其の十五・ACチップの性能

「ご主人様、そろそろ起きて下さい」

「何時だ?」

「八時です」

「わかった」


 起きて服を着て寝室から出た、また朝食の準備は出来ていた、食事をし顔を洗って出かける準備をした、緊張はしていない。


 迎えの車はいつも早いので俺達も早めに一階に下りた、ちょうどいつもの車が到着したので、乗り込んだ。


 いつもの山道に入り一時間程で研究所に到着した、先生が外でタバコを吸っていた。


「やぁ待ってたよ、今日の担当は博士ではなく、私が担当するからよろしく」

「はい、お願いします」

「心配しなくても博士も同席するから安心してくれたまえ」

「はい」


 前回と同じ部屋で着替えさせられ、今回は地下二階に下りた、広い手術室だった、博士や助手も集まっていた。


「海斗君、気分はどうかね?」

「気分はいいですよ、不安もありません」

「玲奈は見学するのかね?」

「はい、見てて貰います」

「わかった許可しよう、裸で手術台に寝てくれたまえ」

「はい」


 前回のような恥ずかしさはなかった、病衣を玲奈に渡し、手術台に寝転んだ、腕に注射を打たれると、打たれた箇所から冷たくなっていく感覚がし、首元まで来ると意識が途切れた。


 …………


 目が覚めた、瞬きをした瞬間に終わったような感覚だ、今回は何の機械も取り付けられていない。


「ご主人様、おはようございます」

「もう終わりか?」

「ちょうど一時間で終わりました」


 博士と先生が入って来た。


「気分はどうだい?」

「更にさっぱりしてます」

「それはよかった、もう傷口も治ってるから動き回っても大丈夫だよ」


 起き上がり鏡の前に立った、髪が短くなっている。


「これで終わりですか?」

「ああ君のリクエストの疲れやすい体質も改善しておいたよ」

「ありがとうございます」


 今度は博士が話し始めた。


「私の言葉がわかるかね」

「当然です」

「成功だ、私は今英語で話しているが、君には日本語に聞こえているはずだ」

「英語? 苦手ですが頭の中では日本語に聞こえています」

「これで全世界の言葉が聞き取れ、話す事も出来るようになった」


 確かによく聞くと、英語がかすかに聞こえている。


「普通に話そうじゃないか、君の頭に埋め込んだチップは、もう正常に働いている、違和感はあるかね?」

「いえ、何も感じないです」

「そのうちわかる、服を着たまえ」


 服を着て、博士の前に座る。


「君にこれを渡しておこう」


 カードを渡された、見るとヒューマンデバイス研究所の所員の身分証明書だった。


「働く気はないんですが」

「非常勤所員じゃ、これで君は自由にこの中に入れるようになった、送り迎えの車も自由に使ってよい、うちは表向きは電子機器の開発研究所になっておる、覚えておきなさい」

「わかりました、なんでこんな地方の山に研究所があるんですか?」

「機密保持のためじゃ」

「そうですか」

「他に聞きたい事はあるかね?」

「聞きたい事じゃなく、お願いがあります」

「言ってみたまえ」

「博士は玲奈達を物扱いしてますが、心を持った今、人間と変わりないので人として見てあげて欲しいです」

「ふむ、君の所員としての初意見じゃな、わかった我々も認めよう」

「ありがとうございます」

「他にはあるかね?」

「今の所それだけです」

「わかった、では今からは自由にしたまえ、研究所を見て回ってもいいし、そのまま帰ってもよい」

「今日は帰らせて貰います」

「わかった、運転手には話は通してあるから自由に使いなさい」

「はい」

「謝礼は振り込んでおくよ」

「わかりました、じゃあ失礼します、玲奈帰るぞ」

「はい、ご主人様」


 出口はどこだったっけ? 頭の中に建物の内部と現在地が現れた、これも新しい機能みたいだ、出口に向かって進んだ。


 運転手が外でゴルフの素振りをしていた。


「真田様、お帰りですか?」

「ええ、お願いします」

「話は聞いています、これが私の名刺です、いつでもお呼び下さい」

「ありがとうございます」


 また一時間程走り、マンションに送って貰った。


「ご主人様、何か変化はありますか?」

「ちょっとずつわかってきたところだ、手術を見てておかしなところはなかったか?」

「はい、大丈夫でした」

「そうかだったらいい、腹が減った、ビタミンとカルシウムが不足している」

「早速使えてますね、完全食を用意します」


 食事をし水を大量に飲んだ、水がやたらと美味く感じるが、これもチップのせいだろうか?


「ご主人様、散髪しましょう髪がボサボサですよ」

「この近くに散髪屋はあったっけ?」

「私が切ります」

「出来るなら頼む、髪型は任せる」

「はい」


 床に座り、散髪して貰ったハサミ一本なのに、サイドは上手く刈り上げ、トップも綺麗に整えられた。


「終わりました」

「ありがとう」


 切った髪を片付けると、コーヒーを入れてくれた、肉体的疲労がなくなったのは、すぐに感じ取れたが、精神的疲労は襲ってくる。


 玲奈にも話すと太ももをぽんと叩いた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 玲奈の太ももに頭を乗せ目を閉じたが、なかなか寝付けない。


『アシスト、寝させてくれないか?』

『新しいデバイスを見つけました、リンクしますか?』

『してくれ』

『アシストの性能が格段に成長しました、アップデートがありますが、インストールしますか?』

『ああやれ』

『終了しました、スリープモードに入りますか? 時間指定出来ます』

『玲奈と同じ機能か?』

『海斗の方が性能はいいです』

『じゃあ二時間スリープモードだ』

『了解、スリープモード開始』


 意識が途切れた。


 ……


『二時間経過、スリープモード解除』


 目が覚めた、今までより気分がいい。


『アシスト、寝てる間に何かしたか?』

『全身をスキャンし、疲労物質などを排除しました』

『ありがとう』

『私の機能ではなく、ACチップが制御しているせいです』

『ACチップ? 何の略だ?』

『アシストコンピューターの略です、私はただの橋渡しです』

『わかった』


 体を起こした。


「ご主人様、寝起きがよくなりましたね」

「お前と同じ、スリープモードが使えるようになったからだ、体のスキャンも出来るぞ」

「便利になりましたね」

「ああ、今の所便利だ今夜は肉を頼む」

「はい、たくさん食べて下さい」


 玲奈が料理をし肉料理が並んだ、順番に食って行く、味覚が敏感になっている。


『腹八分目です、インスリン分泌開始』


 気にせず腹がパンパンになるまで食った。


『これが俺の限界だ覚えておけ』

『了解しました』


 玲奈とシャワーを浴び、すぐにベッドに入った、スキンシップをたっぷりしてやった。

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