其の六・改造人間

 数日が過ぎた、玲奈に言われた通りキスなどスキンシップを増やした結果、満足してくれているようだ。


「なあ、こんなに毎日たくさんキスとかして飽きないのか?」

「これくらい外国じゃ普通でしょ? ご主人様は飽きるの?」

「いや飽きない」

「じゃあいいじゃないですか」

「わかった、毎日暇でダラダラしてるがいいのか?」

「私は暇とは思わないわ、研究所にいた時はずっと何もない部屋で過ごすか、検査だけだったもの」

「それは退屈だったな」

「それが普通だと思ってました」

「じゃあ今は楽しんでるんだな?」

「毎日楽しいわ、家事をしたり買い物に行ったり、愛するご主人様の側にいられるし」

「そうか、俺は一生お前を手放さないから覚悟しておけ」

「私も離れる気はありません」

「安心した、今夜は花火大会だからな」

「はい、楽しみです」

「屋台で何でも食っていいからな」

「はい」


 もう夕方だったので早めに出かけた、いい場所で花火を見せてやりたい。


「いい場所が取れた、あそこの船から花火が上がるぞ」

「こんな近くから見れるんですか、素敵」


 続々と人が集まって来る、もうすぐ始まるはずだ、玲奈の目がキラキラ輝いている。


ドンッ、ヒュー、パッ。


「ご主人様、始まったわ凄い凄い」

「ああ凄いな」


 花火と玲奈を交互に写真に収めた、次々と色鮮やかな花火が上がる、動画に切り替え録画をしながら楽しんだ、玲奈は花火に見入っている、連れてきてよかった。


 一時間の花火大会も、あっという間に終わってしまった、人混みの中を玲奈の手を引き移動する、屋台でいろんな物を食べ満足した俺達は帰る事にした、帰り道も人で溢れている、赤信号で立ち止まる。


 人混みの列の中から小さな女の子が飛び出した、俺は無意識に走り女の子を捕まえた。


 キィー、ドン。


 大型トラックに轢かれたとこは記憶にあるが、体が動かないし目も見えないし耳も聞こえない、このまま死ぬのか玲奈すまない、そしてありがとう、意識が薄れて行った。


 …………


 目が覚めた、ここはどこだ?


「ご主人様おかえりなさい」


 玲奈が大粒の涙を流している、俺は体を動かしたがどこも痛くない、あの状況で助かるとは思えない。


「ちょっと待ってて下さい」


 花火大会の夜と同じ服装の玲奈は血塗れだった、電話で博士を呼んでいる、博士って事はここは病院じゃなく研究所なのか?


 すぐに博士と若い男が入って来た、俺の体に無数に取り付けられた機械を、若い男がチェックし外していく。


「海斗君、体を動かして痛い場所や違和感はあるかね?」


 俺は上体を起こし体を動かしてみた、以前より調子がいい。


「大丈夫です、逆に調子がいいです」

「そうじゃろな、手術というより改造したからな」

「改造?」

「順に話そう、君は飛び出した女の子を助けようとして、大型トラックに轢かれ体がバラバラになった、玲奈から連絡を受けた我々はすぐにヘリで君をここまで運んだ、普通の病院だと確実に死亡していただろうが、我々は諦めなかった、全身の骨は砕け、内蔵は破裂し手足も千切れていたが、幸い脳だけは無事じゃった、そこで我々は体は諦め、脳を取り出した」


 博士が一旦話を区切りお茶を飲んだ。


「でも、確かにこれは俺の体ですよ」

「以前、玲奈のDNAと血液を採取した時に君のも採取したじゃろう?」

「はい、覚えています」

「私は密かに君の体の複製も何体か作っておったんじゃ」

「じゃあ、そのコピーの体に脳を入れたのですか?」

「それが簡単にはいかなかった、すぐに全身の骨を作り直し、脳を入れ潰れていない内蔵に人工臓器をくっつけ、筋肉も全身に貼り直し、皮膚をコーティングした、血液は傷の治りを十倍に早めるために玲奈達と同じ血液を入れて、特殊な培養液の中で体を完成させたんじゃ、これで改造が終わりここに運んで一日で目を覚まし、今に至るという事じゃ」

「じゃあたった三日で俺は死から蘇ったんですか?」

「そうじゃ、我々からすれば改造は簡単な事じゃよ、わしもここの研究所の研究員も皆同じではないが、軽い改造をしておるからな」

「そうなんですか」

「そこにいるのはわしの息子じゃが、わしと息子は何歳に見える?」

「博士が六十歳くらいで、息子さんが三十歳くらいですか?」

「残念、わしは七十で息子は四十二じゃ、改造のせいで老けるのが遅い」

「俺もそうなるんですか?」

「ああそうじゃ、それと君の骨は作る時に特殊な金属を混ぜてるから、ちょっとやそっとじゃ折れないぞ、後自分の体を見たまえ」


 俺は病衣のような服を脱いだ、かなりの筋肉質になっていた、それと玲奈の様に体毛が無くなっていた。


「これはどういう事ですか?」

「改造したからじゃよ、皮膚は玲奈と同じじゃ、一休みしたら家に送ってあげよう、異常があれば連絡したまえ」


 そう言うと博士は出ていった、息子の先生と玲奈が残った、先生はデータを収集している、玲奈が話す。


「先生、ご主人様に研究所を案内してもいいですか?」

「ああ構わないよ、私はここにいるから早めに戻って来なさい」

「はい、ご主人様行きましょ」


 玲奈にいろんな場所を見せて貰ったが、どこも病院みたいな部屋と、大きな手術室ばかりだ。


「ここが私がいた部屋よ」


 中にはベッドと机とノートパソコンだけが置いてあった。


「確かに何もない部屋だな」

「でしょ? そろそろ戻りましょう」


 俺がいた部屋に戻ると先生が待っていた。


「異常はないみたいだね、筋力が増えて力が増したからそこだけ注意しなさい」

「わかりました」

「一階に車を用意している、帰ってゆっくりしなさい」

「手術代はどうすればいいですか?」

「別にいらないよ、気にしないでくれ」

「ありがとうございます」


 一階に車が停まっていて、運転手がドアを開けた、乗り込み発車し山道を抜け一時間程でマンションに戻って来た、俺からすればさっき花火大会が終わったとこだが、三日が過ぎていた。


 玲奈がスマホを渡してきた。


「頑丈だから無傷よ」

「ありがとう、心配かけてすまない」


 玲奈がボロボロ泣きながら、ギュッと抱きついてきた。


「体がバラバラになって、血が飛び散って大変だったんだから、でも帰って来れてよかったわ」

「改造人間になってしまったがな」

「そんな事はいいの、ご主人様に変わりないんだから」

「女の子はどうなった?」

「打撲だけよ」

「それならよかった」

「三日分愛して下さい」

「わかった」

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