其の五・海、ヤキモチ

 四日後の火曜、クラスの奴らと小一時間電車に乗って、海水浴場にやって来た、時間が早いせいでまだ人は少ない、いい場所を陣取りシートを広げ、男から交代で水着に着替えに行った、女子が戻って来る。


「みんな玲奈ちゃん見て、これが女子の理想のスタイルよ、肌もすべすべで触り心地が最高なの、でもスタイルの維持もお肌のケアも何もしてないらしいわ、真田君以外触っちゃダメよ」


 男二人が触りたそうにしてる、俺は玲奈の体が頭以外、全身産毛一本すら生えてない事は知っている、玲奈の写真を何枚か撮った。


 暫く浜辺でみんなと遊んでいたが、人が増えて来たので、カップル一組が交代で荷物の番をし、四人ずつで遊んだ。


 俺と玲奈が荷物の番の順番になった、玲奈が複雑そうな表情をしている。


「どうした? 何かあったのか?」

「ううん、ちょっと心がモヤモヤするの、こんな感情は初めてで戸惑ってるの」

「俺が原因か?」

「さぁ知らない」


 頬を膨らましプイッと顔を逸らされた、明らかに俺が原因みたいだが、思い出しても心当たりがないし、玲奈にかける言葉も見つからない、俺は体を焼きながら考えてる間に眠ってしまった。


「ご主人様、お昼ご飯です」

「真田、お前たちの番だぞ」


 起き上がったら体がヒリヒリする、昼からは背中を焼こう。


「玲奈、何か食べに行こう」

「はい」


 カレーと焼きそばを食べた、今は玲奈は普通だ、当たり障りない話をしてみんなのとこへ戻った。


「真田、これからどうする?」

「俺は体を焼く、みんなは海で楽しんで来てくれ」

「わかった、焼き過ぎるなよ」


 玲奈の写真を何枚か撮り、また体を焼き始めた、玲奈はまだ機嫌が悪いのだろうか?


「荷物は私が見ておくので、ご主人様は体を焼いて下さい」

「悪いな、そうさせて貰うよ」


 一時間程経っただろうか? 背中がヒリヒリしてきて起きた、同時に他の四人も戻ってきた。


「人が多すぎて遊べねえ、十分楽しんだし帰るか」


 荷物を片付けていると、玲奈がナンパされていた、俺は怒鳴った。


「俺の女に気安く手を出すな」

「すまんすまん」


 あっさりと追い払った、全員着替えが終わるとまた電車で帰路についた、女三人はお喋りに夢中で男三人はウトウトと眠った。


「三人共起きて、次降りるわよ」


 電車から降りるとそこで解散になった、玲奈とマンションに戻り、シャワーを浴びた、会話は少なく二人でアイスを食べると、玲奈はまた険しい表情で、足を抱えて無言になった、一時間経っても喋らないので俺はしびれを切らし声をかけた。


「玲奈、何があったか話してくれないと、この状態が長引くぞ、いいのか?」


 すると玲奈が大きな声で言った。


「私も何でこんなにモヤモヤするのかわからないの」

「きっかけは何だ? 俺が何をした?」

「ご主人様が他の女ばかり見てたのがきっかけよ、凄く嫌な気分になって、この感情が何かわからないの」

「俺は他の女をジロジロ見てないぞ、何かの勘違いだ」

「見てたもん、他のお客さんの体を見てた」

「見たかもしれないが、俺はお前にしか興味はない」

「じゃあ何でこんなにモヤモヤするの?」

「それは嫉妬だ、俺が他の女を見てヤキモチを焼いてるんじゃないか?」

「嫉妬? ヤキモチ?」

「ああそうだ、お前は勘違いで嫉妬して心がモヤモヤしてるんだ」

「この感情が嫉妬なのね、少し落ち着いて来たわ、でもわがままで重いかもしれないけど他の女はジロジロ見ないで欲しい」

「わかったから機嫌を直してくれ、俺も悪かったがお前も独占欲が強すぎるぞ」

「わかりました、ごめんなさい」

「これで仲直りしてくれるか?」

「はい、仲直りしたいです」

「じゃあ元に戻ってくれよ」

「はい、独占欲が強くて嫉妬深くてごめんなさい」

「それだけ俺が好きって事だろ? 俺も気を付けるよ」

「ご主人様が大好きなの、好きすぎてたまらないの」

「俺もお前が大好きだ、愛してる」


 玲奈が抱きついて来て泣いた、俺も抱き締めてやった、すぐに玲奈の機嫌が直った。


「今度から気付いたらすぐに言ってくれ」

「はい、溜め込むとダメですね」

「その通りだ」

「ナンパされた時、俺の女って言ってくれたのは嬉しかったです」

「俺も独占欲は強いからな、お前は一生俺の女だ」

「えへへ、嬉しいです」

「花火大会は二人きりで行こうな」

「はい、映像でしか見たことないです」

「お前海で何回ナンパされたんだ?」

「十回ほどです」

「そんなにか、花火大会の時は俺から離れるなよ」

「はい、ずっと手を繋いでて下さい」

「わかった」

「ところでご主人様、聞きたい事があるんですが」

「何だ?」

「ご主人様は今まで、何人と付き合った事がありますか?」

「付き合ったうちに入るかわからんが、一人いた事がある、告白されて付き合って二週間で別れた」

「その人とキスは?」

「一回だけ、強引にされた」

「体の関係は?」

「一回だけある、これも強引にされた」

「そうですか、なんか複雑な気分です、ご主人様もその人が好きだったんですか?」

「好きは好きだったが、お前に感じる程の愛情はなかった」

「じゃあ本当に愛したのは私だけ?」

「そうだ、お前が初めてだ」

「安心しました、これからも私だけを愛してくれますか?」

「ああお前だけを愛し続けると約束する」

「じゃあもっと態度で示して下さい」

「態度でって、例えば何だ?」

「もっとキスやスキンシップの回数を増やして下さい、少なすぎます」

「わかった、お前も結構はっきり言うようになったな」

「私に心を与えたのはご主人様ですよ、欲望も出てきます」

「そうだな」


 俺は玲奈の太ももに頭を乗せて、目を閉じた、今日は疲れた。

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