其の八・体内スマホ

 目を覚ますと玲奈が俺の顔を覗き込んでいた、いつも通りだ。


「おはよう何時間そうやって見てたんだ?」

「おはようございます、今日は二時間見てました」

「よく飽きないな」

「飽きませんよ、もう起きますか?」

「ああたっぷり寝たからな、改造されてから調子がいい」

「それはよかったです、朝食は何がいいですか?」

「これから食事はお前に任せる」

「わかりました」


 二人で服を着て寝室から出る、キッチンからシェイカーを振る音が聞こえる、すぐに完全食とプロテインが運ばれて来る。


 二人で両方飲み干すと食事は終わった、そっけないが満腹度と満足度は普通の食事と変わらない。


「玲奈、お前はどんな料理もプロ並みに上手いが習ったのか?」

「習ってはいません、一流のシェフのレシピや技術がインプットされてるからです、他にもいろいろインプットされてますよ」

「そうだったのか」

「ご主人様のフェチも覚えたので、満足させてあげれます」

「フェチまでわかったのか?」

「はい、ご主人様は腋フェチと――」

「ストップ、それ以上言わないでくれ」

「恥ずかしいのですか?」

「ああ恥ずかしい」

「わかりました、何でも出来ますからしたい事は言って下さいね」

「わかった」


 バレてた、多分全部見抜かれてるし、したい事も気付かれてそうだ。


「お前は何フェチなんだ?」

「わかりません、全て好きなので」

「わかった、他の奴には言うなよ」

「わかってます」

「ところでお前髪が伸びてきたな」

「気付いてくれました? どうしようか考えてました、ご主人様の好みに合わせます」

「俺はポニーテールが好きだから、それが出来る長さならそれでいい、特に髪の毛の下半分は垂らしたまま、上半分を後ろで束ねてる髪型が一番好きだ」

「ハーフアップポニーテールですか? 今やってみます」


 玲奈がクシを使い器用に髪を束ね出した。


「ご主人様また腋を見てる、今は髪を見て下さい」

「すまん」

「出来ました、こうですか?」

「そうそれ、可愛さが四割増した」

「惚れ直しました?」

「ああ凄く似合ってる」


 玲奈を抱き締め髪に顔を埋めた、シャンプーの匂いがたまらない、キスをする。


 チャイムが鳴ったタイミングが悪い、玲奈が応答してドアを開けた、すぐに箱を抱え戻って来た、箱を開けると昨日注文した財布が入っていた、二人で新品の財布に金とカードを入れた。


「ご主人様、ありがとう」


 気に入ってくれたようだ。


二人でシャワーを浴び、遅めの昼食を完全食で済ますと、玲奈の膝枕で仮眠した。


 目覚めるとちょうど晩ご飯の時間だった。


「おはようございます、晩ご飯の支度をします」

「おはよう、わかった」


 キッチンへ向かった玲奈が冷蔵庫を漁っている、夜は肉か楽しみだ、三十分程で唐揚げととんかつが出てきた、やはり歯応えのあるものの方が食べてる実感がある。


「玲奈、この俺の筋肉だが鍛えておかないと衰えるのか?」

「大丈夫です、特殊な筋繊維なので普段通りの生活で維持出来ます」

「そうか安心した、やっぱり一日一回はこういう食事が美味いな」

「私も楽しいです」

「でも栄養面からすると、完全食の方が栄養価が高い気がする」

「わかりますか?」

「なんとなくだがな、もしかして俺の体にそういうのがわかる装置とか、埋め込まれてないだろうな?」


 玲奈がいたずらっぽく笑った。


「何だその笑顔、知ってる事があるなら教えろ」

「ご主人様が考えてるような装置はないですが、別の物は一つ埋め込まれてます」

「正直に全部話せ、でないともう構ってやらないぞ」

「言いますからそんな事言わないで下さい」

「じゃあ話せ」

「体の中に超小型の携帯電話のデバイスが埋め込まれています、脳と視神経とも繋がっていて、スマホと同じく通話やカメラなどの機能が使えます、私にも埋め込まれました」

「何で隠してた? 怒るぞ」


 玲奈は泣きそうな表情になった。


「博士からご主人様が気付くまで、黙っていなさいと言われたからです」

「裏切られた気分だ、もういい」

 寝室に入って鍵をかけた、ガチャガチャドンドンとドアを叩かれたが無視した、防音なので向こうの声は聞こえない。


 頭の中で電話の着信音が鳴った、同時に目の前に玲奈と表示された、無視したら着信が切れた。


 ベッドに横になり怒りを鎮めた、埋め込まれた事より秘密にされてた事に腹が立つ、また着信があった沼田博士からだ、どうやって受ければいいのかわからない、頭の中でいろいろ試す、応答と思い浮かべると電話が繋がった、少し怒った口調で話す。


「はい、何ですか?」

『声を出さずとも頭の中で話せる』

『こうですか?』

『そうじゃ、今回の件はすまなかった、玲奈が半狂乱でかけて来たので急いでかけた』

『こういうのが埋め込まれた事は別にいいんです、信じてた玲奈が秘密にしてたのに怒ってるんです』

『すぐに気付くじゃろうと思って、わしが口止めしたのが悪かった、許してくれんか?』

『もう済んだ事なのでいいですが、気分が落ち着くまで一人にして下さい』

『わかった、玲奈にはなんて伝えておけばいいかのう?』

『何も言わず放っておいて下さい』

『わかった』


 通話終了と思い浮かべると電話が切れた、せっかくなので懲らしめてやろうと思い、一時間閉じ籠もる事にした。


『アシスト』

『はい、ご用件は何でしょう?』

『今から一時間後に起こしてくれ、それまで誰からの着信も拒否しろ』

『わかりました』

『後カメラの使い方を教えてくれ』

『カメラ起動でカメラが起動します、シャッターで撮影します、まばたきで撮影する設定もありますが、設定しますか?』

『しない、ありがとう』


 アシスト機能は初めて使ったが便利だ。

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