もう一度チャンスを与えてもいいと思います」

「うむ、そうじゃな君に任せよう」

「真琴とそこの男、もう一度だけチャンスをやる、上手くやっていけるか?」

「約束する」

「私も約束します」

「もし約束を破ったら真琴は処分、男は俺が殴り殺す」

「「わかりました」」

「博士これでいいでしょう」

「うむよくやってくれた、君がいなければ真琴の記憶を変える手術か、処分のどちらかだったわい」

「じゃあ開放してあげて下さい、俺と玲奈は帰ります」


 男が立ち上がった。


「待ってくれ、君は一体何者なんだ?」

「玲奈のご主人様で、改造人間で、ここの所員の一人だ、玲奈帰るぞ」

「はいご主人様、真琴元気でね」

「玲奈も元気でね」


 表に出て車に乗り込んだ、初めて使うシステムで精神的疲労が大きい、マンションに戻ると完全食を飲んだ。


「ご主人様お疲れ様、真琴を助けてくれてありがとうございます」

「一応仕事だからな、少し休ませてくれ」

「膝枕どうぞ」

「ありがとう」


 玲奈の太ももに頭を乗せた。


『スリープモード開始、二時間後に起床』

『了解しました』

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