其の十・検査と面接
数日が過ぎてお盆の季節も過ぎた、俺と玲奈は毎日仲良く平和に過ごしている、今日も玲奈の膝枕で仮眠を終えたところだ。
「ご主人様、ご主人様のご両親は亡くなられたのですか?」
「ああ俺が高校に入ってすぐに交通事故で死んだ、保険もあまりかけてなかったから、ほとんど金は貰えなかった、だからあのボロアパートに住んでたんだ」
「そうですか、変な事を聞いちゃってごめんなさい」
「気にするな、俺は今お前と一緒にいれて幸せだからな」
「私も幸せです」
頭の中で着信が鳴った、博士からだ。
「ちょっと電話だ」
『はい』
『海斗君、今週は何か予定はあるかね?』
『いえ、玲奈とダラダラしてます』
『そうか、実は玲奈の最後の検査と、君の検査があるから一緒に来て欲しいのだが』
『いいですよ、玲奈の検査の様子を見せてくれますか?』
『ああ見てくれて構わない』
『じゃあ明日はどうです?』
『わかった、では九時に迎えに行く』
『わかりました、待ってます』
電話が切れた。
「玲奈、明日お前と俺の最後の検査があるらしい」
「わかりました、やっと最後だわ」
「九時に迎えが来るそうだ、お前の検査も見学させて貰う約束をした」
「見てても面白くないですよ」
「それでも見ておきたい」
「わかりました、じゃあ今日は完全食とプロテインのみです」
「わかった、浣腸とかさせられるのか?」
「ないです、安心して下さい」
「最後の検査が終わればどうなる?」
「私が完全にご主人様の物になります」
「じゃあ研究所と関わりがなくなるのか?」
「いえ、関わりはありますが自立という事になるんです、私もご主人様も最後に話し合いをして、完全にご主人様の物と決まります」
「わかった」
「最後の話し合いでお互いの意見が分かれると、ご主人様と一緒にいられなくなります」
「超難関じゃないか、お前と別れたくない」
「大丈夫です、ご主人様が私を愛してくれていれば簡単に終わります」
「愛してるに決まってるだろ」
「じゃあ心配しなくても大丈夫です」
「不安になってきた」
「もし答えに迷ったら、私と同じ事を言って下さい、それで終わりますから」
「わかった」
完全食の食事を終え、二人でシャワーを浴び、くつろいで早めに寝た。
……
「ご主人様、そろそろ起きて下さい」
「ああ半分起きてた」
朝の完全食を飲み服を着替えた、玲奈には白の下着と、白のノースリーブとホットパンツを履かせた、ちょうどチャイムが鳴った。
『早いですがお迎えに来ました』
「はい、すぐ行きます」
玲奈と一階に下りると、車に乗り込んだ、一時間程山を登り研究所に着いた、この前はよく見てなかったが、ヒューマンデバイス研究所と書いてあった。
沼田先生が出迎えてくれた、所内の一部屋に案内され、病衣に着替えさせられた、そのままエレベーターで地下一階に下りると、いかにも研究所という広い場所に出た、奥に進むと機械が並べてある場所に、博士と助手らしき男女が数名いた。
「やぁ待っておったぞ、採血から始めよう」
若い助手が俺達の腕から採血し、すぐにどこかに消えた。
「じゃあ検査じゃ、どちらからするかね?」
「俺からお願いします」
「では裸になってここに座りなさい」
「真っ裸ですか」
「そうじゃ、恥ずかしがるでない」
仕方ないので裸になって機械に座った、頭に何か貼り付けられ、両腕両足にもベルトを巻かれ、胸にも何か貼られた。
何人かの助手がそれぞれモニターを見て、カルテに何か書き込み大声で話す。
「脳波異常なし」
「心臓異常なし、血圧も正常」
「その他も異常なし」
貼り付けられた機械を全部外された。
「一つ目は終わりじゃ、隣の円の中に入りなさい」
言われた通り円の中に立った。
「あまり動くでないぞ、では開始」
下から頭の先までフラフープのような物が上がって下りた、CTスキャンみたいな物なのかな?
「はいお疲れさん」
「もう終わりですか?」
「ああ終わりじゃ、服を着てもいいぞ、次は玲奈の番じゃ」
「はい」
玲奈も裸で同じ検査を受けた、異常なしだった。
「服を着替えたら私の部屋に来なさい」
博士はどこかに行ってしまった。
「お疲れ様、戻ろうか」
先生に声をかけられ、私服に着替え直すと付いて来てと言われ、博士の部屋に案内された。
博士は俺達をソファーに座らせ、何枚かのカルテに目を通している。
「うむ、二人共健康そのものじゃ、じゃあこれから問診じゃ」
ついに来たと思った。
「君達はこれからも一緒にいたいかね?」
「もちろんです、結婚して一生一緒に過ごしたいです」
「私も全く同じです」
「ふむ、キスやスキンシップはどれくらいしてるのかね」
「キスは一日二十回以上、スキンシップはしょっちゅうです」
「ふむ、お互い心の底から愛し合ってるのかね?」
「俺は心の底から愛してます、気持ちが変わる事はないと断言します」
「私も全く同じ気持ちです」
「ふむ、本来ならもっと細かく聞くところじゃが、私も君達の事はよく知ってるのでここまでにしよう、最後にこれで玲奈は正式に君の物になるわけじゃが、一生玲奈の秘密を隠し、愛し続けられるかね?」
「はい、約束します」
「約束が破られると玲奈は廃棄処分になるから、肝に銘じておきなさい、覚悟が決まればこの書類に拇印を押しなさい」
俺は迷う事なく朱肉に親指を付け、拇印を押した、続けて玲奈も押した。
「いいじゃろう、これで玲奈は研究所を卒業し、所有権は君に渡った、おめでとう」
「「ありがとうございます」」
「メンテナンスや修理は引き続き我々が行うが、私が死んだ後は息子の健一が引き継ぐ、もちろん君の体もじゃ」
「わかりました」
「では帰って休みなさい、お幸せにな」
「はい」
先生が出口まで案内してくれた。
「ありがとうございました」
「博士がいない時は私に連絡するといい、お幸せに」
車に乗り込んだ、玲奈は泣くのを我慢しているようだ、マンションに帰って来た。
「あんな簡単だとは思わなかった」
玲奈が抱きついて来て大泣きを始めた。
「私がリードしようと思ってたのに、ご主人様が全部答えてくれた、プロポーズされたみたいに嬉しかったぁー」
「俺は本音を言っただけだ」
「それが嬉しかったのぉー、わー」
玲奈が泣き止むまで抱きしめてやった、かなり長い時間泣いていたがやっと収まった。
「喉が乾きました」
「俺もだ」
「待ってて下さい」
玲奈がコーヒーを入れて運んで来た。
「俺が一つ気に入らなかったのは、博士が玲奈を物扱いしてた事だ」
「それは仕方ないわ、ご主人様に会うまでは心のない、ただの奉仕用アンドロイドだったんだもの、ご主人様の物でいいです」
「俺はお前を一人の人間の女性としてこれからも接するからな」
「ご主人様、ありがとう」
「でも研究所を卒業して、お前も気が楽になったか?」
「うんこれからは自由よ、心の底から落ち着きました」
「今夜はまた焼き肉を食べに行こう」
「はい、お昼は完全食を作るわね」
「ああ頼むよ」
食事を終えると、また膝枕をして貰い眠りについた。
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